ユニバ代表が獲得した“良い銅メダル” 価値ある戦いをA代表へとつなげるために

川端暁彦

プロを目指す大学生の五輪

韓国光州で開催されたユニバーシアード競技大会に出場し、銅メダルを獲得した日本男子代表 【写真は共同】

「大学生の五輪」とも言われるユニバーシアード競技大会が韓国光州を舞台に開催され、男子サッカー競技は7月13日にその最終日を迎えた。日本男子代表は全国各地の大学サッカー部から選抜された20名の選手で参加。銅メダルという結果に終わった。

 ユニバーシアードは多様性の大会だ。日本で「大学生」と言えば、18〜23歳くらいの範囲で過半が収まるものだろう。本格的にスポーツに取り組む大学生となれば、その傾向はより顕著になる。ただ諸外国の事情はそれぞれ異なるもの。ユニバーシアードの年齢制限は「28歳以下」と幅広く、また「プロを目指すような選手を多数擁する大学サッカー部」という概念が広く存在する国が限定的なのは言うまでもない。

 例えば日本と準決勝で対戦したイタリア代表はセリエB以下のプロ選手が過半を占める陣容でチームを編成しており、その中には新シーズンからナポリ(セリエA)へと籍を移すイタリアU−21代表者のMFヤコポ・デッツィのようなタレントまで含まれている。年齢も上は28歳から下はティーンエイジャーまで実に多様で、そのメンバーリストを見ているだけで彼の国の「学び」の機会の豊富さを感じることができる。

 さらにユニバーシアードには卒業後1年以内の選手たちも参加可能のため、日本でも競技によっては大学の部活を卒業して社会人の活動に籍を移しているような選手が多数参加している例もある。日本で言うと、慶應大学を卒業したばかりの武藤嘉紀(マインツ)も(レギュレーションの上では)参加可能である。

ほとんど全員がプロ入りするレベル

 そうした環境下で、日本の男子サッカーでは、このユニバを「全日本大学選抜の大会」と決めて活用してきた。今回のユニバ代表を率いた神川明彦監督(明治大)の言葉を借りれば、「大学でサッカーに打ち込む選手たちの代表チーム」であり、「目指すべき場」ということになる。現在の日本代表に名を連ねる長友佑都(インテル)、永井謙佑(名古屋グランパス)、谷口彰悟(川崎フロンターレ)といった選手たちもこの大会の経験者である(ちなみに武藤は候補止まりで落選している)。

 このユニバ代表に対して大学サッカー界が置いているプライオリティーの高さは並々ならぬものがあり、今回のチームも1年8カ月に及ぶ準備期間を経て編成されたチームであり、今年3月のスペイン・バルセロナ遠征をはじめとして盛んに海外遠征を繰り返しながらチームと選手を鍛えてきた。それは大学サッカーのステージに眠るタレントを発掘していく過程であり、そのタレント同士を競わせて伸ばしていくという過程でもある。

 大会に名を連ねた選手たちには、市立船橋高校で全国を制したMF和泉竜司(明治大)のように高校時代から広く名を知られていたような選手もいるが、それは全体としてはむしろ少数派。高校でレギュラーになれなかったFW呉屋大翔(関西学院大)のような選手もいれば、まるで無名選手だったMF八久保颯(阪南大)のような選手もいる。しかし、4年を経てほとんど全員がプロ入りするであろうレベルに到達している。そんな彼らが国際大会に「自分」を問う。それがユニバだ。

 大会中、MF松下佳貴(阪南大)は「日本代表のユニホームを着て試合をするのは初めてだし、国際大会も初めてなんです。本当にワクワクしているし、人生を変える大会にしたい」と話してくれた。彼もまたプロ入りを確実視される好選手だが、そうした「遅咲きの逸材」がいるのは日本サッカー界の明確な傾向でもある。そんな選手を拾い上げて、日本代表としての自覚を促し、さらなるブレークへの起爆剤とする。そういう機能性を歴代ユニバ代表は担ってきた。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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