とにかく“文化系”なプロレス映画 東京03豊本のプロレスあれこれ(2)
プロレス関係の映画は多々あります
マッスル坂井監督の「俺たち文化系プロレスDDT」を観賞した豊本さん 【写真提供:東京03 豊本明長】
プロレスラーって映画にけっこう出てるんです。よくガタイのいい悪役とかで登場するんですけど、それだけじゃなく主演作品もちゃんとあるんです。
それこそザ・ロックは…、あ、一般的にはドウェイン・ジョンソンと言った方が分かりやすいんでしょうかね。「スコーピオン・キング」など主演作品も多数。いまやプロレスラーというよりすっかり世界的なハリウッドスター。来日するならボディーガードを数人用意しないといけないくらいのVIP。ただプロレスラーを守るボディーガードって……。若干ねじれた現象が起きていますけども…。
他にもロディ・パイパーが「ゼイリブ」という作品で主演やってますし、武藤敬司選手も「光る女」で主演。プロレスラーの主演作品もなかなかあるという事です。
さらに、プロレスを題材にした映画も沢山あります。
プロレスラーの哀愁を描いたミッキー・ローク主演の「レスラー」であったり、未だにDVD化されず幻のプロレス映画的存在の「カリフォルニア・ドールズ」、邦画なら「お父さんのバックドロップ」、「ガチ☆ボーイ」などなど。
これらの作品は、プロレスを全く知らない人が見ても、プロレスに救われる主人公やプロレスで人生がおかしくなっていく主人公、プロレスには人生が大きく変わる何かしらの魅力があるというのが分かっていただけるのではないでしょうか。
ちなみに「いかレスラー」とか「あゝ!一軒家プロレス」とか「ゆきゆきて人間バズーカ」とか、ある程度プロレスを見てからの方が、より楽しめるものもあるので要注意かと僕個人的には思います。
マッスル坂井監督が手がけるDDT2作目の映画
この作品は先ほど挙げた作品とはまた違って、キャストも監督もプロレスラーという珍しい作品。
そもそもDDTという団体はかつて、「リング上で起こる事は全てプロレス」という言葉を拡大解釈して大衆性を持たせた団体。と、まぁ難しい書き方をしましたけど、簡単に言うと面白い事であればなんでも取り入れてみる団体です。路上でも試合をしますし、年に1回所属選手の総選挙もやります。音楽フェスもやりました。所属選手にはゲイのレスラーもいます。見る人が見たら空気人形みたいな選手もいます。かつては呪文を操る選手もいました。宇宙人だっていました。もはやプロレス界で映画を作ってもおかしくない団体です。いや、「プロレスキャノンボール」という映画を以前に作ってるので、すでに2作目です。
マッスル坂井監督の「俺たち文化系プロレスDDT」、率直に面白かったです。
その内容は、DDT所属のHARASHIMA選手とメジャー団体の棚橋弘至選手とのシングルマッチが行われ、試合は棚橋選手の勝ち。その試合終了後のコメントで、どこか後味の良くない感じに終わった事をスッキリ終わらせたいという気持ちで、スーパー・ササダンゴマシン選手を筆頭に、団体が一丸となってHARASHIMA選手と棚橋選手を再びリングで対峙させようとする内容。
もっとざっくり言うと、小さい団体の選手がメジャー選手に負け、その仲間がリベンジするべく後押しする。よくありますよね? 弱い人が特訓して勝つ「クール・ランニング」とか「メジャーリーグ」とか「ベスト・キッド」とか。そういうスポーツ青春映画です。もちろん、この映画にもそういう気持ち良さがありスポーツ青春映画と言って過言ではないです。
ただこの映画のキーワードは「文化系」。プロレスを題材にした映画なのに“体育会系の熱さ”だけでなく“文化系の熱さ”もあるんです!
語弊を恐れずに例えるなら、虐めた方は忘れるけど、虐められた方は覚えているような感じ。
試合に負けたからリベンジという面も当然ありますが、試合後の棚橋選手のコメントの後味の悪さにも焦点を当てています。
でもプロレスにおいて試合後のコメントは千差万別。後味が悪いどころか、意味不明な選手だっています。何を記者に聞かれても「ハタリハタマタ」しか言わない選手だっています。
そんなコメントへの執着の仕方に若干の湿度があり、“体育会系”ではなく“文化系”なんだなと。
プロレスの魅力に取り憑かれた人たちの作品
とにかく仲間がやられた、俺たちも見下された、なんとか仕返ししたい、でもどうすることもできない。私的な感情とビジネスは別ということも分かっている。
そんな状況の中、だったらプロレスファンに訴え、巻き込み、大きなうねりにしてリベンジの場を作ろう!
ただ気になるのが、この映画、リベンジするのに道場に通ったり特訓したりするシーンが一切ない! マッスル坂井監督が言うには、道場シーンはあえて入れてないそうです。それどころか居酒屋でモツを仕込むシーンを入れているという。生活を維持するインディーレスラーの悲しい一面をありのままに伝えるという意味なのでしょうか。
こうしてメジャー体育会系vs.インディー文化系の構図が明確になっていっています。とことん“文化系”に拘りを感じました。
結局、棚橋選手をDDTの世界観に引っ張り込み、試合の勝ち負けも大事ですけど、それだけじゃないプロレスの魅力を感じられる空間を作り上げ、あの後味の悪さを浄化していきます。
でもそれは棚橋選手がDDTの選手の思いを、ファンの思いを汲み取り、受け入れる度量があるからなんです。棚橋選手もプロレスの魅力に取り憑かれてる選手です。
結局この映画はプロレスの魅力に取り憑かれた人達しか出てこないです。
リング上でこじれた人間関係をリング上で解決する。レスラーはそれぞれの人生をリングに投影し、戦いを通じて僕たちに何かを教えてくれる。また僕もプロレスの魅力に取り憑かれた1人です。
スポーツ青春映画としても面白いし、メジャー団体に向かっていくインディー団体という見方でも面白い作品。皆さんもプロレス会場に行くのもいいですけど、映画館でプロレスの魅力を感じてみてはいかがですか?
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