凍結防止剤を撒かなかった理由、そして「寒いのでありがたいです」と横山武史騎手が着ていたジャンパーとは/月刊・佐賀競馬だより

佐賀県競馬組合
チーム・協会

佐賀記念ジャンパーを着る横山武史騎手 【撮影:大恵陽子】

三寒四温。
最近は春を感じさせる陽射しの日もあれば、身が縮こまる冷たい風が吹く日も混在しています。
そうなると気を使うのは体調管理。気温の変化が大きい中で、風邪など引かないよう気を付けたいところです。

一方で、寒すぎるのも困ったもの。
2月はじめは日本列島に寒波が押し寄せ、各地で積雪による被害や高速道路の通行止めなどがありました。

その影響は佐賀競馬場にも。
佐賀競馬にとって一大レース・佐賀記念JpnIIIを2日後に控えた2月4日未明から当日昼過ぎまで断続的に雪が降り、一時は開催も心配されました。
今年の佐賀記念は前年覇者のノットゥルノやメイショウフンジンがJRAから遠征してくることに加え、地方馬もダート三冠や名古屋大賞典で地方馬最先着を果たしたシンメデージー(高知)や、JBCクラシック4着のシルトプレ(佐賀)など好メンバーが集いました。

せっかく佐賀まで来てくれる人馬のため、そしてレースを楽しみにしているファンのためにも、何とか無事に開催したい思いが競馬場全体にありました。

佐賀記念前日の競馬場。ラチ下や内馬場の植え込みに雪が積もっています 【撮影:佐賀県競馬組合】

そこで、対応が始まったのは佐賀記念2日前の夜遅く。
雪が降るということは気温も0℃前後で砂に含まれる水分が氷へと変わるため、ダートの表面が凍り始めたと感じると、すぐさまハロー掛けを行いました。

地方競馬では日付が変わってほどなくしてから調教が始まります。
ハロー掛け中ももちろん地元馬の調教があるため、職員はコース入り口に立ってハロー掛け中である旨を1頭1頭に声かけし、内側にある調教走路を使うように誘導。
別の職員はコース全体を監視しながら、馬場で何頭が調教中かなどリアルタイムな状況を無線でハロー車に共有しました。

8人体制で、日が昇るまで作業は続けられました。

この作業は佐賀記念前夜も同様。
担当職員たちは競馬場に泊まり込んで夜通し馬場整備にあたりました。

最低気温は氷点下ということを考えると凍結防止剤を撒いてもおかしくない状況でしたが、撒かずにハロー掛けのみで馬場を維持。そこには佐賀記念へかける熱い思いもありました。

馬場保全を担当する川俣博太郎氏はこう話します。

「まず一つは、凍結防止剤を撒くほどの凍り方が見られなかったことが理由です。
ハローを掛ければなんとかなると判断しました。
そしてもう一つは、凍結防止剤を撒くことで馬場状態の変化が想定され、なるべくそれは避けたかったからです。
佐賀記念という大きなレースを控え、直前で馬場状態に大幅な変化を与えたくありませんでした」

どんな馬場状態になろうとも、全馬が同じコースを走る限りは「みな同じ条件」となります。
その点で言えば、凍結防止剤を撒いても撒かなくても特定の馬だけが影響を受けることはないのですが、特殊な条件下にはなってしまいます。
そうではなく、なるべく出走馬たちが普段と変わらぬ馬場状態で全力を発揮できるように、と寝る間を惜しんでハロー掛けを行ったのでした。

佐賀競馬ならではの温かいおもてなしである「うまてなし」がここにありました。

騎手の体調管理にも「うまてなし」

もう一つ、佐賀記念にはうまてなしがありました。

それは騎手の防寒対策。

佐賀記念は今年初めてナイター開催として行われ、19時30分発走でした。
冬のナイター開催はとても冷え込み、地元騎手たちにはそれぞれに名前の刺繡の入った防寒ジャンパーが用意され、ゲート裏の輪乗りまで着用が許可されています。

事業課副課長の川端英二氏はこう話します。

「今年から発走時刻を遅くし、ジョッキーからは防寒対策のリクエストを受けていました。そこで、佐賀記念に騎乗する12名のジョッキーにオリジナルジャンパーを用意することとにしました」

背中には佐賀記念の文字が、胸元にはロゴが入った特製デザインのジャンパーを用意したのです。

佐賀記念騎乗ジョッキーに配られた特製ジャンパー 【撮影:大恵陽子】

この企画に参加したうちの一人、番組企画係の大久保蓮氏はこう話します。

「当日、騎乗ジョッキーたちに配るとほとんどのジョッキーが『着ます』と言ってくださいました。
お客様から見えるパドックや本馬場入場時にはすでに脱いでいるジョッキーも多かったですが、装鞍中やパドックに入る直前まではほぼ全ジョッキーが着てくださっていたように思います。
中でも横山武史騎手は『寒いのでありがたいです』と喜んでくださって、パドックでも着てくださっていました」

パドックで佐賀記念ジャンパーを着用する横山武史騎手 【撮影:大恵陽子】

斤量の関係だけでなく、着込みすぎると体を動かしづらくなるため、でき得る防寒対策は限られています。
高機能で薄手のアンダーを着るジョッキーも多いですが、真冬の冷え込む夜はさすがにそれだけでは足りず、特に常歩(なみあし)で歩いている時は寒いという声はよく耳にします。

それだけに、スタート直前まで防寒ジャンパーを着ることができれば、ジョッキーも体を冷やさず、いざレースが始まれば体を動かしやすくなることでしょう。

大久保氏は最後にこう話しました。

「うまてなしをして、ジョッキーに『また佐賀競馬場に来たい』と思っていただけたら嬉しいです」

真冬のナイター開催には様々な課題がありますが、夜を徹しての馬場整備や防寒対策でうまてなしをした今年の佐賀記念でした。

文・大恵陽子(おおえ ようこ)
競馬リポーター。小学5年生で競馬にハマり、地方競馬とJRAの二刀流。毎週水曜日は栗東トレセンで、他の日は地方競馬の取材で全国を駆け回る日々。グリーンチャンネル「アタック!地方競馬」「地方競馬中継」などに出演のほか、「優駿」「週刊競馬ブック」「うまレター」「馬事通信」など各種媒体で執筆。
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著者プロフィール

佐賀競馬は九州唯一の地方競馬場として主に土日に競馬を開催しています。注目の重賞情報やイベント情報など、佐賀競馬のニュースを日々お届けいたします。

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