マンC入り早大生・大山笑美#2 WEリーグから大学サッカーを選んだ理由

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“エリート街道まっしぐら”の大山がア女を選んだ理由 「結果を出し続けないと代表にも選ばれない」

 今年1月18日、イングランド女子スーパーリーグ、マンチェスター・シティー(マンC)は、早大ア式蹴球部女子(ア女)のMF大山愛笑(スポ2=現マンチェスター・シティ)の加入を発表。2年間所属したア女を異例のかたちで退部し、大学には在籍したままプロサッカー選手としての活動をスタートする。弊会は移籍間もない大山に、単独インタビューをさせていただいた。移籍についてや幼少期の話まで、大山のアスリート人生と哲学に迫る。
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 しかしその後大山は、プレーぶりだけではなくキャリア選択でも世間を驚かせた。メニーナを退団後早大に進学、そしてア女に加入したのだ。

パスを出す大山 【早稲田スポーツ新聞会】

 大山がすでに活躍を見せていたWEリーグを基準とすれば、当然ながら大学サッカーはより下位のカテゴリーにあたる。このニュースは驚きをもって迎えられ、むしろ直截に言えば「なぜ」と首をかしげるファンも多かったはずだ。

 この疑問に大山は、様々な場で幾度となくアンサーを出してきている。

 「…1番の理由は、「若葉さんともう一度サッカーをする」という気持ちがあったから。またチームメイトになりたい、同じピッチに立ちたい。4年間のうち一緒に出来るのはたったの1年、今年だけかもしれないけれど、どうしてもこれを叶えたいと強く思った。なぜここまでこだわるのか。それは、メニーナの最後日本一を獲って笑顔で若葉さんを送り出せなかったから。最後の最後で負けた悔しさ、相手の喜んでいる姿を茫然と見ることしか出来なかった自分の不甲斐なさは今でも鮮明に覚えている。」

 (公式部員ブログ『ア女日記』より)

 「若葉さん」とは、後藤若葉(令6スポ卒=現三菱重工浦和レッズレディース)のこと。大山のメニーナ時代からのチームメイトであり3歳上の先輩で、一昨年のア式蹴球部女子(ア女)の主将だ。入学初年度からア女を引っ張り続け、2年時には全日本大学女子選手権(インカレ)優勝の立役者となった選手である。現在は三菱重工浦和レッズレディースでプレーしている。

チームメイトに指示を出す後藤 【早稲田スポーツ新聞会】

 確かに後藤はプレイヤーとしてだけでなく、ピッチ外でもカリスマ性のある優れたリーダーだった。とはいえ育成年代の1チームで出会った、3歳上の先輩に自らのキャリアの一部を捧げることが、色々な意味で相当に大きな決断であるのは言うまでもない。

 改めて真意を聞いてみた。「やっぱりずっと同じクラブでプレーしていたので。今でもベレーザもヴェルディも大好きですけど、少しでも環境を変えて、サッカー選手として1つでも2つでも成長したいという思いが芽生えたんです。それが若葉さんとやりたい、という思いと合わさったという感じでした」。当時の指導者たちも大山の決意の固さを理解し、最後は背中を押してくれたという。

 カテゴリーを下げれば、代表選出にも多少なりとも影響が出るのは間違いない。そこに不安や迷いはなかったのか。

 「自分のレベルをキープすれば良いと思っていましたし、ア女に行くからこそ、結果を出し続けないと代表にも選ばれないと思っていました。周りではなく自分が目指しているところを忘れずに、基準を保ち続けよう、と」。言うは易しだが、実際に日本の大学生で唯一U20W杯メンバー入りを果たし、中心選手として活躍してみせたのは前述のとおり。まさに有言実行である。

一昨年のインカレ2回戦で決勝点を決め、喜ぶ大山 【早稲田スポーツ新聞会】

 若葉さんを優勝させる——。そう宣言して臨んだ、ア女1年目のシーズンを締めくくるインカレ。高3の時に負ったケガでシーズンの大半を棒に振った大山は、この大会で復活を遂げた。大会での全4戦にスタメン・フル出場を果たし、ア女の全ての得点に関与する大車輪の活躍。リハビリ期間、そして復帰後も思うようにプレーできなかった鬱憤を晴らすかのようだった。

 劇的だったのは、準決勝・帝京平成大戦(2024年1月4日、◯1-0)。スコアレスで迎えた試合終盤、フリーキックの場面でボールをセットした大山は、ゴール前に上がってきた後藤に何やら耳打ち。すると笛の合図で大山が蹴り込んだニアへの鋭いボールに、走り込んだ後藤が頭で合わせて決勝点。大山と後藤は抱き合い、喜びを爆発させた。「若葉さんを優勝させる」、そんな大会前の宣言通り。ここでも有言実行で、大山のア女デビューシーズンは華々しく幕を閉じようとしていた。

決勝点を決めた後藤(写真中央)と抱き合う大山(写真右) 【早稲田スポーツ新聞会】

しかし決勝・山梨学院大戦(2024年1月6日、●2-3)、延長までもつれ込んだ試合はア女の敗北。大山は2点目をアシストするなど好プレーを見せたが、リーグ王者の力にわずかに及ばなかった。試合終了のホイッスルが鳴ると大山は俯き、静かに肩を震わせていた。

インカレ決勝、試合後に涙を流す大山(写真左) 【早稲田スポーツ新聞会】

 順風満帆に見える大山のキャリアだが、ここ数年に限って言えば、タイトルをあと一歩のところで逃し続けているとも言える。ア女での2回のインカレはそれぞれ準優勝、ベスト4。2022年、2024年のU-20女子W杯はいずれも準優勝で涙を飲んでいる。

 「(インカレは)初戦からマークにつかれていて、なかなかボールを受けられなくて。その中でも結果は出さなければいけなかったなと、悔いが残る大会です。昨年のW杯についても、全てを上回られてしまったと思っているので、もっとやらないとな、と感じています。とはいえ自分自身深く考えるタイプではないので、その時々は悔しいですけどすぐに切り替えていますね。引きずるとかはないです」

 目の前のことに集中し、終われば切り替える。チームのために全力でプレーし、一方で常に自らの目標地点を忘れない。この強い自意識とメタ認知能力が、ピッチ内のプレーに勝るとも劣らない、アスリートとしての大山の圧倒的な強みだ。
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著者プロフィール

「エンジの誇りよ、加速しろ。」 1897年の「早稲田大学体育部」発足から2022年で125年。スポーツを好み、運動を奨励した創設者・大隈重信が唱えた「人生125歳説」にちなみ、早稲田大学は次の125年を「早稲田スポーツ新世紀」として位置づけ、BEYOND125プロジェクトをスタートさせました。 ステークホルダーの喜び(バリュー)を最大化するため、学内外の一体感を醸成し、「早稲田スポーツ」の基盤を強化して、大学スポーツの新たなモデルを作っていきます。

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