FAも獲得球団なし、木村昇吾の今 望んだのは定位置ではなく競争
野球人生で一番の不安
松坂世代の1人でもある木村昇吾。レギュラーの座を得るためFA権を行使した 【写真=BBM】
「野球人生で一番不安になった」
移籍先が決まらないまま、12月からは広島の施設が使えなくなり、市内のジムを拠点にトレーニングを続けた。埼玉西武から入団テストを兼ねた春季キャンプ参加のオファーが届いたのは、2015年が終わろうとした年末。FA選手が移籍先を求めて入団テストを受ける、前代未聞の事態となった。
それでも木村に後悔はない。
「FAをしない後悔よりも、FAして後悔した方がいいと思った。テスト生? 十分です。チャンスをもらいありがたい。意気に感じます」。今年4月に36歳になる。しかし、1人のアスリートとして高みを目指す気持ちは衰えていない。
広島で高まった選手としての欲
しかし存在感を増せば増すほど、物足りなさを感じるようになった。「スタメンで出してもらって、スタメンで試合に出る喜びを知った」。負傷者の穴埋めではなく、自分がレギュラーになる。選手として当然の欲は高まる一方だった。
36歳でもまだ成長できる
広島に残留すれば、チームにポジションはある。先発出場は減っても、試合終盤に投入する切り札として重宝されていただろう。ベテランの域に入った選手としては居心地が良かったに違いない。だが、安定など求めていない。
「恵まれた状況に甘んじていいのか考えた。それは自分らしくないだろうと。常にレギュラーで出ていた選手であれば現状にも満足できたかもしれない。でもシーズンの半分くらいしかスタメンで出られないからこそ、よりスタメンで出たいという思いが強いのかもしれない。周りはもう36歳と言うかもしれないけど、自分の中では毎年、前年の自分を更新している手応えがある。常に攻める気持ちは忘れたくない」
与えられたポジションで結果を残してきた自負がある。そしてもっとできるという自信もある。勘違いかもしれない。それでも、自分の気持ちに嘘はつけない。木村は定位置を求めたのではなく、競争を求めた。今の木村があるのも、トレードで移籍した広島で常に競争意識を持って、貪欲にプレーしてきたからこそ。まだ成長できる――。その自信と意地が木村を突き動かしている。