広島と甲府 J2両巨頭の今季傾向と課題 宮崎キャンプリポート

寺下友徳

大駒を欠く広島、その鍵を握る男は「ドラゴン久保」

 一方の広島だが、「前半は運動量も少なく、ポゼッションから前に進めなかった」とペトロビッチ監督が振り返ったように、特に前半20分からの40分間は昨年終盤に見られた個に頼りすぎるサッカーが顔をのぞかせていた。中でも守備面に関しては「前と後ろで意思統一ができなかった」というMF森崎浩司のコメントがすべて。甲府に1対2、時には1対3の場面を多く作られすぎ、味方のカバーリングも間に合わないまま簡単に突破を許す悪循環が随所に見られた。昨シーズン何度も不用意な失点を喫した課題が、いまだ克服されていないことを証明する形となってしまった。

 とはいえ、甲府の運動量が落ちた終盤には「ディフェンスラインからパスをつなぐ」(DF森脇良太)本来のスタイルから1点を返すなど、やはり個人能力の高さは折り紙付きの広島。さらにU−23日本代表組のボランチ青山敏弘、MF柏木陽介といった大駒をけがで欠き、21日に宮崎入りしたクロアチア人FWユキッチもベールを脱いでいない状態での判断は、いささか早計と言わざるを得ない。

 そしてもう1人、広島には「久保竜彦」という最終兵器が残っている。トルコキャンプからここまでは「彼は昨年長い間試合に出ていなかったので、試合勘を取り戻すことが必要」という指揮官の判断で、Bチームでプレーしていた彼だが、21日のB戦練習試合では「いい練習ができている」宮崎キャンプの成果を2ゴールで満天下に示すことに。中でも68分に篠原聖の落としたボールを左足ボレーで逆サイドネットにライナーで突き刺した2点目は、古参の広島記者をして「これでメシ3杯は食える」と言わしめる日本人離れしたドラゴンゴールであった。たとえ89分間消えていても、ものの数秒で敵を粉砕できる男がトップフォームを取り戻しつつあることは、ペトロビッチ監督にとっても実に心強い材料に違いない。

彼らは1年でJ1復帰を果たせるのか?

 結局A戦のスコアは2−1で甲府の勝利となったが、甲府はトップレベルの組織力、広島はトップレベルの個人能力を維持していることを知らしめて、前哨戦の幕を閉じた。この試合を見る限り、両クラブのJ1復帰は有力に思える。だが、J2リーグには実力を超えた落とし穴が潜んでいる。今季は4クール48試合から3クール42試合に減ったとはいえ、J2経験者なら誰もが承知していることだ。それを裏付けるように昨シーズンのJ2を経験した2名は、リーグ戦を戦う上での注意点をくしくも同じ視点で語った。

「J2の相手には格上も格下もないと思っているので、毎試合全力でやることが大事」(甲府FW羽地・昨年途中までJ2徳島ヴォルティスに所属)
「J2では奇麗なサッカーをすることも大事だが、気持ちを出さないとどんな下位のチーム相手でも取りこぼしてしまう。J2では油断は禁物」(広島DF森脇・昨年まで2年間愛媛FCに期限付き移籍)

 もちろんこの日、彼らが見せたパフォーマンスはJ2を勝ち抜き、観客を楽しませるに十分値するもの。あとは2人の言葉にあるように、3月8日のJ2リーグ開幕までに闘志というガソリンを充填(じゅうてん)し、補給体制を整えられるかどうかがポイントとなるだろう。

 今季は広島と甲府の両巨頭を中心に回っていくであろうJ2。果たして彼らは12月5日、「J1復帰」という切符を手に満面の笑みでJ2を後にできるだろうか? 今後も両チームの動向には要注目だ。

試合データ

1試合目 13:00キックオフ
広島2−2(前半1−1)甲府


<得点>
広島:久保竜彦(19分、68分)
甲府:ジョジマール(43分PK、74分)

<出場選手>
(広島)
GK:下田崇
DF:篠原聖 高萩洋次郎 ダバツ
ボランチ:遊佐克美(57分浅田裕史<ユース所属>) 横竹翔
MF:橋内優也 大崎淳矢<ユース所属> 清水航平(HT森保翔平<ユース所属>) 内田健太
FW:久保竜彦
(甲府)
GK:阿部謙作
DF:吉田豊(74分久野純弥) 寄井憲 山本僚 鶴見智美(74分輪湖直樹)
ボランチ:田森大己(80分練習生)
MF:保坂一成(31分國吉貴博) 美尾敦(86分神崎大輔)
FW:石原克哉(59分ブルーノ) ジョジマール 木村勝太

2試合目 15:00キックオフ
広島1−2(前半0−1)甲府


<得点>
広島:森崎浩司(82分直接FK)
甲府:羽地登志晃(32分)、51分井上雄幾

<出場選手>
(広島)
GK:木寺浩一
DF:森脇良太 ストヤノフ 槙野智章
ボランチ:戸田和幸
MF:李漢宰 桑田慎一朗 森崎浩司 服部公太
FW:平繁龍一 佐藤寿人
(甲府)
GK:鶴田達也
DF:杉山新 池端陽介 山本英臣 井上雄幾
ボランチ:林健太郎(57分田森大己、75分石原克哉)
MF:大西容平 藤田健
FW:前田雅文(70分ブルーノ) 羽地登志晃(75分ジョジマール) 宇留野純

<了>

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著者プロフィール

1971年、福井県生まれ。大学時代に観戦したJリーグ・ニコスシリーズ第15節の浦和−清水(国立)の地鳴りのように響く応援の迫力をきっかけに、フットボールに引き込まれた。ファストフード会社店舗勤務、ビルメンテナンス会社営業、コンビニエンスストア販売員など種々雑多な職歴を経ながらフットボールを深く探求するようになり、2004年から本格的な執筆活動を開始。07年2月からは関東から四国地域に居を移し、愛媛FC、高校野球など四国のスポーツシーンを追い続けている。

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