「内村不在」の危機感から生まれたもの 地力の高さを証明したアジア団体金

椎名桂子

内村「全体的に点数があまい」

アジア選手権の男子団体では、日本が2位の中国に16点差以上の大差をつけて優勝した 【赤坂直人】

 体操の第6回アジア選手権(7月31日〜8月2日/広島県立総合体育館)、男子団体日本代表は合計365.600点をマークし、宿敵中国(合計349.400点)に16.200点もの大差をつけての団体優勝。さらには、個人総合で加藤凌平(順天堂大)が90.850点で優勝、2位には90.600点の田中佑典(コナミスポーツクラブ)、さらに初の代表戦だった萱和磨(順天堂大)も6種目に出場し、90.100をマークした。

 日本にとっては最上の結果だったように思えたが、肩の疲労感から今大会の出場を回避していた内村航平(コナミスポーツクラブ)は、試合終了後、決して上機嫌ではなかった。
「全体的に点数があまいというか高く出すぎていた」と、やや憮然とした表情。「世界選手権(10月、英国・グラスゴー)ではこういうふうにはいかない。良い演技をしても点が出ないこともあるし、そうなるとあせって失敗も出やすくなる。今回みたいにうまくはいかない。でも、そのことはみんな分かっていると思う」

「勝ってかぶとの緒を締めよ」とばかりに厳しい口調で語り始めた内村だったが、個人総合で優勝した加藤の鉄棒の話になると、饒舌(じょうぜつ)になった。「凌平の鉄棒には、一番注目していた。今まで以上に攻めた構成ですごく良い演技をしてくれたので、世界選手権に向けて、凌平が鉄棒の3番手にくる可能性もある」と、加藤の成長を頼もしく思っている様子が見られた。

 また、今回がシニアでの初代表となった萱については、「和磨の強さが目立った大会だった。一番年下の選手に勢いがあると、全体が盛り上がるのですごく良いと思う」と手放しに褒めた。

 今回、はからずも自らが出場するのではなく、外から日本チームの戦いぶりを間近で見たことで、内村はいわば監督のような視点で、自分たちが世界選手権でどう戦うべきかを考えることができたという。そのことは、日本代表チームに良い影響を与えることになるだろう。

メンバー全員が先を見据える

個人総合でも優勝を果たした加藤は、鉄棒の高得点にも、手応えを感じた 【岡本範和】

 今大会、中国はベストメンバーで臨んできたわけではない。それが分かっているから、今回の団体金メダルで「世界選手権でも勝てる」と楽観はできない。それは内村をはじめ、選手たちも関係者もみんな分かっている。だからこそ、表彰台の真ん中で笑顔は見せていても、誰も浮かれてはいなかった。

 実際に大会後の会見でも、今回の結果を喜ぶよりも、次を見据えた発言が多く見られた。

 個人総合で優勝し、アジアチャンピオンとなった加藤は、「あん馬とつり輪でDスコアをあげて通せたのは良かったが、その分、跳馬と平行棒では、ばててしまっていたのが課題。鉄棒は、まだカッシーナ(鉄棒を越えながら後方伸身2回宙返り1回ひねり懸垂)に余裕がないが、この試合で着地まで決められて過去最高得点を出せたのは良かった。世界選手権までにはまだ時間があるのでもっと完成度を上げたい。自分が鉄棒で高得点を出して佑典さんにつなぐという世界選手権の予行ができたと思う」と、2カ月後の本番を想定して今回チャレンジしたことにしっかり手応えを感じていた。

 今回、初代表ながら内村をもうならせる活躍を見せた萱も、「今回は思うほど緊張しなかったので、自分は一番下だが、自分が引っ張るんだという意識でやったのがうまくいった。世界選手権だと会場も変わり、もっと準備をしていかないと今回のようにうまくはいかないと思う」と気持ちを引き締めた。

 萱と同じ大学1年で、今大会のゆかで16.800点という桁違いの高得点をたたき出した白井健三(日本体育大)は、「今日は、チーム戦なので、絶対にミスはしないと思っていたので、少しずつ小さい演技になってしまった。今日はゆかの採点が少しあまかったので高い点数が出たが、自分ではもっと上があると思っている。狙っているな、と分かるような攻めた着地を決めれば、もっと良い演技になって、もっと点も出せると思う」と、さらなる高みを目指すことを明言。

 内村が抜け、今回はチームリーダー的役割を担うことになった田中は、「世界選手権で活躍して、日本代表に必要な選手とアピールできれば来年のリオデジャネイロ五輪にもつながると思う」とロンドン五輪に続いて、2度目の五輪出場を見据えた発言をした。

内村の復活で世界選手権団体金狙う

内村が絶賛した萱ら、若い選手たちがメンタリティの強さを発揮した大会となった 【岡本範和】

 今大会では世界王者の内村不在という条件でも、6種目で90点超えを達成した選手が3人もいた。その事実も驚異的だが、内村らの欠場でメンバー入りした山室光史(コナミスポーツクラブ)が、つり輪(15.300点)と平行棒(15.450点)で15点台を出し、早坂尚人(順天堂大)はゆかで16.150点、鉄棒で15.300点を出したことからも、どれほど日本の代表争いが熾烈(しれつ)だったかがうかがえる。

 内村の離脱というとてつもなく大きな穴を、得点の上ではさらりと埋めてしまうだけの地力が今の日本男子体操にはあることが証明された大会だったと言えるだろう。

 さらに、内村不在の危機感からか、今大会の加藤が今までにないすごみのある強さを見せたことも大きな収穫だった。また、「世界で戦う」高い意識を持った白井や萱といった若い選手たちのメンタリティの強さが、内村不在という状況下で大いに発揮されたことも頼もしい。

 あとは、「肩の調子は100パーセントではないが、世界選手権でやる構成の練習は始めている」という内村の完全復活が間に合えば、現地時間10月23日に開幕する世界選手権では、団体戦後の表彰式で、センターポールに上がる日の丸をきっと見られるはずだ。
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著者プロフィール

1961年、熊本県生まれ。駒澤大学文学部卒業。出産後、主に育児雑誌・女性誌を中心にフリーライターとして活動。1998年より新体操の魅力に引き込まれ、日本のチャイルドからトップまでを見つめ続ける。2002年には新体操応援サイトを開設、2007年には100万アクセスを記録。2004年よりスポーツナビで新体操関係のニュース、コラムを執筆。 新体操の魅力を伝えるチャンスを常に求め続けている。

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