元マラソン選手が記者になった理由 五輪8位のイタリア代表が伝える情熱
元マラソン選手で現在はジャーナリストとして活躍するイタリア人のランコ・ファヴァ氏 【スポーツナビ】
現在開催されている陸上の世界選手権・北京大会も現地で取材し、母国へ情報を発信している。
現役時代から始めた第二の人生
ファヴァ氏のジャーナリズムの根底にあるもの。それは「陸上に対する情熱」、そして「アスリートの心理を読み解きたいという探究心」だ。そのキャリアの原点は、まだ現役を続けていた25年前までさかのぼる。引退前最後のシーズンを迎えていたファヴァ氏は、大会を転戦しながら、フリーランスとして活動を始めた。走ることがとにかく好きで、その恩恵も受けてきた。その思いを、走ることの素晴らしさをより多くの人に伝えたい――その思いを実らせる方法が、ジャーナリストだった。
「その頃、ローマでトラックのレースがあったのですが、5000メートルのレースに出た後、メディアルームに直行して記事を書いたこともありますよ(笑)」
そう答えて、ふと目じりを下げる。
当然、指導者という選択肢もあっただろう。くしくも学生時代は体育学を専攻しており、体育教員の資格も持っていた。しかし、当時29歳の五輪ランナーに、コーチ業は魅力的には映らなかった。
「現役時代、コーチと私は常に近い関係にあって、遠征も何でもいつも一緒でした。でも私自身はそういうことはあまりしたくはなくて。どちらかといえば、スポーツへの情熱を発信することの方が私には良かったんです」
走ることの魅力を誰よりも体感してきた自負はある。体育学を研究した経験は、同時にスポーツをテーマに書くための素養にもなっただろう。当時「国内のマラソンランナーは10人もいなかった」という小さなコミュニティを広げるためにも、スポーツジャーナリズムの道に進むのは、ファヴァ氏にとっては自然の流れだった。
「大事なことは興味関心を持つこと」
もちろん、自分の現役時代と現在では、異なる部分もある。ただ、違うからこそ聞いてみたいこともある。素直な疑問をぶつけて、新たな事実を見つけ出す。「自分が驚いたことは、みんなにとっても同じはず」と、その発見が読者に驚きを与えると信じている。
「(今大会)男子マラソンで8位になった(イタリアのダニエル・)メウッチに話を聞いたら、『途中でトイレに行ったから、ロスをしてしまったんだ。何か悪いものを食べたのかもしれない』と言うんです。すかさず『前日のディナーは何だった? 朝は何を食べたのか?』と尋ねました。それに、私も現役時代、ニュージーランドでマラソンを走った時、朝6時からパスタを料理しましたが、彼らも同じことをやっているか知りたいなと思って(笑)。そうやってどんどん新しいことを学んでいきます」
9月で63歳を迎える。日本であれば会社員として、“引退”を迎えている人もいる年齢だ。それでも、書き手としての情熱、そして陸上への思いは尽きることがない。取材者として一線を走り続けられるのはなぜか。その答えは、先のメウッチの話の中にあった。
「もし『イタリアのトップランナーが表彰台を逃した、トイレに行ったからだ』と聞いたら、みんな『何でそんなことが?』と疑問に思いますよね。だから、私はその理由を説明しなければなりません。大事なことは興味関心を持つことです。私は今でも(いろいろな物事に)興味を持ち続けていますし、それがこの歳までジャーナリストを続けられた理由でしょう」
(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)
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