対岸の火事ではないプロレス界の訃報

松浦俊秀
 今年10月、プロレスデビューしたばかりの由利大輔さんが練習中の事故で帰らぬ人となってしまったという。日々の取材活動に追われていると格闘競技が持つ危険性に鈍感になってしまいがちだが、この手のニュースを聞くたびに「襟を正さなければ」という思いに駆られてしまう。

 今回、事故が起こったのはプロレスだが、格闘技界にとっては対岸の火事では済まされない出来事だ。あるレフェリーは「今日も事故が起こらなくてホッとした」と大会ごとに思うそうで、我々はいかに危険なものを取材対象にしているのかというのを、まざまざと実感している最中である。

 筆者が安全性を気にかけるキッカケとなったのは、実は格闘技ではなくプロレスだ。2000年4月、宮城県気仙沼市で新日本プロレスを取材した私は、リングサイド最前列で福田雅一さんの事故現場に遭遇。福田さんの死に直面してからは、遅すぎるストップや、ずさんな大会運営には露骨に眉をひそめるようになってしまったのである。
 相手の体にダメージを与えることを目的とするのが格闘技(もちろん技術を競うものもあるが)である以上、その対極に位置する安全性を100%確保することは難しい。だが、この手の訃報を少しでも減らすべく、大会に関わるすべての人々は今一度、安全性についてじっくりと考える必要があるように思う。

 KOシーンを量産するため、唐突に延長ラウンドを追加。3Rの途中に、なんと片方の選手がマウスピースを装着していないことが発覚。ルールで禁止されているコスチュームで堂々とファイト(なぜかレフェリーも、それを黙認)。キックルールなのに投げ技が横行――。これらは筆者が実際に目にした、地方の格闘技大会(と呼んでいいのか……)のワンシーンだ。おそらく探せば、もっとひどい大会も出てくるだろう。ここまで来れば、もはや事故が起こるのも時間の問題だ。

 いくら体や技術を磨いても、事故が起きる時は起きる。ただ、その確率を少しでも抑える意味でも、微力ながら今後も安全性につい警鐘を鳴らし続けたいと思っている。
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