プラン通りの好発進=ポルトガル 2−0 トルコ

鰐部哲也/Tetsuya Wanibe

万全の準備をして臨んだトルコ戦

4年前の教訓を生かし、きっちりと初戦を勝利でスタートしたポルトガル 【Getty Images/AFLO】

 ポルトガルには、ユーロ(欧州選手権)2008初戦のトルコ戦を前に大きな「2つのジンクス」があった。ひとつは「良いジンクス」で、もうひとつは「悪いジンクス」だ。
「良いジンクス」とは言うまでもなく両者の対戦成績で、過去ポルトガルはトルコと6度対戦して5勝1敗、その1敗も53年前にイスタンブールでの親善試合で喫したもの。8年前、オランダのアムステルダムで行われたユーロ2000の準々決勝でも、今大会、ポルトガル代表のカピタオン(キャプテン)の大任を任されているヌーノ・ゴメスの2ゴールでトルコを屠(ほふ)っている。つまりポルトガルは対戦前から心理的優位に立っていたと言っても良い。
 一方「悪いジンクス」とは、この日の主審を務めたヘルベルト・ファンデル氏がポルトガルにとって分の悪い審判であったということ。実は2003年にルイス・フェリペ・スコラーリがポルトガル代表監督に就任して初めての試合、ジェノバで行われた親善試合でポルトガルは0−1とイタリアに敗れており、このとき試合を裁いていたのが本職がピアニストという、この異色のドイツ人審判だったのである。

 ポルトガルは、5月末に行った大会前の国内合宿でも、すべてを初戦のトルコ戦に懸けてきたと言っても良い。つまり4年前、自国開催のユーロでギリシャに“まさかの”初戦敗北を喫したようなスタートは“ご法度”。スコラーリ自身も合宿中に、「グループリーグではドラマチックな勝ち抜け方などいらない」と勝利に対する執念を語っている。実際、10日余りに及んだ国内合宿のミニゲームでも、スタメン組と対峙するサブ組は必ずトルコと同じ2ボランチ、2トップの布陣でカウンターを主体とした攻撃をさせる徹底ぶりだった。
 5月31日に行われた本番前の最後の強化試合で対戦したグルジアも、もちろん「仮想トルコ」を想定してマッチアップさせた相手。グルジア戦のポルトガルは、前掛かりになって裏を取られやすい両サイドからの攻撃を極力抑えて、まずは自陣でボールをキープし、相手にボールを触らせない戦い方で試合に入った。そうやって、最初は守備に軸足を置きつつ、ミドルシュートで相手の出方をうかがってから、徐々に攻撃へとシフトしていくという、ポルトガルとしては久しぶりにコレクティブな動きを見せた。
 さらに、試合前日の記者会見に臨んだ主将のヌーノ・ゴメス、シマゥンそして監督のスコラーリは、口をそろえて「疑いなく、明日の初戦(トルコ戦)に向けて全精力を傾けている。トルコに対しては敬意を払うが、トルコに関してはビデオで十分研究済みだ」とのコメントを残し、初戦に向けての準備は万端という自信をのぞかせた。

ロナウドが「良いジンクス」を手繰り寄せる活躍

 試合が始まってみると、ポルトガル首脳陣の思惑は見事にハマることとなる。キックオフ直後から終始、ポルトガルがトルコを圧倒。前述のグルジア戦でも見せたように、あえてボジングワ、パウロ・フェレイラの両サイドバックにオーバーラップを控えさせたにもかかわらず、完全に中盤を支配。「ビデオで十分研究してきた成果」、つまり「トルコの中盤のプレスが弱い」ところをしっかり突いて、前後左右に豊富な運動量を見せたデコを中心にイメージ通りの組織的なゲームの組み立てを見せた。

 前半17分という早い時間帯には、左ショートコーナーからシマゥンが上げたボールが、中央のぺぺの頭にどんぴしゃのタイミングで合い、ゴールネットを揺らした。しかし、これが「悪いジンクス」の張本人である主審のファンデル氏に微妙なオフサイドを取られ、ノーゴールの判定。さらに前半37分のクリスティアーノ・ロナウドのFKもポストに嫌われてしまう。
 前半、ボールポゼッションで63%と圧倒したポルトガルだったが、「悪いジンクス」の呪縛にとらわれているかのような、悪い流れに支配されつつあった。

 しかし、「良いジンクス」はやはり健在だったようだ。前半は右サイドでボールを持っては中央に切れ込んで自分で“決めたい”気持ちがありありと見えたロナウドが、後半に左サイドに移って、突破力を生かしてクロスを上げる“チャンスメーカー”の役割に徹してから、ポルトガルには再び“ゴールの予感”が漂い始めた。そして後半の16分、左サイドのロナウドが起点となって中央に上がっていたぺぺにボールを戻すと、ぺぺは中央でヌーノ・ゴメスにくさびのパスを当ててトルコDFの裏へ抜け出し、この日“2点目”の、今度は文句なしのゴールを流し込んで見せた。

 その後も、左サイドのロナウドのクロスから、ヌーノ・ゴメスのヘディングシュートがクロスバーをたたくなど、ポルトガルはまさに「左サイドのチャンスメーカー、ロナウド」が「良いジンクス」を手繰り寄せる活躍。後半ロスタイムには、ゼロトップの布陣で逃げ切りを図ったポルトガルが、またもや左サイドのロナウドを起点として望外の追加点を奪取。8年前のユーロと同じ、2−0のスコアでトルコに快勝した。

 昨年のユーロ予選終盤で“迷走”しかけたチームに対し、“新しい風(選手)”を入れつつきっちり本番までに間に合わせてきたポルトガル。やはり“古だぬきの名将”スコラーリの手腕はさび付いていなかったようだ。
「良いジンクス」が「悪いジンクス」を凌駕(りょうが)したポルトガル、今大会は“プラン通りの好発進”を見せた。

<了>
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著者プロフィール

1972年生まれ、三重県出身。ポルトガルの首都リスボン在住。2004年から約4年間ポルトガルに滞在し、ポルトガルサッカー情報を日本に発信。その後、日本に帰国して約2年半、故郷の四日市市でポルトガル語の通訳として公務員生活を送るものの、“第二の祖国”、ポルトガルへの思慕強く、2011年3月よりポルトガルでサッカージャーナリスト活動を再開した。ブログ「ポルトガル“F”の魂」にて現地での取材観戦記なども発信中である。ポルトガルスポーツジャーナリスト協会(CNID)会員、国際スポーツプレス協会(AIPS)会員

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