それぞれの思いが交錯したミラノ・ダービー

ホンマヨシカ

楽観的でお祭りムードのミラン

ミラノ・ダービーでゴールを決めミランを勝利に導いたロナウジーニョ 【Getty Images/AFLO】

 28日の日曜日、268試合目となるデルビー・ミラネーゼ(ミラノ・ダービー)が行われた。最初に行われたのは1908年だったから、今回がちょうど100周年となるデルビー・ミラネーゼだった。ちなみに、最初の対戦はミラノで行われていない。試合開催地は、スイスのイタリア語地区で最もイタリア国境に近い町キアッソだった。なぜキアッソで行われたのかというと、キアッソで開催された第3回コッパ・キアッソに両チームが参加したからだ。この初めてのデルビー・ミラネーゼの結果は、ミランが2−1でインテルを下している。

 さて、100周年目となった今回の対戦に触れる前に、ダービーマッチに挑む両チームの状態を確かめておきたい。
 まず今回ホームゲームとなるミランだが、ボローニャとの開幕戦と第2節のジェノア戦に連敗するという惨憺(さんたん)たるスタートを切った。スタートでのつまずきの原因は、何人かの主力選手の負傷と、多くの選手のコンディションの悪さだった。選手たちの調整不足は8月のプレシーズンマッチから続いていたが、世界的なスター選手のロナウジーニョ獲得という派手なニュースのせいで危機意識は隅に押しやられ、いくらなんでも、開幕戦までにはコンディションを調整してくるだろう、という楽観的な空気がチームを覆っていた。これは、ミランの開幕戦の雰囲気に接した人ならすぐに理解できただろう。開幕戦の対戦相手がセリエBから昇格したばかりのボローニャということもあリ、試合前からロナウジーニョのお披露目と、シェフチェンコの復帰を祝うお祭りムードが漂っていた。

 このお祭りムードは、ボローニャに敗れた後も感じられた。
 サンシーロを埋め尽くした多くのミラニスタ(ミランのファン)たちは、ボローニャ戦での敗戦に対する不満よりも、試合の後半に見せたロナウジーニョのサーカスまがいのトリッキーなプレーに満足して帰宅した。
 ロナウジーニョがこの試合の後半に見せた妙技は、確かにスペクタクルそのもので、お金を払って見る価値のあるものだということは理解できる。しかし、“走ること”をしなかった(できなかった)ロナウジーニョや、コンディションの悪さを見せたピルロらにとって、改善しなければならない課題が浮き彫りとなった試合だった。

 楽観的だったミランが本気で危機感を感じ始めたのは、ジェノアとのアウエー戦に敗れてからだった。ほかのクラブなら、不振だった昨シーズンの成績も考え合わせて、監督の首が飛んでいても仕方のない状況だったが、そこはクラブにとってもファミリーの一員として受け入れられているアンチェロッティ監督。持って生まれた性格の良さに加えて、選手からの信頼も揺らいでいないこともあり、解任には至らなかった。それに、この時点で失敗だと批判されたミランの補強がアンチェロッティ監督の意向で行われたのではなく、クラブ首脳陣の意向で行われたことにもよるだろう。しかしそうは言っても、次の試合で結果を出さなければならない状況まで追い込まれていたことは確かだった。

インテルの名監督モリーニョとエレニオ・エレーラ

 ミランの次の相手は、ホームでのUEFAカップ・チューリヒ戦。チューリヒの実力がセリエBのレベルだということは、ミランにとって幸運だった。ミランは危なげない試合で3−1と勝利し、結果的にこの勝利がミラン復活への足がかりとなった。
 21日のセリエA第3節の相手は、開幕2連勝と最高のスタートを切ったラツィオ。今シーズンのラツィオは新戦力のアルゼンチン人アタッカー、サラテが素晴らしく、中盤とディフェンスラインもよく鍛えられており、コンパクトにまとまったチームに仕上がっている。ミランはチューリヒ戦同様に、まったく動けず仕事ができないロナウジーニョをスタメンから外して挑んだ。
 チューリヒ戦以降、選手のコンディションが確実に戻ってきているミランは、好調ラツィオを相手に、ザンブロッタとカカのスーパーゴールなどが決まり、4−1と大差で勝利した。この勝利で勢いを取り戻したミランは、第4節のアウエーでのレッジーナ戦でも勝利し、開幕以来の戦績を2勝2敗の五分に戻して、インテルとのダービーマッチを迎えた。

 対するインテルは、新監督モリーニョがシーズンオフから話題を独占していた。自らを「スペシャル・ワン」と公言するように、己の仕事と能力への自信が言葉の端々に表れている。そこまではっきり言われると、嫌味に感じるのではなく逆に「あっぱれ!」と掛け声の一つも掛けて見たくなる。モリーニョのインタビューに群がるイタリアのジャーナリストたちもそう感じていたようで、インタビューの最中に拍手が起こることもあった。
 60年代のインテルの名監督“HH”ことエレニオ・エレーラと比べる記事もあった。エレーラも大変な自信家であり、モリーニョ同様に強烈なカリスマ性を放っていた。両者の違いは、エレーラのイタリア語は何十年経っても上達しなかったが、モリーニョはすでに流暢(りゅうちょう)なイタリア語を話せることだ。このカリスマ監督モリーニョが率いるインテルは第4節終了時点で3勝1分けの勝ち点10、早くも首位に立っていた。しかし、試合内容は決して満足できるものではなかった。

 モリーニョに与えられたチームは、昨シーズンスクデット(セリエA優勝)を獲得したチームをほぼそのまま温存し、加えてマンシーニとクアレスマ、ムンタリの3選手が加わった、よりパワーアップした陣容だ。首位に立って当然と言われても反論できないだろう。もし、マンチーニ監督が留任していたとして、このような試合内容をしていたのなら、批判の声が挙がっていたに違いない。
 今のところ批判の声が表立って聞こえてこないのは、就任から3カ月足らずで、まだモリーニョの戦術がチームに行きわたっていないということもあるのだろう。だが僕には、マスコミも含めた周囲の人々が、モリーニョのカリスマ性に魅了され、採点が甘くなっているように思えて仕方がない。

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著者プロフィール

1953年奈良県生まれ。74年に美術勉強のためにイタリアに渡る。現地の美術学校卒業後、ファッション・イラストレーターを経て、フリーの造形作家として活動。サッカーの魅力に憑(つ)かれて44年。そもそも留学の動機は、本場のサッカーを生で観戦するためであった。現在『欧州サッカー批評』(双葉社)にイラスト&コラムを連載中

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