【レポート】全国競技運営責任者会議 / 5年ぶりに対面で開催。WRk、ブロンズレフェリー、C級審判員制度など理解を深める

日本陸上競技連盟
チーム・協会

【JAAF】

日本陸連競技運営委員会は2月15日、東京都北区の味の素ナショナルトレーニングセンターで「2024年度全国競技運営責任者会議」を開催しました。コロナ禍の影響でオンラインでの開催が続いていましたが、2020年以来5年ぶりに対面を復活させ、オンラインと合わせたハイブリットでの実施となりました。
競技運営委員会では、毎年更新される世界陸連(WA)規則に準じて、日本の競技会運営に合わせた規則を制定しています。この会議は、全国の競技会が規則に沿って正しく運営されるために、更新・変更された部分のポイントを説明し、競技運営の現場でどのように実践していくべきかの理解を深めてもらうことを目的に、毎年実施されています。同時に、それが陸上競技の普及・発展、競技レベルの向上にもつながるものであることから、全国の競技会運営の担当者とともに研究を重ねる場でもあります。

●田﨑専務ご挨拶

年度末のお忙しい中、ご参加ありがとうございます。2025年は日本陸連が3月8日に創立100歳を迎え、9月には東京で世界陸上を 開催する大切な節目です。この100年は、競技会の歴史であり皆様の努力の歴史です。日本の競技会運営は、海外からの模 範として現在のWAスタンダードの基礎となってきました。しかしながら取り巻く状況は、担い手の不足や人件費の問題への 対応など喫緊の課題が山積みです。激変する環境変化に対応していくためには、諸制度の見直し先端技術の活用や柔軟な競 技運営による省力化が必要です。世界基準をベースに日本基準の良さを加え、世界トップのクオリティーを実現していく必 要があります。そのためには大胆に発送を切り替え、スピード感をもって変革していかなければなりません。明日に繋がる、繋げる議論を、皆さんと一緒に進めていきたいと思います。
実際、1964年に開催された東京オリンピックに向けて整備された日本の公認審判員制度、公認陸上競技場制度をWAが持ち帰り、現行の競技場認証制度、審判員養成認証制度を作っています。「世界の先駆け」とも言える日本の競技運営を今後も継続していくために、世界的な地位向上を視野に入れた取り組みが求められます。
それらを踏まえ、会議の主軸である競技規則修改正以外でポイントとなったのが「WRk(World Ranking Competition/ワールドランキングコンペティション)運営」および「ブロンズレフェリー」でした。

●WRkについて

2023年1月からスタートしたWRkは、WAが開催する国際競技会をはじめとして、ランキングや国際大会(オリンピック・世界選手権など)の参加資格など、WAが記録集計の対象とする競技会のことです。WAに対して60日前までに実施種目・開催期日・開催場所などを申請して承認を受ける必要があります。
選手たちがオリンピック、世界選手権に出場するためには、まず、WRkへの出場が欠かせません。競技会を主催する側からすると、国内申請に追加して手続きや準備が加わることになりますが、国内でも国際規則を適用し、世界を目指す選手たちが出場するWRkの運営に関して、改めて説明がありました。
加えて、WRkでの「記録」の取扱いについて、新しい考え方が示されました。WAは2024年1月から世界記録や各国ナショナルレコード、各個人の自己ベストについて、WRkで出された記録のみを承認しています。そのため、国内の非WRkで生まれた記録はWAは承認せず、食い違いが生じることがあります。その例が、女子800mの日本記録です。
昨年7月、関西学連第1回長距離強化記録会において久保凛選手(東大阪大敬愛高)が、日本人女子で初めて2分の壁を破る1分59秒93の日本新記録を樹立しました。しかし、WAが認めている久保選手の自己ベストはインターハイで出した2分00秒81であり、日本記録についても2005年の日本選手権で杉森美保選手(京セラ)が出した2分00秒45のままです。
これは、久保選手が日本記録をマークした記録会がWRkの申請をしていなかったことによるものです。国内の公認競技会での記録なので、国内において日本記録であることは間違いありませんが、非WRkでの記録であるためにWAには認定されず、食い違いが生じています。
そのため、2024年度以降の日本記録に関して、非WRkでマークされた記録がWRkでマークされた記録を上回る場合には、記号を付けて以下のように記録を区別することが確認されました。

女子800m 日本記録
(W)杉森美保(京セラ)2.00.45(2005. 6. 5)
(J)久保 凛(東大阪大敬愛高・大阪)1.59.93(2024. 7.15)

また、競歩に関して質疑応答がありました。競歩の記録認定には日本陸連競歩審判員(JRWJ)3名の署名が必要となりますが、WRkではさらに国際競歩審判員(WARWJ)の署名が必要となります。この点について、「インターハイ予選もWRkでの開催を求められていますが、WARWJを呼ばなければいけないのでしょうか?」という質問が出ました。それに対して、競技運営委員会からは「その大会に世界記録を出しそうな選手が出場する場合、検討する必要がありますが、そうでない大会にまでWARWJが必須というわけではありません」という説明がありました。WRkは種目ごとに申請できるので、出場選手のレベルに応じた柔軟な対応が求められるということです。

