ジダン引退後の新生フランスの船出 横尾愛の「ようこそフランス・リーグへ!」
話題はマケレレ招集問題に集中
グルジア国旗を手に、はにかんだ笑顔を見せる兄弟 【Photo by Kana Yokoo】
「ジダン・マテラッツィ事件」の真相究明に明け暮れ、ドメネク監督の続投が発表され、「代表に戻らない」と言っていたテュラムは考え直し、同じく「戻らない」と表明していたマケレレは引き戻され……。フランスの夏は、ワールドカップ(W杯)決勝の熱気を保ったまま過ぎていった。ユーロ(欧州選手権)2008という目標を見据え、今度こそジダン不在で新たなページをめくることになるフランス。だが、予選の第一歩となるグルジア戦を前にして、マケレレの所属クラブであるチェルシーのモリーニョ監督が代表招集に際してドメネク批判を行ったこともあり、前日会見ではマケレレに関する質問ばかりが花盛り。グルジアは初戦でフェロー諸島を6−0で破るという快挙を果たしたばかりだったが、黒海の東岸に位置する「知られざる国」よりも、「ドメネクvs.モリーニョ」、そして「イタリア戦はW杯決勝のリベンジか否か」という話題の方が、興味をそそるのは当然だったかもしれない。
しかし、フランスが次のイタリア戦に照準を合わせていようといなかろうと、グルジアのサポーターたちにとっては、ユーロ予選は自国の代表を応援する機会。そして同時に、W杯ファイナリストのスターたちを間近で見られるチャンスでもあったらしい。実際、スタジアムは見事にチームカラーの赤と白でいっぱいなのだが、よく見るとアーセナル、しかもアンリのユニホームだったりするのだ。それだけに限らず、イングランド代表、オランダ代表、イタリア代表のユニホームもかなり混じっている。いずれにしても、グルジアの人々は、とてもフットボールが好きなようだ。しかし、なぜ元インテルのビエリのユニホーム姿の人はいても、グルジア代表DFのカラーゼが所属するミラン姿の人は見かけないのだろう。謎を残したまま、バックスタンドには鮮やかなグルジア国旗の人文字が浮かび上がり、両国にとって初めての対戦が始まった。
スターのプレーを楽しんだグルジアサポーター
しかし、グルジアに「スター軍団」としてやってきたフランスは冷静だった。ドメネク監督が選択したシステムは4−4−2。センターバックのテュラムとギャラス、両サイドバックのサニョルとアビダル、守備的MFにマケレレとビエイラ、2トップはアンリとサハ。サイドMFは左にマルーダ、右にリベリーである。選手紹介でアンリと同じぐらい大きなブーイングで迎えられたリベリーは7分、ボールを奪って右サイドを駆け上がり、中央に寄ってきていたマルーダにショートパス。マルーダはゴール右隅へとシュートを放ち、まずはフランスが先制する。
続いて16分、またもやリベリーが、今度は中盤でボールを拾ってドリブルで突進。左に開いたサハがラストパスを受け、グラウンダーのシュートでリードを2点に広げる。グルジアのサポーターからは、「リベリー……」と恨めしそうな声が漏れた。
だがグルジアも、オランダのAZに所属するFWアルベラゼが奮闘。17分にはゴグアの上げたクロスにヘディングで飛び込み、あわやというシーン。25分には個人技でフランスのゴールに近づき、エリア内でシュートに持ち込もうとするが、ギャラスがタックルで何とか止めた。現在はガボン代表の監督で、グルジア代表を率いた経験もある元フランス代表のアラン・ジレス氏は、『レキップ』紙で「彼らはラテンのフットボールが好きなんだ」と語っていたが、なるほどとうなずける。また、ジレス氏は「みんながボールを持ちたがるから、守備的MFを探すのが大変だった」とも言っている。ひょっとしたら前述のカラーゼ・ユニホームが見当たらない理由は、たとえ祖国の誇る有名選手といえども、守備的なポジションだからなのだろうか?
早い時間帯で2点をリードしたフランスは、後半開始2分で追加点を挙げる。サニョルからゴール前のアンリへと放り込まれたパスを、グルジアDFアサティアニがクリアミス。これがそのままゴールに飛び込み、オウンゴールとなってしまった。ところがスタジアムでは、「アンリのゴール!」というアナウンス。アンリはボールに触れてもいなかったのだが、グルジアサポーターたちも「アンリじゃしょうがねえなあ」という雰囲気となり、電光掲示板の得点選手表示も、最後まで訂正されなかった。
守備においても、クリアではなくドリブルで相手を振り切る選択をするリベリーや、アンリのゴール(?)というスペクタクルを楽しんだグルジアのサポーターたち。試合終了間際には、思わぬハプニングまで待っていた。グルジアのゴール近くでスローインのためにタッチラインへと歩いていったアンリに、突然コーナーフラッグ付近から1人の男性が駆け寄り、両手を広げて抱きついたのである。もちろんあわてて警備員が駆け寄り大事には至らなかったが、4人掛かりで連行されていく彼に、スタジアムは大爆笑に包まれた。