ヤクルト守護神・林昌勇の過去と現在=球宴ファン投票1位投手をめぐる5つの“証言”

室井昌也

鉄壁の守護神が快進撃の原動力

 昨年の5位から順位を上げ、首位・巨人を追う2位につけている東京ヤクルト。その快進撃の原動力となっているのが、鉄壁の守護神・林昌勇だ。7月16日まで35試合に登板して3勝1敗19セーブ、防御率0.25と素晴らしい成績を残し、オールスターのセ・リーグ抑え部門でファン投票1位に選ばれた。彼はこれまでどんな野球人生を過ごし、今に至ったのか。栄光と挫折、そして現在を5つの証言をもとに紹介しよう。

証言1.「今の林昌勇は98年のころのよう」

 長年、韓国代表の4番に座った金東柱(斗山)は言う。98年は林昌勇、22歳のプロ4年目。34セーブを挙げ、初のタイトルとなる最優秀救援投手を獲得した年だ。
「とにかく直球だけで勝負してくるピッチャーだった。しかも普通の真っ直ぐではなく、ヘビのようにうねるように動いてくる。そんな球を投げるピッチャーは今まで見たことがない」
 数々の難敵を相手にしてきた金東柱にしても、ほかに類を見ない投手。それが林昌勇だった。

証言2.「上下関係が厳しいチームで人一倍の負けず嫌い」

 そう話すのは、眞興高校で林昌勇の2年先輩、プロでも同じチーム(ヘテ)に所属した投手・李大振(現・起亜)だ。選手としては、「高校入学当時から体の柔らかさが特徴的だった」という。快速球を生み出すしなやかな肉体は、高校時代からのものだった。負けず嫌いの性格と柔軟な肉体。林昌勇のこの点に韓国野球を代表する名将も着目していた。

証言3.「新人なのに腕をしならせて投げる技術はチーム一」

 当時、ヘテの2軍監督を務めた金星根(現・SK監督)の林昌勇の第一印象だ。
「ただ、高校生の時からたばこは吸うし、好き放題やってたのが問題だった。でも、忍耐強い性格が抑え向きなので1軍の監督に推薦したんだよ」
 クローザーを任された林昌勇は、ストレート主体の真っ向勝負で韓国の打者たちを手玉にとる。チームの信頼を受けた林昌勇は、ロングリリーフも当たり前で98年の投球回数は133回2/3。抑え投手ながら規定投球回数を超え、防御率は1.89(リーグ2位)という成績だった。
 99年には移籍したサムソンで、最多セーブと最優秀防御率を獲得。01年には先発に転向し、3年連続して13勝以上を挙げた。04年には抑えに再転向。36セーブを挙げ2度目の最優秀救援投手に輝くなど球界を代表する投手として、ゆるぎない地位を誇っていた。しかし、そのころ、登板過多の林昌勇の右ヒジに危機が訪れる。

証言4.「横から投げると痛いからだまし、だまし投げていた」

 サムソンのトレーニングコーチ・花増幸二は04年のシーズン途中、林昌勇の異変に気がつく。
「スリークオーターなら150キロ近い球が投げられたけど、それだと持ち味の左打者のインコースにボールが行かない。三振を取りたくても取れない歯がゆさがあったね」
 05年秋、林昌勇は右ヒジじん帯の接合手術を受ける。そして06年のシーズン終盤に復帰。しかし、直球にかつてのような威力はなく、先発、中継ぎと固定されない起用法に輝きはなかった。そんな中、林昌勇は07年オフにヤクルト行きを決断。多くの人が林昌勇を「もう終わった選手」と口にしたが、そんな雑音を吹き飛ばし、昨年、ことしとリーグを代表する抑え投手として君臨している。

証言5.「もうヒジに不安はない」

 最後は本人、林昌勇の言葉だ。証言1の金東柱の言葉を伝えると「98年のころの方がもっといい球を投げられた」と言う。しかし、こう付け加えた。「でもそんな大きな差じゃない」。今の林昌勇は11年前の全盛期に近い状態だと実感している。そして、当時にはなかったプラス要素もある。
「1イニング限定だから、体は常に万全な状態でいられる」
 また、今季からバッテリーを組む相川亮二も林昌勇にとって心強い存在だ。「その時の球威をよく把握して、状況にあった配球をしてくれる」。
 復活を遂げチームを勝利に導く林昌勇。彼は今、33歳で第2の全盛期を迎えている。

<了>


■林昌勇/Lim Chang-Yong

1976年6月4日生まれ。韓国・光州出身。眞興高−ヘテ−サムスン−東京ヤクルト。182センチ、80キロ。右投げ右打ち。95年にヘテに入団し、99年にサムスンへ移籍。抑え投手として頭角を現し、98、04年に最優秀救援投手、99年に最優秀防御率。シドニー五輪では銅メダルを獲得。韓国通算534試合で104勝66敗168セーブ、防御率3.25。東京ヤクルトに移籍した08年は54試合に登板して1勝5敗33セーブ、防御率3.00。今季は35試合に登板して3勝1敗19セーブ、防御率0.25(7月16日現在)。オールスターのセ・リーグ抑え部門でファン投票1位に選ばれた。
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著者プロフィール

1972年東京生まれ。「韓国プロ野球の伝え手」として、2004年から著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』を毎年発行。韓国では2006年からスポーツ朝鮮のコラムニストとして韓国語でコラムを担当し、その他、取材成果や韓国球界とのつながりはメディアや日本の球団などでも反映されている。また編著書『沖縄の路線バス おでかけガイドブック』は2023年4月に「第9回沖縄書店大賞・沖縄部門大賞」を受賞した。ストライク・ゾーン代表。

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