●ブロンズレフェリーについて

「ブロンズレフェリー」については、まさに世界水準を目指すうえで、欠かせない資格となります。国際大会やWRkにおいては、審判長や審判主任を務めるためにブロンズレフェリー資格が必須。大会運営に関して豊富な知識と経験が求められますが、審判員の活躍を後押しするうえでも競技運営委員会から「2025年の来るべき試験に向けて、積極的な推薦をお願いしたい」とありました。ブロンズレフェリー試験はアジア陸連が実施。期日がタイトな場合が多く、受験候補者の選定や準備を事前にしておくことが必要であることも添えられました。
なお、試験はオンラインアプリ「TestWe」にて実施。2024年は、ブロンズレェフリー試験は9月27日~29日に行われ、186名が受験して144名が合格(合格率77%)。受験者と試験内容を振り返るブロンズレフェリー試験総括ミーティングが12月7日に実施されています。ブロンズ競歩審判員試験はTestWe、および筆記によるビデオ判定試験で12月7日に実施され、先行実施試験受験者を含む16名が受験して13名が合格しています(合格率★%)。参考までに、国内では現在、ゴールド競歩審判員は2名、シルバー競歩審判員が1名という状況です。
試験は1年に1回。WAからはジェンダーバランスの観点から男女比を50:50に近づけるよう求められており、女性審判員の育成が急務とされています。

●会議全体の報告と「C級審判員制度」の状況について

WA競技規則の今年の更新では、大きなルール改正はありませんでした。そのため、日本の競技規則についても大きな変更はありません。ただ、細かい補足を行い、「スタート時における不適切行為の判断(イエロー、レッドカードなど)は審判長が行う」といったルールの明確化を図っています。また、2026年1月1日から競歩の標準となる距離が変更になる(20km→ハーフマラソン、35km→フルマラソン)ことに伴い、世界記録の認定も同日付けとなり、「最初の世界記録認定に必要となる最低限の記録は2025年に公表」などが確認されました。
その後、「スタート」の判定について、大会のスムーズな進行・盛り上げを担う「アナウンス」についての説明・確認と進み、休憩を挟んで分科会を同時進行で実施されました。
分科会1は、競技カレンダー・記録PTから競技会コードの変更や、競技会公認申請、記録公認申請方法の変更が発表され、広告規則検討PTからは、2025年度の「広告規程修改正」(案)も示されました。
特に記録公認については、これまでの公認申請は陸上競技マガジン記録室への送付とされていましたが、2025年度からは日本陸連へと変更されます。また、2026年度からは書類申請を無くして「電子申請のみ」とし、2025年度は移行期間としてメール添付方式での申請も認める旨が伝えられました。
また、時間を割いて確認がなされたのが、インターハイ予選における「上位大会進出者の決定」について。インターハイ予選では上位大会(都府県大会→地区大会、地区大会→全国大会)進出者の枠が決まっているため、特にフィールド種目で「6位タイ」など進出枠より多くなる状況が見られます。その決定方式については各大会の裁量にゆだねられ、決定戦や抽選などによって決定することが可能です。
その際に、従来は記録公認申請については「別大会」として、申請書類が別途必要になっていたが、今年度から「別ラウンド」「追加試技」として公認申請が可能になります。ただし、その名称については「6位決定戦」ではなく、あくまでも「関東大会出場者決定戦」などとするということが確認されました。
分科会2ではS級審判昇格審査やJTO活動の報告、審判員制度についての確認がなされました。
分科会後の質疑応答では、高校生から資格を持てる「C級審判員制度」について、都道府県の取り組みに差があるという実態についての質問がありました。その中で、全国でダントツの「480名」が有している福島県の取り組み内容について知りたいという声が上がり、説明がありました。
福島県では高校生の陸協登録にC級審判講習を組み込むことで、高校生が原則としてC級資格を取得できるような仕組みを構築しました。各支部の新人戦で講習会を行い、テキストを各学校で印刷することで受講者の費用は無料に。審判手帳の費用も無料にしている支部もあるそうです。高校生たちも競技者だけでなくマネージャーを含めて積極的に競技会運営に関わることで、「審判資格を持っていることで、自覚を持って競技会に臨める」という点を強調していました。
最後に海外を含む競技会報告、9月に東京・国立競技場で開催される世界陸上競技選手権の準備状況の報告、審判員のコンプライアンス研修について説明がありました。

会議の結びとして、日本陸連競技運営委員会の鈴木一弘委員長が「5年ぶりの対面方式でしたが、集まっていただいた方々と交流することで、他県の様子がわかるなどメリットは非常に大きい。予算を確保し、今後につなげていきたいと思っています」と挨拶。続けて、「今回で得たもの、伝達事項を正確にそれぞれの地元に伝えていってください」と訴え、散会となりました。


文・写真:月刊陸上競技

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