浅田真央が体感した必勝の法則 四大陸選手権
ライバル欠場で高まった注目度
昨年暮れの全日本選手権後は、名古屋で練習をしながらアイスショーに出演していた浅田。今回の四大陸が行われる韓国には、日本選手の中で一人遅れて12日夜に入った。空港には韓国メディアが待ち構えるなど、韓国のスター金妍児(キム・ヨナ)の欠場で盛り上がりに欠ける四大陸の目玉選手であり、金妍児のライバルである世界ランキング1位の浅田に注目が集まった格好だ。
今季GPファイナル以来2度目の対決となるはずだったが、同い年の金妍児が左股(こ)関節痛で急きょ欠場し、ライバル不在の大会について問われた浅田は「すごくびっくりしました。一緒に試合に出て練習すると、いつも刺激をもらえるので残念でした」と素直に答えた。知り合いの韓国記者からは「浅田の調子はどうか? けがはないのか?」などなど、自国のエースが故障で欠場したことで、そのライバルである浅田の様子が気になって仕方がないようだった。新聞紙面でもテレビでも浅田真央の特集を組むなど、大きく扱っていた。今回、韓国開催の大会で金妍児が出場して浅田との勝負が実現していたら、どんな風に取り上げられていたのか、考えると少々怖い気もするが……。
そんな周囲のフィーバーぶりにも天真爛漫(らんまん)さを持つ17歳は、「韓国で滑ることは初めてなので、いい演技して楽しんでもらえたらいい。街に出かけたらレストランで『アサダマオダ!』と言われてびっくりした」と動じることなく、金妍児不在の今大会では戦前から熱狂的な韓国ファンの心をつかんですっかり人気者になっていた。
マイナス評価をカバーした全体の完成度
不安は的中する。それも予想を上回る減点となった。14日に行われたSPでは3フリップ+3ループで回転不足をとられ、基礎点7点からマイナス1.29点も引かれた。そのほかに不正エッジの3ルッツがステップアウトして2.57点の大減点となった。GP大会ではこれほど減点されておらず、「3+3回転でダウングレードになっていたのでびっくりした」と本人は驚いていたが、今季は2つ目のループが回転不足の判定を受けることが多かった。また浅田にとっては珍しく、SPの技術点で基礎点をわずか0.01点だが割り込む得点になるなど、意外な評価も出た。
最終日のフリーでも、3フリップ+3トゥループで回転不足と判定されて1.29点の減点を受け、着氷でバランスを少し崩した不正エッジの3ルッツもマイナス1.14点だった。
今季はSPで得意であるはずのジャンプで大きなミスをして、フリーで挽回(ばんかい)するというパターンに陥っていたが、今年最初の大会である四大陸ではSPとフリーともに「パーフェクトにしてきっちりと決めたい」と意気込んでいた。小さなミスはしたものの、SPもフリーも今季初めてほぼ満足のいく演技でまとめることができたのは収穫だったのではないだろうか。
「この試合はとりあえずトリプルアクセルを跳びたかった。ジャンプでは迷わず、焦らずにできました。氷に乗る前は緊張していたけど、今大会は冷静だったと思います。冷静にならないと失敗してしまうことが分かっていたから。SPとフリーの両方をきちんとやることが今季はできていなくて、それを1つの目標にしていたので、世界選手権に向けていいステップになったと思います」
世界選手権のプレ大会として臨んだ試合の出来について、浅田自身が「80点ぐらい」と自己評価したように、合格点の内容を見せた大会と言っていい。ただ、手放しでは喜んでいられないのも確かだ。
本人もそれは重々承知していた。「(回転不足と判定された)コンビネーションジャンプが一番の課題。この四大陸で自信を持つことができたので、金メダルを取りたい世界選手権では、自分の力を全部出し切るようにしたい。調子がいいトリプルアクセルは、このままキープしていきたい」
強敵がそろう世界選手権では、転倒の失敗は即脱落につながり、きわどい勝負を制するには、いかにプラスの評価をジャッジから引き出すかにかかってくるはず。武器を最大限に磨き上げ、弱点をカバーできるようにミスを最小限に留めることが必勝の法則になるに違いない。
コスチュームも新調
一昔前の日本スケート陣は、大きな舞台を前に1回衣装を変えればいいほうだったが、いまや実力は世界トップ、人気は国民的アイドル級の浅田は、大きな試合ごとに衣装を変更しているほどだ。一流のスケーターになるためにはお金がかかる。強化費だけでは到底まかない切れないわけで、親の援助を受けられる選手もいれば、所属先からサポートされている選手もいたり、スポンサーがついたり、テレビCMに出演したり、アイスショーの出演料を得たりして、競技生活の資金に充てている。大手スポンサーが数社つき、いくつもCM出演を持つ“プロスケーター”並に稼ぐ浅田は、日本フィギュア界ではこれまで存在しなかった特別なスケーターと言えるだろう。この若きスター選手が、今後どう成長し、どんな成功を手にするのか。興味をそそるところだ。バンクーバー五輪を2季前に控える今季最大、最後の国際競技会である世界選手権の舞台が、3月にいよいよやってくる。
<了>
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