欧州8強出そろう 頂点に立つのはどの国だ!? =ユーロ2008決勝トーナメント展望

ベスト8の壁に挑むスペイン 立ちはだかるイタリア

イタリアは苦しみながらも決勝トーナメント進出を決めた 【REUTERS】

 スペインは、今大会絶好調のビジャの存在感が際立っている。初戦のロシア戦でのハットトリックを含め、ここまで4ゴール。イングランドで急成長を遂げたトーレスとともに、攻撃をけん引している。最終的に2トップを選択したルイス・アラゴネス監督の采配(さいはい)が的中した。シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、ダビド・シルバら中盤の陣容も豪華で、ボールポゼッションとパスワークを基盤に攻撃を組み立てている。常に優勝候補と言われながら、ベスト8の壁に阻まれてきたスペインだが、今回こそは過去の呪縛から逃れることができるかもしれない。

 しかし、彼らの行く手に立ちはだかるのは、W杯王者のイタリアである。2年前に世界を制したイタリアは、マルチェッロ・リッピからロベルト・ドナドーニに指揮官が変わり、再スタートを切った。今大会のイタリアはなかなかスタメンを固定できず、グループリーグ最終戦でフランスを破り、何とか決勝トーナメントへの切符を手にした。どたばたした感は否めないが、初戦のオランダ戦で0−3と完敗を喫しながら、それでも立ち直るあたりはさすが世界王者である。
 イタリアには偉大なる歴史がある。今大会のように、スタートでつまずきながらも集中力を切らさず、最終的に帳尻を合わせる力があるのだ。エースストライカーのルカ・トーニがここまでノーゴールというのは大きな誤算だが、決して調子が悪いわけではない。所属のバイエルンでもゴールを量産し、2年前のW杯の時よりも成熟している。今大会では決定機を得点に結び付けられていないが、運がなかった面も多分にある。フランス戦ではチームとしても、トーニ自身としても復調のきざしを見せており、決勝トーナメントに向けて上向きと言えるだろう。

 22日に行われるスペインとイタリアの対決は、06年W杯の決勝トーナメント1回戦、スペイン対フランスを思い起こさせる。この時もスペインはグループを首位通過し、2位で勝ち抜けたフランスと対戦した。結果はフランスが3−1で勝利し、スペインはまたも歴史の重みを知ったのだ。
 今回の対戦でスペインに有利な点は、“アズーリ”(イタリア代表の愛称)の中盤の要であるアンドレア・ピルロとジェンナーロ・ガットゥーゾが累積警告で出場停止であることだ。ドナドーニは恐らく、ミランの2人と同じように信頼を置く、ローマのコンビ(ダニエレ・デ・ロッシとアルベルト・アクイラーニ)を代わりに起用するだろう。

 ここまで順調に勝ち進んできたスペイン、苦しみながらも“死のグループ”を突破したイタリア。全く違う道のりを経て準々決勝にたどり着いた両者は、そのスタイルも異にする。スペインは1920年以来、親善試合を除く公式戦ではイタリアに勝利していない。果たして、スペインの長年の思いは達せられるだろうか。

大本命のオランダに“ヒディンク・マジック”は通じるか

オランダはロッベン(左から2人目)、スナイデル(同3人目)らも好調を維持 【REUTERS】

 今大会ここまで、最もダイナミックなフットボールを展開しているのは、間違いなくオランダである。かつての偉大なるゴールゲッター、マルコ・ファン・バステンが指揮を執るオランダは、70年代に“機械仕掛けのオレンジ”と呼ばれ一世を風靡(ふうび)したかつての代表と同じようなシステムを採用している。ベテランのストライカー、ルート・ファン・ニステルローイと新世代の選手たちがうまく融合しており、優勝候補の筆頭と言ってもいいだろう。

 06年W杯のファイナリストであるイタリアとフランスをそろって撃破することは、決して容易なことではない。しかも、最高の攻撃的フットボールで両者をずたずたに切り裂いたのだ。前述のファン・ニステルローイを筆頭に、ロビン・ファン・ペルシ、ディルク・カイト、クラース・ヤン・フンテラールらアタッカー陣のタレントには事欠かない。加えて、2列目からウェスレイ・スナイデル、アリエン・ロッベン、あるいはイブラヒム・アフェライといった得点能力の高いMFが次々と飛び出してくる。オランダが何よりすごいのは、これら前線の選手たちが頻繁にポジションチェンジを行い、あらゆる場所から攻撃を仕掛けられる点にある。しかも、そのプレーは正確さを失わないのだ。

 いまや大本命となったオランダは、準々決勝でロシアとまみえる。初戦でスペインに完敗したロシアだが、オランダ人監督フース・ヒディンクの手腕によって、グループ2位に滑り込んだ。2002年W杯では韓国を、06年はオーストラリアを率いて結果を残してきた名将は、今大会でも何か“マジック”を見せてくれるかもしれない。
 チームの主体は、CSKAモスクワやゼニト・サンクトペテルブルクを中心とする国内リーグ所属の選手たちだ。ロシアのチームは近年UEFAカップでも優勝するなど、着実に力をつけてきている。FWのロマン・パブリュチェンコら負傷者を抱えている点は不安材料だが、出場停止から戻ってきたゼニトのスター、アンドレイ・アルシャービンの存在は心強い。復帰戦となったグループリーグ最終戦のスウェーデンとの一戦でも、早速1ゴールを挙げている。

期待はずれのフランス、大健闘のポーランドとルーマニア

フランスのFWアンリは1ゴールで大会を去った 【REUTERS】

 最後に、今大会のグループリーグで失望感を与えたチームについても言及しておきたい。筆頭に挙げられるのは、間違いなくフランスだろう。2年前のW杯の時から、指揮官のレイモン・ドメネクは常に議論を巻き起こす存在だったが、今回も相変わらずだった。ティエリ・アンリ、クロード・マケレレらベテラン勢に加え、フランク・リベリーら若手にもタレントがそろっていたにもかかわらず、奪ったゴールはオランダ戦でのアンリの1点だけだった。
 ほかには、決勝トーナメントが有力と見られていたチェコとスウェーデンも、それぞれトルコ、ロシアとの直接対決に敗れ、3試合で大会から姿を消した。特にスウェーデンはズラタン・イブラヒモビッチという天才と、ヘンリク・ラーションという経験あるストライカーを擁していただけに、残念な結果に終わった。

 反対に、ポーランドやルーマニアは戦前の予想から比べると、大健闘を見せたと言っていいだろう。激戦区の中で、決勝トーナメント進出の可能性を最後まで残していたのだから。開催国のオーストリアとスイスは、地元の後押しというアドバンテージを加味しても、最初からほとんどグループ突破の可能性はなかった。

<了>

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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