ジャイアントキリングを狙う北のプロビンチャ=コンサドーレ札幌の挑戦
三浦監督の戦術をさらに進めるための選手補強
札幌の戦い方は、相手の攻撃を手詰まりにさせることがテーマであるため、守備が機能しパスの出しどころを消した場合には、相手は総じてロングボールを蹴ってくる。これを跳ね返すために、三浦監督は、サイドバックにもヘディングの強い長身選手を置く。身長180センチの左サイドバック坪内秀介を神戸から、本来はストッパーながらグアムキャンプでは右サイドバックの位置でも起用された身長182センチの平岡康裕を清水から獲得したことは、三浦監督の意向を十分反映した補強といえる。
攻撃面では、FWに2人目の外国人選手を獲得した。このポジションには昨季17得点のブラジル人FWダヴィがいるが、そこにブラジル人ストライカーのノナトを加えた。今シーズンはこの2人が2トップを組むことになりそうだ。
これは非常に合理的なマネジメントだと言っていい。守備は人数を割くことである程度は失点を減らすことができるが、攻撃は人数をかけたからといってすぐに得点につながるほど甘くはない。昨シーズンの札幌は失点数はJ2最少だったが、得点数はリーグで7番目と攻撃には弱さがある。ハイレベルな相手が多いJ1では昨シーズン以上に守備意識を高める必要があることを考えれば、攻撃に割くことのできるパワーはさらに減る。そうなると、少ない攻撃機会、手数でフィニッシュまで持っていける個の力を持った外国人選手で2トップを構成することは、得点力を上げるには得策だといえる。昨シーズン43試合に出場したDFブルーノ・クアドロスを放出したのも、J1では高い位置に外国人枠を使いたいとの意図があったからだろう。中盤でのゲームメークを期待されたアルセウが早期退団したり、新加入のノナトがフィットに時間を要しているなど、うまく進んでいない部分はあるが、トータルで考えれば限られた資金ながらも攻守両面で的確な補強ができたといえる。
戦術面でのマイナーチェンジを図り、番狂わせを狙う
ディフェンスリーダーとしての期待が高まる曽田雄志は、「昨シーズンに『いい位置だな』と感じていた高さから、あと1、2メートルくらいディフェンスラインを押し上げたい。全体をよりコンパクトにして選手間の距離を縮めることで、攻撃陣の守備負担を減らすことができるから」と話す。
堅守をレベルダウンさせることなく、攻撃へのパワーを高める。J1の舞台で「守り勝つ」スタイルを遂行するために、最終ラインをより高く保つことで変化をつける構えだ。そして「ゾーンディフェンスの中で個々の見るエリアを広げることで、サイドの選手が攻撃に参加する機会を増やせれば」と曽田は続ける。
グアムキャンプでは多くの時間を曽田と組んで最終ラインの中央でプレーしたDF吉弘充志も「最初はゾーンディフェンスに戸惑いがあり、周囲からの細かな要求も多かったけど、日に日に連係は良くなってきている」と手応えを話す。戦術にマイナーチェンジを加えている上に負傷離脱者も多かったため、練習試合ではなかなか良い結果を残せていないが、さまざまな試行錯誤を経ながら、札幌は徐々に新たなチームの輪郭を作りつつあるようだ。
三浦監督の戦術を駆使し、ロースコアの展開に持ち込み、相手チームの弱点を突くことで、我彼の間に存在する大きな戦力差を可能な限りゼロに近づける。理論派監督率いる北国のプロビンチャが、J1の戦場でいくつのジャイアントキリングを演じることができるのか。そして、12月にはどういったフィナーレを迎えるのだろうか。3月8日、昨シーズンのJ1チャンピオン・鹿島との開幕戦から、札幌の新たな挑戦はスタートする。
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