【JAAFエデュケーター養成講習会】全国各地で求められる陸上コーチの育成者!狙いは競技人口の拡大とウエルネス陸上
【JAAF】
4年目となったその講習会の内容と参加者の声をお届けする。
JAAFエデュケーター講習会のプログラムについて
【JAAF】
この講習会では、参加者が今後、エデュケーター(コーチの養成者)として、コーチの学びを促進するためにどのように振る舞い、支援をしていくのかを実践的に学ぶことを目的として実施されている。
初日はまず、日本陸連指導者養成委員会の山本浩委員長があいさつを兼ねて「日本陸連が考える指導者養成」をテーマに講義。続いて、同強化部指導者養成課の田中悠士郎課長が、「JAAF公認コーチ資格制度」についての説明を行った。
「公認のスポーツ指導者制度は、日本スポーツ協会(JSPO)と日本陸連が共同認定している資格です」と田中課長。JSPOが共通科目の運営・管理、JAAFが専門科目の運営・管理を担っている。共通科目はスポーツ指導者に求められる基本的な知識や理論、課題解決のための技能を取り扱う。日本陸連が担当する専門科目では、陸上の指導者に求められる専門的知識や理論、安全管理を踏まえた知識と技能が講義の内容になる。
JSPOは2019年に大きなカリキュラムの変更を行っている。その一つが「プレーヤーズセンタードな考え方」。田中課長は「スポーツ全般としてはプレーヤーズセンタードと言うが、陸上競技の場合、プレーヤーではなくアスリートという呼称が一般的なので、陸上ではアスリートセンタードという言い方をしています」と話す。
「選手を中心として、選手を取り巻く保護者やトレーナー、栄養士、指導者、学校の先生など(アントラージュと言う)が、より良い環境、幸福な状態を作ることを目指してサポートしていく。そのような考え方に基づいてやっていこうということです」
もう一つが「学習形態の変更」だ。
「従来は専門分野の先生が来て、講義をし、高い専門的な知識を皆さんに持ち帰っていただくという形態だったと思いますが、現在は皆さんの知識や経験を参加者で共有して、より高めていくというかたち。そこに対して必要な情報提供や、学びの促進になるようなアプローチを講師がしていくという学習形態に変わってきました」
2022年度以降、JAAF公認コーチ資格は、公認スタートコーチ、公認ジュニアコーチ(JSPO公認陸上競技コーチ1)、公認コーチ(同3)の3種類の資格の養成が行われている。田中課長によると、現在の有資格者は全国で7185人。競技別に見ると陸上は6番目の人数だそうで、「陸連登録者(約40万人)や登録団体数等から考えると、最低でも1万5000人の有資格者が必要です。2025年度からは中学生以下が所属する団体・チーム(学校を除く)には1人以上の有資格指導者が登録することが義務付けられますが、将来的には全ての団体において同様の形になることが理想です」と田中課長。そのためにも、2021年度から始まったエデュケーターの養成が重要になる。
2024年12月時点で、エデュケーターの養成人数は30都道府県に59人。2024年度末には39都道府県に配置可能になる人数に増える予定で、47都道府県への配置まであと一歩のところに来ている。
【JAAF】
1.陸上競技の魅力に触れる幅広い機会の提供
森ディレクターはここで、中学校から高校へ進学した生徒の、陸上競技の継続率を例に挙げた。
「2018年と少し古いデータになりますが、中学3年の男子が約3万5000人、女子が2万8000人。しかし、高校で続ける人は男子が1万8000人強で、新たに始める人と合わせて2万6600人。女子は継続が8400人程度で、新規と合わせても1万5000人程度となります。総数としては中学3年から高校1年に上がる段階で、男子は74%、女子は53%になる。継続する人が少ないのが現実です」
では、陸上競技を楽しく続けてもらうために、指導者は何をしなければならないのか。森ディレクターは、公認コーチ資格の第一関門となるスタートコーチには「初めて指導方法を学びに来られる方が多いということを想定して、楽しく陸上ができる環境を整えて、継続することが大切だというところを伝えていきたい」と強調した。
2.基礎的な運動能力を適切に発達させる活動の支援
これも競技者育成プログラムに書かれているが、「発育・発達の観点で、その選手がいつ伸びるかを判断するのは難しいところです」と森ディレクター。ただし「身長がいつ伸びて、持久力がいつ上がって、神経系の動きがいつ伸びやすいのか、という一般的なところの大まかな枠は、指導者がしっかり把握しておく必要があります」。
3.多様なスポーツ及び複数種目の実施を奨励
これは森ディレクターの話が明快だ。「陸上競技だけに特化してトレーニングをするのは中学生、高校生とカテゴリーが上がってからで十分。それよりも、さまざまな種目に親しんでいきましょう、という考え方です」。
パリ五輪の女子やり投で金メダルを獲得した北口榛花選手(JAL)も、子供の頃はバドミントンや水泳に親しみ、全国大会に出場している。
4.あらゆる年齢区分における長期的展望に立った質の高いコーチングの提供
ここで重要になるワードが「身体リテラシー」。これは、さまざまな身体活動やスポーツ活動などを、自信を持って行うことができる基礎的な運動スキルのこと。森ディレクターは「身体の能力だけでなく、メンタル、コミュニケーション、社会性、知識などの育成を、幼少期からやっていくことが大切」と話し、競技者育成プログラムにある6つのステージモデルについて触れた。
