“人工消雨”作戦成功!? 開会式は「雨なし」の裏側

朝倉浩之

五輪の各会場では無料のレインコートが準備されるなど、徹底した天候対策が行われている 【Photo:Getty Images/アフロ】

 北京は例年、夏から秋口にかけて、ほとんど雨が降ることはない。去年まで、私は傘を持っていなかった。いったん雨が降り出しても、しょせんは夕立程度で、すぐに降り止むことを知っているからだ。
 だが、今年の北京はなぜか、やたら雨が多い。誰かと出会ったときに天気の話題が出るのは日本だけだと思っていたが、今は北京市民の間でも、「今日はいいお天気になったね」という会話が当たり前のように交わされている。

かつてないほど天気予報に敏感

 各会場では、五輪期間中、毎日3時間ごとにピンポイント天気予報が出されている。また専用のスタッフが天気を見守り、夕立の可能性があれば、無料のレインコートが準備され、観客や選手らに配られるようになっている。10日夕方に強く降った雨によって、テニスなど一部種目が中止となったが、気象予報によると期間中、あと2,3日は雨の可能性があるということだ。スポーツイベントの常として、天気次第では、日程の大幅変更が必要になるとあって、運営側もかつてないほど天気予報に敏感となっている。

 ただ8日に行われた五輪開会式は、その天気に自ら積極的に働きかけて変えてしまうという驚くべき試みが行われた。その日、北京市内は朝から、どんよりとした曇りの天気。昼過ぎも厚い雲に覆われ、いつ降りだしてもおかしくなかった。
 だが結果的に、郊外で大雨が降ったものの、中心部は少しポツリときたくらいで、式典の内容は予定通り、「晴れバージョン」で滞りなく行われた。これについて中国気象局の鄭国光局長は翌9日の記者会見で、当日まとまった雨の降る可能性があったことを示唆した上で、「五輪史上、初めて“人工消雨”が成功した」と胸を張った。
 おそらく日本でも多少話題になっているであろう“人工消雨”がどのように実施されたのか。明らかになっていない部分も多いが、発表されている範囲で、当日の消雨作業を振り返ってみたい。

人工消雨作戦の一部始終

 北京市は気象操作を専門的に管轄する「人口影響天気弁公室」を置いている。その責任者によると、開会式当日の8月8日早朝、北京市郊外の密雲区上空などで、まとまった雨を降らせる雲を“発見”したという。そこで14時15分、同弁公室は北京、天津、河北省の各センターに「人工消雨作戦」の決行を命じた。そして14時45分から16時25分にかけて、小型機2機が「雨雲の位置を正確に把握する」偵察のために飛び立つ。そして北京北西部と西部に雨雲があることを察知し、続いて発動した小型機2機が「催化剤」の散布による第1次人工消雨作戦を行った。

 さらに16時08分、南西方向から市中心部に向かって移動している雨雲を発見。当局はこの雨雲について、一時間当たり5ミリの雨を降らせる雲と予測し、「選手入場に影響を与える可能性あり」と判断。第2次消雨作戦の決行を命じた。夜9時半すぎ、上空の雲に1104発のミサイル弾を打ち込み、雲を散開させることに成功。また念のために1万着のレインコートを用意し、選手・役員に配り、「万一」に備えた。そして23時半、当局はすべての人工消雨作業の終了を宣言。国家体育場では、無事にプログラムが進み、中国の壮大な気象操作が“成功”に終わった。

 以上が明らかになっている範囲での人工消雨作戦の一部始終である。これらの科学的根拠については、詳しくないのであえて触れない。だが、国家体育場に一粒の雨も降らせず、プログラムを順調に終えることができたことは、2007年8月8日に人工消雨のシミュレーションが成功して以来、「この日」にかけてきたスタッフたちにとって万感の思いだっただろう。

天気さえも科学の力で変えてしまう中国

 ただ誰もが気になるのは、こういった措置が地球環境に与える影響だ。9日に開かれた北京の環境に関する記者会見で、責任者は「開幕式当日の人工消雨は、環境に何ら影響を与えない」と断言した。だが、使用した化学薬剤は「1平方キロあたり1グラム」と“ごく少量”とはいえ、今後、長い目で見て、環境に影響を与えないとは限らない。また、いくら国家を挙げたイベントとはいえ、自然に働きかけ、それを変えてしまうことの倫理的な問題もあるだろう。

 多様な気候の日本で生きるわれわれならば、雨天の場合のプログラム編成を綿密に想定した上で、あとはテルテル坊主でも作って、晴天を祈るくらいだ。だが、お天道様の気持ちさえ、科学の力で変えてしまう中国の思いには圧倒される。北京五輪の成功にかける並々ならぬ意気込みの表れともいえるが、その是非は、簡単に片付けられないことのような気もする。

<了>
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著者プロフィール

朝倉浩之

奈良県出身。1999年、民放テレビ局に入社。スポーツをメインにキャスター、ディレクターとしてスポーツ・ニュース・ドキュメンタリー等の制作・取材に関わる。2003年、中国留学をきっかけに退社。現在は中国にわたり、中国スポーツの取材、執筆を行いつつ、北京の「今」をレポートする各種ラジオ番組などにも出演している。

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