日本人が世界で勝つためには――

松浦俊秀
 先日、幸運にも修斗世界ウェルター級チャンピオンの中蔵隆志と、じっくり話しをする機会を得た。興味深い話が次々と飛び出すなか、筆者をもっとも驚かせたのは中蔵の優れた洞察力。初取材のときから「頭の良い選手だな」とは思っていたが、話を聞くうちにさらにその思いを強くした。

 筆者が興味本位で、戦極で行われた五味隆典vs.ハン・スーファンの感想を求めたときのことだ。中蔵は「まだ映像を見てないんですよ」と前置きしながら、「構えはサウスポーではなくオーソドックスが主体でした」というこちらのヒント一つだけで、その後の試合展開をスラスラと的中。ある程度、経験を積んだファイターなら当然なのかもしれないが、自分のような試合未経験者には目が点になるような内容だった。

「オーソドックスということは、右のローキックを多用したということでしょうね。当然、五味選手はスーファンの右を警戒していたでしょうから、体重の乗る左足を攻めてスーファンをスイッチさせたかったんでしょう。かりにスーファンがスイッチしなくても、ローが効けば右のパンチはそれほど怖くなくなりますからね……」

似通った部分が多い中蔵と郷野

 このあとも中蔵の試合“未観戦”評は続いた(よって上記のコメントは、ほんの一部分)。そして驚くべきことに、そのいずれもが正解だった。「本当は映像見たでしょ?」と突っ込みたくなるくらいの的中率。まさに感服である。おそらく中蔵ほどの洞察力と経験があれば、大半の選手を丸裸にすることができるのだろう。その上で中蔵には、吉鷹弘氏という名参謀がついている。優れた理論と、それを試合で実践できる技術力。中蔵が環太平洋と世界王座を立て続けに奪取した理由の一端が、この日の会話で少し分かったような気がした。

 中蔵と話しをしていると、東京在住時代に取材していた郷野聡寛のことを思い出す。頭の回転の速さ、優れた技術論、それを語れるボキャブラリーの多さ、そしてファイトスタイル。この二人は実に似通った部分が多いのである。
 そういえば両者ともに日本人が外国人選手に打ち勝つためには、「頭を使った戦いを実践しなければ難しい」といったニュアンスのコメントを残していた。なにかと玉砕覚悟で突っ込む選手が重宝されがちだが、彼らのような選手が正当に評価される土壌ができれば……。話しを続けながら、思わずそんなことを考えてしまった。
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