渡辺監督の強い信念でCS勝ち抜いた西武=パCS第2Sリポート

永田遼太郎

シーズン同様のノーサインで片岡がチャンスメーク

 埼玉西武・渡辺久信監督の大きな体が何度となく宙を舞う。
 1回、2回、3回……5回。
 パ・リーグクライマックスシリーズ(CS)第2ステージを4勝2敗(1位・西武には1勝のアドバンテージ)で勝ち抜き、レギュラーシーズンではできなかった地元胴上げを、ライオンズブルーでスタジアム全体を染めるファンの前で見せた。
「終盤からチーム全体が苦しんだ時期がありましたけど、合宿(CS直前に7日から14日まで宮崎で強化合宿)でチームがひとつになり、いい調整ができました。何とかクライマックスを勝ち抜いて、『日本シリーズに出たい』。チーム全員の気持ちがこの結果に結びついたんだと思います」
 結末こそ9対0とワンサイドゲームになったが、シリーズ中は二転三転する苦しい戦いが続いた。そんな中でも、シーズン中と戦い方を変えることなく、CSを戦い抜いた渡辺久信監督の強い気持ちが最高の形で現れる結果となった。

 第2、第3戦を連敗した時は誰もが不安を覚えただろう。かく言う私もそうだった。特に第3戦の敗戦はジャッジの不可解な判定と言動に後味悪い敗戦を喫したが、試合後の渡辺監督は会見で笑顔を見せるなど、穏やかに振る舞い、取り乱すことが一切なかった。シーズン中と変わらない姿で居続けたのだ。
 それを象徴するシーンがある。第4戦の初回、ライト前ヒットで出塁した片岡易之がすかさず盗塁を決めた。ベンチからの指示は「行ける時に行け」。
 ノーサインでも片岡自身の判断で積極的に走らせスタイルはシーズン中と変わらない。失敗に終われば、嫌なムードが立ち込めかねないが、この同じスタイルが結果的に連敗中のチームを活性させた。
「(盗塁は)ノーサインです。クライマックスに入ってから、ずっと調子は良くなかったけど、今日はいい流れをつくれたと思います」
 短期決戦で必ずキーになる足を使っての速攻。片岡は続く第5戦でも3回と8回に同様のチャンスメイクをして大量点につなげた。片岡、栗山の“超攻撃的1、2番”が次の舞台でも大きなポイントになってくるだろう。

監督の粋なさい配でエース涌井が復活

 このシリーズ、片岡の活躍以上に忘れてはいけないのがエース涌井秀章の復活劇だ。CS初戦は6回1失点で勝利投手。そして、胴上げを決めた第5戦は制球を持ち味にする彼らしさが出た最高の投球を見せた。腕をしっかり振って、コーナーの低めにボールを集める原点回帰のようなピッチング。7回2死までは北海道日本ハム打線をパーフェクト抑える快投だった。
「完全試合はできると思っていなかった」
「今日の良かったところはストライク先行で行けたし、腕もいつもより振れていたこと」
 大舞台での大記録こそ逃したものの、CS制覇に導く無四球、3安打の完封勝ち。球数は実に104球だった。
「シーズンではしっかり投げることができなかったので、今日は自分で決めるつもりでいた」
 昨季の最多勝投手も、今季は10勝11敗とふがいないレギュラーシーズンを送った。ひとつ負け越しに終わった傷心のエースに汚名返上のチャンスを与えた渡辺監督の粋なさい配がここでも光った。終わってみれば、シリーズ2勝、防御率0.60の成績でシリーズMVPに輝いた。

 俗に“短期決戦の戦い方”と言われるものがある。それでもレギュラーシーズン同様、戦い方を変えなかった渡辺監督のさい配は逆に自信の表れとも言える。選手と首脳陣の結束がさらに増した感があるこのクライマックスシリーズ。4年ぶりの日本一に向って、このまま一気に突き進む。

<了>
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著者プロフィール

1972年生まれ、茨城県出身。格闘技雑誌編集を経て、2004年からフリーとして活動開始。同時に、学生時代の野球経験を生かし野球ライターとしての活動もスタート。中学生からプロに至るまで幅広い範囲で野球取材を行っている。少年時代からのパ・リーグびいきで、現在は千葉ロッテマリーンズと西武ライオンズを主に取材。『ホームラン』(日本スポーツ出版社)、『スポルティーバ』(集英社)などの雑誌媒体の他、マリーンズオフィシャル携帯サイトやファンクラブ会報誌などにも寄稿している。

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