「鬼の目にも涙」特別だった米国戦勝利 エディージャパンが見せた成長の証

斉藤健仁

メンタルの強さが問われた最終戦

試合後、選手を笑顔で迎えるエディー・ジョーンズHC。日本代表をタフな集団に育て上げた 【Photo by Yuka SHIGA】

「一番難しいが大事な試合」。そう表現したのはFLリーチ マイケル主将だった。

 10月11日、ラグビー日本代表はイングランド・グロスターにあるキングスホルムスタジアムで、プールBの最終戦でアメリカと対戦した。日本は南アフリカ、サモアに勝利して2勝1敗だったが、前日(10日)にスコットランドがサモアに勝ち、その瞬間、決勝トーナメント進出という目標がついえていた。

 そんな中、FB五郎丸歩副将が気丈にも「最初から結果を気にせずに試合に集中するということをチームとして言っていたのでブレることはなかった」と言ったが、選手たちは内心は穏やかではなかった。南アフリカから24年ぶりの勝利となる金星を挙げて、すでに歴史は作った。またサモア戦にも勝利し、世界にその力も証明していた。

 スコットランドが圧勝ならまだ気持ちの整理がついたかもしれない。結果はシーソーゲームで36対33と3点差。選手たちはみんなで試合を観戦していたという。同一大会で3勝して「再び歴史を変える」というメンタルが問われる試合となった。

大学生の藤田を「直感」で起用

激しいプレーでチームを引っ張ったNo.8ホラニ龍コリニアシ 【Photo by Yuka SHIGA】

 一方のアメリカは4日前の南アフリカ戦には主力選手を多数温存し、先発13人のメンバーを代えて日本戦に懸けてきた。フィジカルに長けた選手も多くLOの2人は身長が2mを超え、12番パラモの身長も193cmと突破力に優れる。バックスリーは7人制代表もおり、決定力ある選手ばかり。日本代表を率いるエディー・ジョーンズHCも「アメリカは感情的に勢いに乗ると強いチーム。その勢いを徹底的に止めないといけない」と警戒した。

「今回も最も強いメンバーを選びました」と何十回と聞いた台詞をジョーンズHCは繰り返した。LO大野均、CTBマレ・サウはケガのためメンバー入りせず、CTBにはクレイグ・ウィングが今大会初出場。さらに、WTBには今大会初のメンバー入りを果たした早稲田大4年の藤田慶和が名を連ねた。絶好調のWTB山田章仁は、1週間前のサモア戦の後半、脳しんとうを起こしており、試合出場は可能だったが無理をしなかったと推測される。

 ジョーンズHCはWTB藤田を先発で選出した理由を「直感です」と説明した。こう続けた。「今までのアメリカ戦では良いパフォーマンスをしています。ここまでチャンスがなかったが、彼のエネルギーと熱意がチームに活力を与えてくれると信じています」。55歳の指揮官は息子のような若者の奮起に期待したという訳だ。

「エディーさんが試合前に泣いているのを初めて見た」

上半身と下半身を狙うダブルタックルで相手を抑え込んだ 【Photo by Yuka SHIGA】

「エディー・ジャパン」最後の試合となった、直前のロッカールーム。ジョーンズHCは涙ぐみながら「しっかりプライドを持って戦おう」と選手たちをグラウンドに送り出したという。

「鬼の目にも涙です」、「エディーさんが試合前に泣いているのを初めて見た」。選手たちは、指揮官の期待に応えようとスイッチが入った。試合前の国歌斉唱では、いつになく選手たちは大声で、感涙している選手も多かったのは、そんな事情があった。

 しかし、いきなり相手のキックオフをキャッチミス。さらに中盤ではアメリカの3つのユニットで攻める単純な「ポッド」にゲインされ、ゴール前ではピック&ゴーで後手を踏む。どうにか止めていたが、ディフェンスでは南アフリカ戦やサモア戦ほどのラインスピードはなかった。

「気合いを入れすぎた。そうするとスキルが落ちてくる。スクラムもバラバラになっていてもあそこまで耐えられた。それは個人の力だと思います」(HO堀江翔太)

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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