マンC入り早大生・大山笑美#1 学業継続のままプロへ、振り返るサッカー人生

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幼少期は「男の子たちにやりたいポジションが言えなくて…」 マンC加入の現役早大生、大山の振り返るサッカー人生

今年1月18日、イングランド女子スーパーリーグ、マンチェスター・シティー(マンC)は、早大ア式蹴球部女子(ア女)のMF大山愛笑(スポ2=現マンチェスター・シティ)の加入を発表。2年間所属したア女を異例のかたちで退部し、大学には在籍したままプロサッカー選手としての活動をスタートする。弊会は移籍間もない大山に、単独インタビューをさせていただいた。移籍についてや幼少期の話まで、大山のアスリート人生に迫る。〈全3回の#1〉
#1

 “アエム・オオヤマのデビューです。現在日本人選手が多く活躍するシティ。東京ヴェルディ出身の新たな選手がハセガワと代わります——”。

 1月25日、現地時間正午キックオフのイングランド女子スーパーリーグ第12節・アストン・ヴィラ戦。2点リードのゲーム終盤84分、現地コメンタリーの紹介を受けて、大山はピッチサイドに姿を現した。交代の相手はなでしこJAPANのゲームメーカー・長谷川唯。偉大な先輩とタッチをかわし、少し緊張した面持ちの現役早大生は、フットボールの母国の芝生にその足を踏み入れた。

パスを出す大山。広い視野と卓越した技術、高いサッカーIQが特徴だ 【早稲田スポーツ新聞会】

 渡英からわずか2週間足らず、大山は早くもイングランドデビューを果たした。「パワーやスピードの部分はやっぱりすごかったです。ただ技術のところは、まだちょっとしかやれてないですけど、通用する自信はあります」。取材中着ていたフーディには、マンCのエンブレム。当然ながら大山はもう、あのマンチェスター・シティーの選手だ。

 クラブからのコンタクトは、昨年コロンビアで開催されたU-20女子W杯の終了後、10月頃だった。大山はこの大会で全7試合に出場。広い視野と精度の高いパスでチームをコントロールし、ヤングなでしこの準優勝に貢献した。選出されたメンバーの中では唯一、日本の大学から参加する選手でもあった。

 「自分の中でここに行く、という決断は早い段階でついてました」というが、数カ月間クラブ関係者とzoomでの面談を繰り返した。時差もある中での交渉は長引き、ア女のシーズン最後の大会、全日本大学選手権(インカレ)の期間中にも契約についての話が続いていたという。

インカレ準決勝、入場する大山 【早稲田スポーツ新聞会】

 改めて今回の決断の理由を聞いてみると、「(マンCは)チャンピオンズリーグ(CL)に出たいという夢に一番近い場所だと思いましたし、誰もが知っているビッグクラブだというのも間違いないので」。国内リーグで優勝争いを繰り広げ、今季CLの舞台を戦うクラブのレベルの高さや環境、規模感は当然魅力的だった。明快な理由だが、あまりに平然と語られる話に頷いていると、大山がまだ二十歳の大学2年生であることを忘れそうになる。

 理由はそれだけではない。「試合を見て、自分がやりたいサッカーをしているなと思ったんです」。中・高6年間日テレ・東京ヴェルディメニーナ(WEリーグ・日テレ・東京ヴェルディベレーザのアカデミー)に所属していた、大山らしい答えだ。

 ベレーザはボールを支配する攻撃的なサッカーが特徴で、日本女子サッカー界では育成年代・プロを問わずある種のブランドとなっている。マンCもボールを支配し、ポジショナルプレイを基本とする攻撃的なチーム。大山のみならず、現在マンCに所属する日本人選手(清水梨紗、長谷川唯、藤野あおば、山下杏也加)が皆日本時代にベレーザに所属していたという事実が、この2クラブの相似性の証左である。

メニーナ時代の大山(本人提供) 【早稲田スポーツ新聞会】

 大山のサッカー観やプレイヤーとしての強みの大部分は、やはりアカデミー時代に形成されたと言っていいだろう。父の教えで3歳の時にサッカーを始めると、小学生時代には頭角をあらわした。好きな選手はネイマール。体のサイズも当時は比較的大きく、プレースタイルも今とは異なっていた。当時の大山を知る人は皆、「男子と混じっても一番上手かった」と口をそろえる。

 小学校6年生の時に初めて、大山は名門・ヴェルディアカデミーの門戸を叩く。中学からメニーナでプレーすることが目標だったため、ジュニアからメニーナの内部昇格を期待して、セレクションを受験した。

 今となっては笑い話、そんなトラブルもあった。当時すでにボランチでプレーする楽しさの虜になっていたと言うが…。「セレクションで男の子たちにやりたいポジションが言えなくて(笑)。他が空いていなかったのでフォワードをやったんですけど、結構点をとって受かったので、ジュニアでもずっとフォワードをやってました。メニーナに昇格した時も、最初はフォワードだったんです」。

 念願のメニーナに加入した大山は、順調にアカデミーの階段を上り経験を積んでいった。高2でWEリーグデビュー、初ゴールをマーク(2021年10月16日、リーグ第6節ちふれASエルフェン埼玉戦)すると、その後リーグ計6戦に出場。第43回全日本選手権(皇后杯)では全6試合に先発出場して、国内女子サッカー界を驚かせた、ユースチームながらベスト4というメニーナの大躍進を支えた。さらに高3時にはU-20女子W杯のメンバーに選出され、準優勝に貢献。いつの日からか大山は、日本サッカー界から将来を嘱望される世代屈指のプレイヤーとなっていた。
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著者プロフィール

「エンジの誇りよ、加速しろ。」 1897年の「早稲田大学体育部」発足から2022年で125年。スポーツを好み、運動を奨励した創設者・大隈重信が唱えた「人生125歳説」にちなみ、早稲田大学は次の125年を「早稲田スポーツ新世紀」として位置づけ、BEYOND125プロジェクトをスタートさせました。 ステークホルダーの喜び(バリュー)を最大化するため、学内外の一体感を醸成し、「早稲田スポーツ」の基盤を強化して、大学スポーツの新たなモデルを作っていきます。

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