猛烈に追い上げる旬の男ジョコビッチ。ナダルとの勝敗を分けたものは?=全仏オープンテニス 男子準決勝

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ナダルの4連覇阻止に期待がかかったジョコビッチ

全仏オープン準決勝、ナダルの4連覇阻止とランキング2位浮上の期待がかかったジョコビッチ 【Getty Images/AFLO】

 ここでラファエル・ナダルを倒せるとしたら、ロジャー・フェデラーではなくノバク・ジョコビッチかも――世界の目はそんなふうに見ていた。今季は全豪オープンとマスターズシリーズの2大会で優勝してチャンピオンレースのトップを走る21歳。この準決勝に勝てば、ナダルがもう3年近く守っている2位の座を奪える。

 4連覇を狙うナダルは、ローランギャロスでまだ負けていない。クレーを知り尽くした技術に加え、センターコートの独特の雰囲気にも慣れている。ジョコビッチがそういった強みに勝るには、頭脳派らしい戦略しかなかった。クレーで接戦した最近の記憶も胸に抱いて臨んだが、ナダルが一方的に2セットを連取。「最初の2セットはミスする気がしなかった」と言うほどの完ぺきさだった。

 ジョコビッチは「ラファとここで試合をする時は、辛抱強く落ち着いてやることが肝心」と、力まかせの打ち合いを避けて、緩いボールを混ぜながらナダルのリズムを崩すことを試みた。しかしナダルは崩れるどころか、そんな誘いには強烈なウィナーで反撃を見舞った。第3セットをナダルがダブルブレークで3―0。しかし、ここでジョコビッチがやっと生き返った。5−5に追い上げ、さらにセットポイントまでつかむ。

軌道修正に成功したナダルがタイブレークを制す

4年連続の決勝進出を決めたナダル。決勝では世界ランク1位のフェデラーと対戦する 【Getty Images/AFLO】

 ジョコビッチは、「センターコートは、実はほかのコートより少し遅いんだ。ラファのほうが有利になる」と言っていた。おもしろいのは、フェデラーはそのことを聞いて「変だな。僕はセンターのほうが速いと思ったのに」と言ったことだ。人によって違う、日によっても違う。それくらい意外と不確かな印象なのだ。だとしたら、ナダルのほうが有利と思ってしまった時点で、もう負けている。

 その不安感が、大事なタイブレークで恐らく出てしまったのだろう。
 ナダルは冷静だった。「僕は完ぺきだった。なぜこんなに状況が変わったのか。彼のほうが自分よりもコートの中に入って、アグレッシブにプレーし始めていることに気付いた。僕もそうするべきだったんだ」。そして軌道修正。タイブレークは一気に6ポイントを奪い、反撃の機会をやっと見つけたジョコビッチをあきらめさせた。

「彼はすべてのポイントをマッチポイントのようにプレーする」。
 ジョコビッチはあとで感心するように言った。結局順位の入れ替わりは実現しなかったが、今後もトップ3から目が離せないだろう。

 余談だが、しかもこの3人、単に強いだけじゃない。実は3人とも今後ATP(男子プロテニス協会)のツアー運営に役員の立場として加わろうとしているという。ATPの取締役会議には、選手の代表者として3つの席があるが、そこを狙っている。なぜか。今のATPの会長の独裁的なやり方に不満を持ち、ツアーを変えたいと考えているからだ。こういったポジションにトッププレーヤーが立とうとすることは今までなかった。発言力のある彼らが“政治”に興味がなかったのは、恐らくツアー経営者には都合が良かっただろう。けれど、「大事なことが、知らないうちにどんどん決められている状況をなんとかしたい」と進み出たビッグ3。これまでとはひと味違う、個性的で頼もしい3人が、内から外からテニスをさらにおもしろくする。(文=山口奈緒美)

<了>
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