それでも続くスコラーリ・ポルトガルの進む道=スイス 2−0 ポルトガル

鰐部哲也/Tetsuya Wanibe

ポルトガルの収穫は、主力を休ませることができただけ

この試合を最後に退任するクーン監督(右)と、2得点で勝利に貢献したヤキン 【Getty Images/AFLO】

 グループAの最終戦で、ポルトガルは予想通りメンバーを落としてきた。チェコ戦のスタメンから8人も入れ替えてくるのは、予想を超えていたが……。結局、完全に別の“控えチーム”をピッチに送り出したことが、スイスの意地の導火線に火をつける結果となってしまったようだ。
 しかし、それでも前半のポルトガルは、試合に出たくてうずうずしていた若い選手を中心に溌剌(はつらつ)としたプレーを見せた。特にジョゼ・モリーニョ以後のFCポルトを支えてきたメンバー5人(ブルーノ・アルベス、ぺぺ、ラウル・メイレレス、クアレスマ、ポスティガ)を主体としたコンビネーションはしっかり歯車がかみ合い、4バック、ワンボランチ、2サイドハーフ、3トップの4−3−3、いわゆる“ポルトシステム”はスムーズに機能していた。

 前半、スイスと決定的チャンスの数はそう変わらなかったとはいえ、最終ラインでボールを失うことが多い上にスピードのないスイスDF陣の裏を突いて、両サイドのクロスからポスティガがフリーでシュートを放つ場面が何回もあった。ポルトガルは、“何度も相手がくれた決定機”を前半の間に決められなかったことが、最後まで響いてしまった。

 一方のスイスも、ゴールマウスをしっかりとらえたミドルシュートでポルトガルを揺さぶってきたが、この日は守護神のリカルドが当たっていた。前半22分にはギョクハン・インレルのミドルシュートを右手一本でかき出し、前半32分にはハカン・ヤキンのシュートを左手一本ではじくスーパーセーブを見せた。
 ここまでは、流れの中からいつでもゴールが奪えそうな予感があったポルトガルの方に分があった。

 しかし、71分にポルトガルが切ったこの日2枚目のカード=ジョアン・モウティーニョ投入の直後、流れの中から先制ゴールを挙げたのはスイスだった。
 ディフェンスラインの裏へ抜け出したハカン・ヤキンが、見事な(リカルドの)股抜きゴールを決める。その後、流れを変えられなかったポルトガルは、83分にも主将のフェルナンド・メイラの不用意なファウルからPKを許し、これをまたもハカン・ヤキンにきっちり決められ万事休す。

「相変わらずチャンスをモノにできないセンターフォワード陣」「リードを許して崩れたDFの連係」など、二軍メンバーとは言えこの日のポルトガルには課題が残った。
 もちろん、「すでにグループリーグ首位通過を決めていたから」とか、「やはりスコラーリのチェルシー監督就任が選手の士気をそいだ」とか、“言い訳”に関連づけてこの試合を結論づけることはできる。だが、やはり特に後半、選手自身にプロとしての“勝利への貪欲(どんよく)さ”が欠如していたことは自明であろう。ポルトガルのこの日の収穫は、主力をしっかり休ませることができただけだった。

負けたポルトガルには次があり、勝ったスイスには次がない

 22時36分、主審のコンラッド・プラウツ氏の笛が吹かれた直後、「メルシー、コビ(クーン監督の愛称)!」の横断幕を掲げたスイスイレブン。ひとりひとりと抱き合う監督のヤコブ・クーン。スイスを率いて7年間の集大成の試合、気持ち良く(次期監督就任が決定している)オットマー・ヒッツフェルトにバトンを渡すことができるに違いない。

 しかし、負けたポルトガルに次があるのに対し、勝ったスイスには次がないのも変えがたい事実。結局、スイスはホストカントリーとして最高のホスピタリティーと安全を観客に提供することに成功したが、自国を“必死で”応援する姿勢に欠けていたのかもしれない。それはスイスの試合会場ではない、バーゼル以外のスイス各都市で顕著で、スイスの試合日もパブリックビューイングに詰め掛けるスイス人の姿はあまり見られなかった。スタジアムでも終始“お行儀の良い”応援スタイルを遵守した。束の間の宴を静かに味わったホスト国は、はじけることも狂喜乱舞することもできずに、残りの2週間を粛々と、運営スタッフとしてやり過ごすことになる。

<了>

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著者プロフィール

1972年生まれ、三重県出身。ポルトガルの首都リスボン在住。2004年から約4年間ポルトガルに滞在し、ポルトガルサッカー情報を日本に発信。その後、日本に帰国して約2年半、故郷の四日市市でポルトガル語の通訳として公務員生活を送るものの、“第二の祖国”、ポルトガルへの思慕強く、2011年3月よりポルトガルでサッカージャーナリスト活動を再開した。ブログ「ポルトガル“F”の魂」にて現地での取材観戦記なども発信中である。ポルトガルスポーツジャーナリスト協会(CNID)会員、国際スポーツプレス協会(AIPS)会員

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