広島と甲府 J2両巨頭の今季傾向と課題 宮崎キャンプリポート

寺下友徳

宮崎の地でJ1昇格の本命同士が激突

 いよいよ開幕まで3週間を切り、各地で練習試合も花盛りとなってきたJリーグ。特にJ1・J2全33チーム中、実に25チームが集結する九州地区では、この時期は毎日どこかの競技場、グラウンドで必ず練習試合が行われている盛況を呈している。その中には公式戦では天皇杯でしか実現しないJ1とJ2の対戦ばかりでなく、J1同士、J2同士の対戦も、それより数は少ないながらも多くのゲームが組まれている。それにしても、2月21日・宮崎県シーガイアイベントスクエアで開催されたこのカードはあまりに異色であった。

「サンフレッチェ広島対ヴァンフォーレ甲府」。昨シーズンは共に大きく歯車を狂わしJ2に降格したが、多士済々なタレント、独特の戦術眼に立脚した攻撃重視の戦術は、J2において他チームの追随を許さないことは、既にシーズン前からの共通理解といっても過言ではない。にもかかわらず、J1昇格をライバルとして争うこと必定の両者が、この時期に練習試合とはいえ対戦することも異例ならば、加えて、その形式も現時点における新戦力を含めたすべてのカードを出し尽くす45分4本マッチ(2試合)というのも異例というほかない。

 果たして、「J1昇格本命同士」による激突によって見える今季の両巨頭の実情はいかに? 両チームの地元メディアをはじめ報道陣も多数集まった注目のAチーム同士の2試合目は、2−2のドローに終わったBチームによる1試合目の後、15時にその笛が吹かれた。

甲府、一昨年の完成度へ既に到達

 さて、試合は序盤から両チームの特徴が存分に表れる興味深い展開に。トルコでの1次キャンプを経てこれが国内練習試合の初戦となる広島は、佐藤寿人がポストプレーでシンプルに中盤へとはたきながら有効なサイドチェンジを繰り返すことにより、甲府の両サイド裏にできるスペースを的確に突いていく。対して「(静岡・Jステップでの)1次キャンプで表現したことをゲームで表す機会」(安間貴義監督)と宮崎キャンプをとらえている甲府も、15日間で90分以上のゲーム10試合を組む超ハードスケジュールにもかかわらず、豊富な運動量をベースに大木武・監督時代からの名物である高速ショートパスで相手のバイタルエリア(※ラストパスの起点となる攻撃エリア)を鋭く攻めていく。

 そして20分を過ぎた辺りからは、ここまで東京Vに4−1、清水に1−0、大分に0−0とJ1のトップチーム相手に互角以上に戦ってきた甲府の完成度が、徐々に広島を圧倒していく。中でも特に目に付いた部分は、昨年はスモールフィールドにこだわり続けたがゆえに失っていた「ダイナミックさ」の復活。51分、左SB(サイドバック)の井上雄幾が左サイドからミドルシュートを決めた2点目に象徴されるように、ショートパスをつなぎながら2列目、時にはアンカー役の林健太郎や両SBまでもがポジションを捨てて前線に飛び出し、ボールへかかわるさまは、まさに3年前のJ2、そして一昨年のJ1を席巻したあの「甲府スタイル」そのものだった。

 さらに、その一方では浪漫思想だけでなく、現実主義のよろいも身に着けようとしている甲府。例えば32分、大西容平の左FKにピンポイントで合わせて先制点を奪った185センチの長身FW羽地登志晃はこう語る。「今までより外からのボールが合っていることは選手たちの口から出ているし、もっと合うと思う。昨年より『中央にいるように』と監督からも言われているし、強さの部分で自分の特長を出したい」。事実、この試合で上がったクロスは右から11本、左から6本(筆者手元集計)と多数に上っていた。まだその精度や「つないでくる相手に対し、逆サイドに入られたときには最後のところで止めていたが、プレスにいけないときにかわされた場合どうするかという課題はあった」(MF林)と、ディフェンスの課題は残っている。だが、この段階における甲府の完成度は、J1も含めた33チームでも1、2を争うレベルに達していることは、動かしようのない事実である。

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著者プロフィール

1971年、福井県生まれ。大学時代に観戦したJリーグ・ニコスシリーズ第15節の浦和−清水(国立)の地鳴りのように響く応援の迫力をきっかけに、フットボールに引き込まれた。ファストフード会社店舗勤務、ビルメンテナンス会社営業、コンビニエンスストア販売員など種々雑多な職歴を経ながらフットボールを深く探求するようになり、2004年から本格的な執筆活動を開始。07年2月からは関東から四国地域に居を移し、愛媛FC、高校野球など四国のスポーツシーンを追い続けている。

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