ヒンギスに完敗した中村、次の手は=全豪オープン

武田薫

回戦に進出するもヒンギスには完敗を喫した中村。さらなる躍進のために進むべき道は…… 【Getty Images/AFLO】

 マルチナ・ヒンギス(スイス)の黄金時代は10年前、1997年である。17歳にして全豪オープンに勝ち、全仏オープンは準優勝だったものの、ウィンブルドン、全米オープンを立て続けに奪った。小柄で特に足が速いわけでもなかったが、当時は「どこに打っても、ボールを待ち構えている」とトップ選手もお手上げ状態で、アンティシペーション(展開の先読み)と視力の良さが指摘された。
 一種のバーンアウト(燃え尽き)から2003年にツアーを離れ、3年間のブランクの後に戻ったのが昨年のこの大会前夜(06年1月モンディアル・オーストラリア女子ハードコート選手権)だった。マリア・シャラポワ(ロシア)を筆頭にしたパワー全盛時代に、安定した成績を残すのは難しいだろうと誰もが感じていた。にもかかわらず、昨年1年でランキングを7位まで上げ、この大会は第6シード。中村藍子(ニッケ)との試合は、全盛期を思わせる完ぺきな内容だった。
 多彩なショットさばきが今の時代には新鮮で、一つとして同じボールがない配球で中村を揺さぶり、両手打ちが嫌がる懐の高い位置に打ち込んでは体勢を崩した。格の違いは明らかであり、負けた中村もさばさばしていた。

「格の違い」で終わらないために

 ヒンギスにとって、この中村は想定外の相手だった。本人は、中村が2回戦で倒したサニア・ミルザ(インド)が勝ち上がるとばかり思っていた。中村とは初対決だが、ミルザとは過去3度対戦し、昨年の韓国オープンではミルザが勝っている。
 関西テニス協会の川廷栄一会長は、中村が大阪出身ということもあり、ミルザを破った試合が今年の日本勢の最大の収穫だと強調した。その通りだろう。ミルザは、強烈なストロークを武器にアジア系では珍しいほど攻撃的なテニスを展開する。中村はそのミルザの一本調子をうまくコントロールして駒を進めた。
 ミルザには勝った中村が、ミルザが勝ったことのあるヒンギスに手も足も出なかった――こうした比較は詮の無いことだが、気になることがある。

 すでに経験という特別な武器を身につけている杉山愛(ワコール)はさておき、森上亜希子(ミキハウス)、中村といった日本選手には一つの傾向がある。サーブ、ストローク、ネットプレーの平均点の高さで地位を維持している。技術に欠陥はないが、これといって光るものに欠ける。ミルザのテニスは荒いが、攻めのストロークと戦う姿勢には相手をどぎまぎさせるほど強烈なものがあり、それが金星をもたらす。
 これは、中村や森上といった選手だけの問題ではないだろう。指導者はそういう教え方をしているだろうし、日本にはそういう教え方しかなじまない伝統、風土があるのではないか。となれば、それは良い悪いの問題ではなくなる。だったらどうするか……。何を目指すか。そう考え直さないと、中村の敗戦は単に格の違いで片付けられてしまう。

[試合結果]
○マルチナ・ヒンギス(スイス)
6−2、6−1
●中村藍子

<了>
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

宮城県仙台市出身。男性。巨人系スポーツ紙の運動部、整理部を経て、1985年からフリーの立場で野球、マラソン、テニスを中心に活動。新聞メディアや競技団体を批判する辛口ライターとして知られながら、この頃は甘くなったとの声も。テニスは85年のフレンチオープンから4大大会を取材。いっさいのスポーツに手を出さなかったが、最近、ゴルフを開始。フライフィッシングはプロ級を自認する

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント