負けず嫌いを発揮した浅田真央=全日本選手権

辛仁夏

フィギュアスケートの全日本選手権で浅田真が2連覇を達成 【(C)坂本清】

 08年3月にスウェーデンで行われる世界選手権の代表選考を兼ねた全日本選手権で、大会2連覇を成し遂げた浅田真央は「初めてこんな大きな大会で連覇ができたのですごくうれしいです」と素直に喜んだ。試合前日会見では「(連覇は)これまでチャンスはあったけどできなかったし、大きな大会の連覇は一度もないのでやってみたい」と意気込みを語っていただけに、目標を達成したことがうれしそうだった。

 今季は前半戦のグランプリ(GP)2大会で優勝するなど、結果だけをみれば成績を残してきたが、シーズンごとにレベルアップを図っている「バンクーバー五輪の星」にとっては決して満足のいくできではなかった。シーズン最初の大会だった日米対抗戦から、昨季はノーミスの演技を見せていたショートプログラム(SP)で、ジャンプの失敗を繰り返してきたからだ。プログラム冒頭のコンビネーションジャンプで、得意の3回転フリップ+3回転ループをミスなしで跳べない。両足着氷になったり、着氷でバランスを崩して手をついたりと、クリーンなジャンプを見せられないままだった。それに加え、武器であり、自分でも一番のジャンプだと思っているトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を試合で回避したり、回転不足を取られたりしていた。

新コスチュームを着て登場

【(C)坂本清】

 本人は失敗の原因を「気持ちの問題」と一言だけで説明し、多くを語らない。今大会前も、「初めのジャンプのことを考えるといつも駄目。何も考えずにいけば大丈夫だと思います。今季はSPがずっと駄目だったのでそれを克服して、フリーはいつもいいので、全日本は両方いい演技がしたい」と話していた。
 そして迎えた27日のSPは、気分転換やきっかけをつかむ意味で、新しいコスチュームを着て登場。姉・舞のために作っていたコスチュームを「自分に合うと思って」と着て臨んだことが功を奏したのか、今季初のノーミスの演技を見せる。課題だった最初の3+3回転のコンビネーションジャンプを跳んでみせ、最高得点の72.92点をマークして首位に立った。
 ようやく笑顔が広がった浅田は「(繰り返していたSPの失敗を)克服できたのでよかったです。やる前は、いつもフリーでは跳べているジャンプなので考えすぎないことを心がけた。一応、大きな失敗がなくて自信になった。(2つ目のジャンプの着氷で)ちょっと足がついたかなと思ったけど、スタンディングオベーションしてくれたお客さんがいてうれしかった。点数はすごくびっくりしました」と振り返った。

トリプルアクセルの失敗

【(C)坂本清】

 やっと満足いくSPを披露できたことで、フリーは「一から集中してパーフェクトな演技をしたい」と誓った浅田。しかし、28日の本番ではその言葉通りにはならなかった。今季ここまでトリプルアクセルをまともに成功させたのは、先のGPファイナルの時だけで、最大の武器は不安定になっていた。今回ももちろん挑戦したが、結果はシングルアクセル(1回転半ジャンプ)に終わる。それでも、冒頭の失敗を引きずることなく、最終グループの一番滑走者はスパイラルとスピンでレベル4の最高評価を4つ出し、基礎点に1.1倍つくプログラム後半に2つのコンビネーションジャンプを見事に成功させて、ショパンの『幻想即興曲』の調べに乗って滑り切った。
 演技直後は苦笑いを浮かべて首を傾げるしぐさを見せ、トリプルアクセルを跳べなかったことを悔やんでいたようだが、総合得点で200点台を超える205.33点が出たことに驚いていた。
 2年連続の優勝を決めた後、報道陣の前に現れた浅田は「トリプルアクセルの失敗はすごく悔しかったですけど、演技中はすぐに忘れて、次のジャンプや次の技を頑張ろうとやっていた。アクセル以外のエレメンツをしっかり決められたことがよかったんじゃないかな。今回の試合で良かったことは、SPを克服できたこと。悪かったことはトリプルアクセルをミスったって言うか、パンクしてしまったところです」と、今季の戦いぶりを象徴する2つの点を挙げていた。

自分の最高の演技

【(C)坂本清】

 追われる立場になった昨季、精神的な部分で調子の波が激しかったことを経験した17歳は、今季も気持ちの面で苦しんでいるようだ。「どうしてもマイナス思考ばかりになってしまって……。シーズン最初のSPでのミスが頭に残ってしまい、また失敗してしまったと思ってしまう。SPではジャンプのミスがよみがえって硬くなっていた」と、今季前半戦で苦しんでいた要因を明かした。
 今季は、昨季以上に難度の高いプログラム構成や全身を使ったステップの習得、そしてルールの明確化による不正エッジの減点などで、心身ともに負担が増しているのかもしれない。それが引き金となって、得意のジャンプに狂いが生じたと言えないか。トリプルアクセルしかり、3回転フリップ+3回転ループしかりだ。

 来年の世界選手権では、浅田自身にとっても周囲にとっても金メダル獲得しか意味をなさないかもしれないが、決して自らを追い込まないで挑んでほしいと思う。浅田が自分の最高の演技を出し切れば、韓国の金妍児ら世界のライバルたちとはいい勝負ができるはずだからだ。「もう一度、最後の最後に自分の演技を振り返って、全日本でできなかったことを世界選手権で出来るようにしたい。トリプルアクセルはもっと自信を持って、もっと自分の気持ちを前に持っていけたら跳べるかなと思います」と、今年3月の東京大会(世界選手権)で取り損ねた世界女王の座に向けて決意を語った。

【(C)坂本清】

 浅田の今季の前半戦を見て気になったことは、一つひとつの大会の結果やできに過度に反応して、これまでは人前で見せなかった、悔し泣きやうれし泣きが目立つようになったことだ。スポンサーやマネージメント会社がつき、周囲の期待が大きい中で多感な17歳が抱えるプレッシャーがどれだけのものかは計り知れないことだろう。ただ、大人たちの思惑に乗せられることなく、バンクーバー五輪の舞台まで、帰来の負けず嫌いを発揮し、純真な気持ちで突き進んでほしいものだ。

<了>
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著者プロフィール

 東京生まれの横浜育ち。1991年大学卒業後、東京新聞運動部に所属。スポーツ記者として取材活動を始める。テニス、フィギュアスケート、サッカーなどのオリンピック種目からニュースポーツまで幅広く取材。大学時代は初心者ながら体育会テニス部でプレー。2000年秋から1年間、韓国に語学留学。帰国後、フリーランス記者として活動の場を開拓中も、営業力がいまひとつ? 韓国語を使う仕事も始めようと思案の今日この頃。各競技の世界選手権、アジア大会など海外にも足を運ぶ。

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