「鬼の目にも涙」特別だった米国戦勝利 エディージャパンが見せた成長の証

斉藤健仁

初トライの藤田「FWの頑張りやと思います」

W杯初出場でトライを奪ったWTB藤田 【Photo by Yuka SHIGA】

 5分、相手の勢いの前に反則し、PGを決められて0対3と先制を許す。だが、そんな状況を打破したのはSO小野晃征とWTB藤田だった。

 南アフリカ戦、サモア戦でもチームを勝利に導いた司令塔は「周りに強いランナーがいるので、自分がマークされていなかった」と、日本のアタック・シェイプで乱れた相手のディフェンスラインのギャップを攻め続けた。

 7分、SO小野が見事なステップでラインブレイクして、グラバーキック、そのボールをWTB藤田慶和がボールをキープしNo.8ホラニ龍コリニアシへとパス。ラックとなった後に素早く左に展開すると、HO堀江のパスを受けたWTB松島幸太朗が左中間にトライ。FB五郎丸が代表通算700点目となるゴールを決めて、すぐに7対3と逆転に成功する。

 調子の上がらない日本は自陣で攻撃を継続され、アメリカがFWの近場で攻め続けて、最後は大きく右に展開しWTBングウェニアがインゴールに飛び込み7対8と逆転された。だが、その直後、キックオフのボールを7人制日本代表でもある藤田が奪って、チャンスメイク。最後は花園常連の御所実高のようにフェーズプレーからFWがモールを形成。モールの最後部に藤田が加わり、そのままモールから飛び込んでトライを挙げて再び14対8とリードした。

 見事に指揮官の起用に応えて、チームに勢いを与えるだけでなく、ワールドカップ初トライを挙げた藤田は「全然緊張しなくって、いつも通りに入れました。それが良いプレーにつながったんじゃないかなと思います。モールからのトライはあまり記憶にありません。チームとして、チャンスだと思ったらモールに入っていいと言われていた。良いモールを作ったFWの頑張りやと思います」とFWのチームメイトを称えた。33分に五郎丸がPGを決めて、前半はあまり調子の出なかった日本が17対8でリードして前半を終えた。

五郎丸「互いのプライドがかかった試合だった」

35歳のクレイグ・ウィングはアメリカ戦でW杯初出場を果たした 【Photo by Yuka SHIGA】

 後半は、「規律を守ろう」、「焦らず我慢しよう」と選手同士で声を掛け合い、ディフェンスを修正。スコットランド戦のように無理矢理攻めるのではなく、当たりの良かった五郎丸のロングキックで、しっかりテリトリーを稼ぐ。また場合によってはしっかりとタッチを切った。相手のミスにも助けられて、後半20分を過ぎても20対11と9点差のままだった。

 21分、相手のPRがシンビン(10分間の退場)になると、南アフリカ戦とは違い、日本はラインアウトからモールを選択。22分、モールを右に少しずらして、すぐに左に押して、最後は後半から入って、パワフルなランを繰り返していたNo.8アマナキ・レレィ・マフィがトライ(25対11)。後半31分には、警戒していたカウンターから、相手のFBクリス・ワイルズ主将にトライを喫したが、最後まで体を張り続けた日本が、終わってみれば28対18で勝利。ゲームの状況、流れを読んでしっかりとスコアを重ねたことが大きかった。

 ワールドカップで3戦目にして初めてアメリカに勝利。そして同一大会で3勝目と再び日本は歴史を塗り替えた。ジョーンズHCは「(結果に)とても満足しています。普段より15〜20%ほど調子は落ちていましたが、良いプレーをしました。うれしい勝利です」と声を弾ませた。リーチ主将は「相手が強くて相手の勢いに巻き込まれた時期もありましたが、我慢して良いディフェンスができた」と振り返った。

 堀江が「試合に勝てたのは一人ひとりメンタルを作って試合に臨めたから」と個々のメンタルの強さを勝因に挙げれば、五郎丸は「メディアのみなさんは大差で勝ってほしかったと思いますが、80分間落ち着いてプレーの選択ができたと思う。練習試合ではないし、テストマッチだし、互いのプライドがかかった試合だった」と、勝たなければいけない試合に正しい選択をしたことを吐露した。

リーチ主将「ジャパンはこれで終わりじゃない」

ワールドカップ8強入りの目標は、新しい日本代表へと託された 【Photo by Yuka SHIGA】

「日本にとって決勝戦のような試合だった」とジョーンズHCが言うように、予選プール4試合目で肉体的疲労もある中、前日に予選敗退が決まり、しかも、世界ランキングで格下の相手に勝たなければいけないというメンタル的にも極めてタフな試合だった。ただ、ワールドカップでチームが一つになり、南アフリカから金星を挙げたチームは、そういった困難にも打ち勝てるだけの力を付けていた。

 24年間、ワールドカップで白星がなかったチームが、勝たなければいけない試合で勝つべくして勝った。それこそが成長の証であり、次のチームへと受け継ぐべきレガシーである。五郎丸は「ラグビーにヒーローはいない。全員がヒーローです」と言い、リーチ主将は円陣で「ジャパンはこれで終わりじゃない」と伝えた。

 2勝ではなく3勝し、あらためて世界に「日本が強くなった」という印象を与えることに成功した。そして、日本は3勝しても決勝トーナメントに進出できなかった初のチームとなった。予選プールの総勝点で言えば、全体ではイングランドより上の9位となり、10月12日付けの世界ランキングではトップ10に返り咲いた。ジョーンズHCは2011年12月の就任記者会見で「トップ10を目指す」と言った。その言葉通りの結末を迎えた。ワールドカップベスト8という目標は2019年大会に出場する、新しい日本代表へと託された。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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