新女王誕生の完ぺきなストーリー。一家の夢背負うサフィナの今後に期待=全仏オープンテニス 女子シングルス決勝

テニスネットPro

3度目のチャンスで悲願のタイトル獲得をしたイワノビッチ

悲願のメジャータイトルを獲得し、優勝トロフィーを抱きかかえるイワノビッチ 【Photo:Getty Images/AFLO】

 雑誌や新聞の編集者の多くは、ファイナリストの「どちらが絵になるか」で肩入れするものだが、そういう意味では理想的な結果になったのだろう。
 1年前、この同じ舞台で四大大会初めての決勝に進み、女王ジャスティン・エナンに3ゲームしか奪えずに敗れたアナ・イワノビッチ。今年の全豪オープンでマリア・シャラポワに屈して2度目の準優勝に涙し、眠れぬ夜を幾晩も過ごし、3度目のチャンスでついに悲願のタイトルを手にした。

 過去2度の決勝の経験を生かし、初めて決勝に勝ち進んだ相手に、昨年の自分を重ねながら、試合を支配した。来週にはランキングで新女王になることがすでに確定しており、グランドスラム・チャンピオンと世界1位の座を同時につかんだ完ぺきさ。トロフィーをエナンからじかに手渡されたことに、「最高にわくわくしたわ。観客の中に彼女の姿を見つけた時も、本当にうれしかったの」と、癒し系の笑顔を振りまきながら感激を語った。
 うがった見方をすれば、つまらないくらいに出来過ぎた話だった。あまりに分かりやすいので、不可解だったことをひとつ挙げよう。

2週間のグランドスラムの疲れが出てしまったサフィナ

最後の試合で疲れが出てしまったサフィナ。家族の夢が叶う日は来るのか? 【Photo:Getty Images/AFLO】

 敗れたディナラ・サフィナの兄は、全米と全豪のグランドスラム2度の優勝を誇るマラト・サフィンだが、初めての大舞台で妹が期待した兄の姿は、ボックス席になかった。
「来てくれるだろうと思っていたのに、残念ながら、どうしてだか来てくれなかった」
 尋ねられると、残念そうに話していた。

 試合ごとにメールでメッセージをくれた兄だが、同時に復活に懸ける一プレーヤー。その姿勢が、きっと兄の静かなメッセージだったのだ。

 試合の方は、スコア以上に見応えのある内容だった。どちらもなりふり構わずウィナーを取りに行くタイプで、どのラリーもなかなか迫力があった。勝負を分けたのは第1セットの終盤、1―4から4―4に追い付いた後の2ゲームだろう。
「リードしたところでアグレッシブに攻めきれなかった。動きが悪く、彼女のサーブでプレッシャーもかけられなかった」とサフィナは悔やむ。第9ゲームをブレークされ、次のゲームでは2度のブレークポイントを生かすことができなかった。

 このクレーシーズンの好調はフィジカルの向上だったが、初めて2週間のグランドスラムを最後まで戦った疲れがここに来て出た。第2セット、要所を押さえられずにフラストレーションのたまっていくサフィナに対して、イワノビッチは最後まで“情熱と冷静”のバランスをうまく保った。
 この1年で3度もグランドスラムの決勝に進出し、世界1位になるだけのコンスタントな結果を残しているイワノビッチは、これからもこういう舞台にまた何度も立つだろう。

■エリート一家の夢は、兄妹のメジャータイトル

 気になるのはサフィナである。もう一度大きなこんなチャンスをつかめるか――。かつて、シャラポワ、クズネツォワ、ミスキナの3人のロシア勢が、1年の四大大会のうち3つを制したロシア旋風の始まりの頃、兄は妹にこんなエールを送っていた。
「Don’t miss the train!」。乗り遅れるな、と。

 確かに乗り遅れてしまったように見えたが、あの電車に必死でしがみついていたらしい。少し遅れて駆け付けた22歳だが、振り落とされないようにまた走り出さなければいけない。
「兄妹でメジャータイトルをもし取れたなら、もうラケットを置いてもいいなって思うわ。それが私たち家族の夢だから」

 母も名コーチという、テニスのエリート一家。家族の夢は妹にかかっている。兄はその日まで力を振り絞ってプレーヤーでい続けたいのではないか。そんな出来過ぎた話を、ふと考えた。(文=山口奈緒美)

<了>
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