北京の空に日は昇った ビーチ朝日・白鳥組が刻んだ歴史

岩本勝暁

日本人男子初の決勝トーナメント進出

ビーチバレーで日本人男子として初めて決勝トーナメント進出を果たした朝日(右)、白鳥のペア 【Photo:ロイター/アフロ】

 紙一重の内容で、米国組に敗れた。だが、次のゲームが始まっても、会場をあとにする日本人は誰一人としていない。
 夜の朝陽公園ビーチバレーグラウンド。昼間の大雨が北京の空気を洗い流し、心地よくも肌寒い風が肌をなでる。皆がそこに留まり続けた理由はただ一つ。朝日健太郎(CHINTAI)、白鳥勝浩(湘南ベルマーレ)組の決勝トーナメント進出が、同じF組のオランダ組対ドイツ組の結果で決まるからだ。場合によっては、そのあとからはじまる敗者復活戦まで見届けなければならない。

 会場中が息をのむ中、オランダ組がドイツ組をストレートで下した。これによって、3戦全勝の米国組を除く3チームが1勝2敗で並んだ。セット率と直接対決の関係によって、オランダ組に勝った朝日、白鳥が2位で決勝トーナメント進出。1996年のアトランタ五輪から正式種目になったビーチバレーで、日本人男子としては初めての快挙だった。

第2戦での記念すべき初勝利

 朝日と白鳥の2人は、試合を重ねるごとに調子を上げていった。豪雨と雷から手荒い歓迎を受けた10日のドイツ戦は、ストレートで敗れた。だが、内容が悪かったわけではない。実力にそれほど大きな差もなかった。粘り強く戦い、シーソーゲームを展開した。

 ハイライトは12日のオランダ戦だ。序盤こそリードを許したものの、サーブの狙いを203センチのロネスに定めてリズムをつかんだ。朝日のブロックでスパイクのコースを限定し、後ろで構える白鳥が抜群のポジション取りでボールを拾う。2人の関係性が完ぺきにマッチすることで、多少の変化にも崩れることはない。白鳥のラインショットを皮切りに、朝日が立て続けにブロックを決めて13−12と逆転に成功。終盤の5連続得点で突き放し、第1セットを先取した。
 続く第2セットこそ落としたものの、主導権は完全に朝日、白鳥のものだった。序盤に朝日のブロックでリードを広げると、白鳥の好レシーブから粘り強くラリーを制して10−6。朝日が強打と巧みなショットを使い分けて、オランダ組の攻撃を単発で切った。白鳥の「ここから! ここから!」という声が、スタンドに大きく響き渡る。最後は朝日がブルスマのスパイクをシャットアウトして、記念すべき初勝利をもぎ取った。

技術や戦術では計り知れない「世界との壁」

 2人がペアを組んだのは2年前にさかのぼる。ブロックを得意とする朝日と、レシーブに優れる白鳥。2人の波長は、時間を待たずにかみ合った。以来、国内では無敵の強さを誇った。2007年は史上初の国内ツアー全戦制覇。フランスのマルセイユで行われたワールドツアーでは、表彰台まであと一歩に迫る4位の好成績を残した。「深い穴を掘る」をテーマに、徹底して基本練習を積み重ね、その成果を五輪の舞台で明確に体現したのだ。

 決勝トーナメント1回戦の相手は世界ランク3位のマルシオ、ファビオ組(ブラジル)。フルハウスに埋まったスタンドが、観客の足踏みと同時に激しく揺れる。ここでもリズムをつかんだのは、朝日、白鳥の方だ。終始リードを奪い、13−8で最初のテクニカルタイムアウトを迎えた。しかし、粘るブラジルに追い上げを許して失セット。第2セットの終盤にも白鳥のファインプレーから3連続得点したが、開いた点差を覆すことはできなかった。

 朝日・白鳥にとって初めての五輪は9位で終了した。しかし、ニュートラルな視点で評価するなら、ブラジルとの試合で見せたわずかな差こそが「世界との壁」である。第1セットの終盤、朝日、白鳥は20−18と先にセットポイントを奪った。ここから朝日が相手のブロックにつかまり、逆転でこのセットを落とした。技術や戦術では計り知れない壁が、そこには存在した。これを乗り越えない限り、日本人が表彰台に立つ日はない。

 日本ビーチバレー界の歴史に新たな1ページを刻んだこの日、2人にとっての第2章が幕を開けた。

<了>
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著者プロフィール

1972年、大阪府出身。大学卒業後、編集職を経て2002年からフリーランスのスポーツライターとして活動する。サッカーは日本代表、Jリーグから第4種まで、カテゴリーを問わず取材。また、バレーボールやビーチバレー、競泳、セパタクローなど数々のスポーツの現場に足を運ぶ。

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