5.国際的な競技力向上のための適切な強化施策の実施
少し前の日本は、例えばU20世代の選手が世界大会で入賞しても、シニアになると世界の舞台で活躍できない、という見方をされてきた。しかし、近頃は日本人も20代後半から30代前半に自己ベストを更新する選手が増えてきている。「中学生、高校生でピークを迎えない。その先に自己記録を更新できるような喜びが待っているよ、ということを示すもの」と、森ディレクターはこの傾向を歓迎する。
全国各地で開催されるスタートコーチ養成講習会では、ここまでの5つの項目をエデュケーターが説明をしてから始める、という流れになっている。
【JAAF】
120分が充てられたこの講義では、受講者が3~4人のグループに分かれ、講師が提起した問題をグループ内でディスカッションし、発表する、アクティブラーニング方式が採られた。
まずは、アスリートセンタードとコーチングについて。受講者からは「主役はアスリート」「選手が考えていることを一緒に考える」「コミュニケーションが大事」などの発言があり、講師側からアスリートセンタードのセルフチェックシートの活用や理論的背景の説明がなされた。
続いて、エデュケーターとエデュケーターを見守る観察者、コーチ、アスリートと役割を分担して、さまざまなワークショップを展開。エデュケーターとして、どのようにコーチに働きかけるか。「こうすればもっと良くなるというフィードバックをもらうことで、コーチのモチベーションを上げる役割がある」という話も出た。
最後に、佐良土氏から「安全確保のためのチェックリストを作成しよう」という問題提起があり、受講者がグループごとに模造紙に書き込んだ。
この後、受講者はNTCの陸上競技場へ移動して、スタートコーチ、ジュニアコーチの種目別指導を実践。「安全管理と場の設定」も確認した。
2日目は、公認スタートコーチ養成講習会で行われるプログラムに沿って、ワークショップを交えた講義を実施。それぞれの講義は、1日目に行われた佐良土氏のプログラムと同様に、エデュケーターとしてグループワークを運営し、その立ち振る舞いを振り返る形式で進められた。
「指導者の役割と責任」では、日本陸連指導者養成委員会の沼澤秀雄副委員長がスタートコーチ養成講習会においては、講義の冒頭でアイスブレイクにより受講者が学びやすい雰囲気を作ることが大事であることに触れた後、「指導する上で大切にしていること」「倫理問題」をテーマにした講義を展開した。続く「指導のプロセス」は指導者養成委員会の岸政智ディレクターが担当。安全管理に欠かせない「ヒヤリハットの共有」や「問いかけのスキル」についてのグループワークではエデュケーターが適度に介入することで学びが広がることを強調した。
昼休みを挟んで行われた「コーチの視点」は、森ディレクターが担当。実際のスタートコーチ養成講習会では、経験値や知識量が異なる受講者がいることを説明し、グループワークとして行われるシナリオ学習の効果的な進め方についても解説した。最後は再び沼澤副委員長が「コーチ自身の成長計画」を担当し、参加者それぞれが、本講習会での学びや気づきを振り返り、エデュケーターとして今後どのように成長していくかについて共有をして講習を終了した。
今回の出席者はこれで「エデュケーター候補」となり、最終的な認定審査を受けるには、実際にスタートコーチを運営・統括することが求められる。そして、日本陸連指導者養成委員会で活動状況を確認し、認定するという流れになっている。
受講者の声
【JAAF】
愛知の県立の高校に勤務し、愛知陸協では強化委員会の跳躍ブロック主任を務める赤井裕明さんは、日本陸連強化委員会でも強化育成部スタッフを務めている。今回は赤井さん含め、県内の高校教諭4人で参加。「何か勉強になることがあると思い、チャンスと捉えて受講させていただきました」と話す。エデュケーターとは「指導者に適切なコーチングをしてもらえるようにアドバイスをする立場」と理解。「昨今言われているような行き過ぎた指導ではなく、アスリートセンタードを踏まえて選手を大切にできる指導者が増えてくれば、陸上人口も増えてくるのでは」と期待する。グループワークでは「こういった視点もあるのか」と、新たな気づきもたくさんあったようだ。
母校の岐阜県立高校に勤める太田和憲さんは男子400mなどで活躍した元スプリンターで、今は岐阜陸協理事(高体連担当委員長)。高校時代の恩師である黄倉寿雄専務理事に「今後の岐阜県(陸上界)を頼む」と言われ、参加した。「今まではエデュケーターに来てもらって県内の講習会を開いていたのですが、これからは自分がエデュケーターという立場でやっていきたい」と話す太田さん。中学から高校へ上がった段階で陸上部に入る生徒が減っているのを学校現場で目の当たりにしており、「競技を続けてくれることが第一」と強調した。一方ではクラブチームが増えていて、「そちらの統括も必要」と言う。
埼玉県陸協普及委員の腰塚友理さんは、さいたま市立の小学校勤務。埼玉栄高から国士大と陸上競技(走幅跳)をやってきて、「スポーツが大好きな子供たちを育てたい」と資格を取得し、県内の子どもたちへの指導にあったっているとのこと。腰塚さんは本講習会について、「全国の指導者の方々と直接コミュニケーションをとることで知識の幅も広がりますし、学ぶことが楽しいです」と目を輝かせ、「指導者も学び続けて、変わっていかないと」と、自分に言い聞かせるように話した。
文・写真:月刊陸上競技
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