レアル・マドリー、クラシコでの敗戦の要因と今後

小澤一郎

クライシス、満身創痍だったレアル・マドリー

レアル・マドリーは守備的な戦術で試合終了間際までバルセロナを無得点に抑えた 【Getty Images】

「億万長者になるにはいい機会」とレアル・マドリーのファンデ・ラモス監督が冗談交じりで語った通り、今回の“エル・クラシコ”(伝統の一戦)に対するオンラインカジノのオッズは極端だった。例えば、レアル・マドリーのメーンスポンサーである『bwin.com』ではバルセロナの勝利が1.55倍前後、引き分け3.60倍、レアル・マドリーの勝利が5.60倍だった。ちなみに、5.60倍という倍率はリーガ・エスパニョーラの第15節の中では最も高いものだった。これほどまでに、レアル・マドリーが負けると予想されたクラシコが過去にあっただろうか?

 ただ、戦前のチーム状況を見れば両チームの差は一目瞭然(りょうぜん)。9日に行われた欧州チャンピオンズリーグ(CL)のシャフタル・ドネツク戦に2−3で敗れたことで、リーガ第2節のラシン戦(1−1)以来維持してきた公式戦無敗記録が20試合でストップしたバルセロナだが、シャフタル戦では主力を温存する大胆なローテーションが採用されたため、クラシコに向けてはむしろプラス材料。
 一方、レアル・マドリーはCLのゼニト・サンクトペテルブルク戦の前日にベルント・シュスター監督を解任し、ラモス監督の就任を発表した。7日のセビージャ戦後に「(今のバルセロナ相手に)カンプノウで勝つのは不可能」と発言したことがこの電撃解任の決定打になったと見られているが、クラシコ4日前の監督交代で再びクラブの迷走ぶりを露呈してしまい、レアル・マドリー寄りのメディアからも「クライシス(危機)」、「茶番劇」との批判が上がった。

 それに加えて、減らないけが人とロッベン、マルセロの出場停止。特にけが人リストには、今季絶望のファン・ニステルローイ、ディアラ、デ・ラ・レッドのほか、ペペ、エインセ、ミゲル・トーレスが名前を連ね、出場停止の2名を含め合計8選手が欠場。まさに満身創痍(そうい)の中でレアル・マドリーはクラシコを迎えることになった。

レアル・マドリーの守備的戦術

 レアル・マドリーとバルセロナが対照的な状況でのキックオフとなったクラシコだが、両チームの布陣で最大の注目ポイントとなったのが、メッシと対峙(たいじ)するレアル・マドリーの左サイドバック。マルセロ、エインセが不在の左サイドバックには当初、ゼニト戦の後半に試されたサルガドが入ると予想されていたが、ラモス監督は彼のスピード不足を懸念し、最終的にセルヒオ・ラモスの起用を決断。よってディフェンスラインの並びは、右からサルガド、メツェルダー、カンナバーロ、セルヒオ・ラモスとなり、中盤では試合直前まで出場が微妙視されたスナイデルが強行出場した。
 対するバルセロナは予想通りの布陣で、中盤にはバレンシア戦でいい動きを見せたグジョンセンが入り、前線には万全のコンディションのメッシ、エトー、アンリがそろい踏みした。

 開始から中盤で激しいボールの奪い合いが続いたが、試合の展開を決めたのはレアル・マドリーの守備的な戦術だった。バルセロナの攻撃力と前線のスピードを警戒したレアル・マドリーは、かなり深い位置にディフェンスラインをセットすると、中盤のブロックもそれに連動して自陣のペナルティーエリア近くまで下げた。普段、ガゴと前後の関係を保つグティも、この日は横並びのポジション取りで守備的な仕事に専念。2トップのイグアイン、ラウルも精力的なチェイシングで自陣に戻り、前半開始からレアル・マドリーは11人全員が自陣に引いて守るサッカーを実践した。

 ただ、予想以上にレアル・マドリーの守備戦術は機能し、バルセロナを苦しめる試合展開が続く。レアル・マドリーは、バルセロナに主導権を握られたが、ペナルティーエリア付近で“壁”を築いて決定機を作らせず、カシージャスのPKストップを含めて82分まで無失点に抑えた。ラモス監督が試合後、「明らかな決定機はわれわれにあった」と語った通り、前半のドレンテ、後半のパランカの得点チャンスは、共にGKバルデスと1対1になるという決定的なものだった。シュート数19対6、ボール支配率66%対34%というスタッツから見ても、内容はバルセロナに軍配が上がったといえるが、終盤までは勝ち点獲得の可能性を感じさせる流れだった。

 失礼を承知で言わせてもらえば、今回のクラシコは「レアル・マドリーが健闘した」と言えるだろう。その要因を分析すれば、大きく心理的なものと戦術的なものに分けられる。
 まず心理面を見ると、両チームに小さいようで大きい要素が隠されている。戦前からバルセロナの地元では「5−0、6−0で大勝する」、「1−0や2―0といったきん差の勝利では失望だ」といった声が上がっていたが、同じくあった危惧(きぐ)の通り、こうした楽勝ムードは選手へのプレッシャーとなっていた。

 試合前日の会見でジョゼップ・グアルディオラ監督は、「レアル・マドリーは(昨季の)チャンピオンチームだ。チャンピオン相手に5−0、6−0で勝つことなどできない」と、周囲の楽観ムードにくぎを刺したが、試合開始直後のバルセロナには、早い時間帯での得点(と、その先の大量得点)を狙う焦りと力みが見えた。反対にレアル・マドリーは、開き直ってプライドやスタイルをかなぐり捨てることができた。「とにかく守る」という一点に集中したプレーができるようになり、守備から試合のリズムを作ることができた。
 一般的にサッカーにおいて、戦術や試合のリズムは守備から作る方が簡単で、こうした守備的な戦い方はレアル・マドリーほどのビッグクラブの哲学にはないはずだが、この試合に限って言えばラモス監督や選手にほかのオプションはなかった。

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会人経験を経て渡西。2010年までバレンシアで5年間活動。2024年6月からは家族で再びスペインに移住。日本とスペインで育成年代の指導経験あり。現在は、U-NEXTの専属解説者としてLALIGAの解説や関連番組の出演などもこなす。著書19冊(訳構成書含む)、新刊に「スペインで『上手い選手』が育つワケ」(ぱる出版)、「サッカー戦術の教科書」(マイナビ出版)。二児の父・パパコーチ。YouTube「Periodista」チャンネル。(株)アレナトーレ所属。

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