【CPBL】2024年ポストシーズン回顧 平野恵一監督率いる中信兄弟がシリーズ制覇
監督就任一年目でチームを台湾王者に導いた平野恵一監督。全身全霊を注ぎ、チーム力強化にあたっている 【©CPBL】
現地から台湾プロ野球の情報をお伝えしているこのコーナー、今年第1弾は、2025年シーズンに向け、まず時計を少し巻き戻し、昨年のポストシーズン及び年間表彰式、このオフの主役古林睿煬について、そして、ストーブリーグや今年の日台交流に関する話題を、3回に分けてお伝えしよう。
プレミア12をきっかけに、台湾プロ野球(CPBL)に少しでも関心をもったファンの方々に、今シーズン、より踏み込んで楽しんでいただくきっかけとなれば幸いだ。
2024年の台湾シリーズ、平野恵一監督率いる中信兄弟が統一を4勝1敗で下し、10度目の台湾王者に輝いた 【©CPBL】
中信兄弟が2年ぶり10度目のシリーズ制覇、MVPはプレミア12代表の曽頌恩
もう1枠の台湾シリーズ進出をかけた4戦3勝制のプレーオフ(10/12~14)は、統一と、年間3位の楽天モンキーズの対戦になった。1勝のアドバンテージをもつ統一は、第1戦でエース古林睿煬が好投、投手戦を制して王手をかける。第2戦こそ、楽天が誇る「暴力猿打線」が爆発し大敗も、第3戦は序盤からペースをつかみ8対5で逃げ切り。前年のプレーオフでは3連敗を喫した相手にリベンジを果たし、3年ぶりとなるシリーズ進出を決めた。
そして、前後期優勝チーム同士の対戦となった7戦4勝制の台湾シリーズ(10/19~25)は、中信兄弟が1勝1敗で迎えた第3戦から3連勝、4勝1敗で制し、2年ぶり10度目となる台湾王者に輝いた。台北ドームでシリーズ初開催となった初戦は、大入り4万人を集めるなど、5試合で勝負が決したにもかかわらず、観客動員数は、過去最多となる延べ13万2625人を記録した。
勝負の分かれ目といえる場面を挙げるとすれば、まずは初戦、シーズンで最優秀防御率に輝いた統一のエース、古林睿煬のアクシデントによる降板であろう。初回、統一は、中信兄弟先発、ホセ・デポーラの立ち上がりを攻めて3点先制、一方、統一の先発、古林睿煬は3回まで無失点と上々のスタートをみせた。下馬評では中信兄弟が有利と見られていたが、多くのファンはプレーオフ同様、初戦を統一が取れば俄然面白くなる、と思ったはずだ。
しかし、4回裏、一度はマウンドに登った古林が背中に強い張りを感じ、トレーナーに付き添われ緊急降板する。息を吹き返した中信兄弟はその4回、続く5回と1点ずつ返し1点差とすると、6回裏、統一の中継ぎ陣に襲いかかり、打者12人の猛攻で一挙7点、逆転どころか試合まで決めてしまった。持ち直したデポーラは、結局7イニングを初回の3失点のみに抑え、10対4で逆転勝利を収めた。
もう一つは、1勝1敗で迎えた第3戦、中信兄弟3対0リードで迎えた6回裏の場面だ。中信兄弟の先発、左腕のカーク・マッカーティの前に、なかなか得点を奪えずにいた統一は、一死から連続ヒットと四球で、満塁の大チャンスをつくる。ここで、平野恵一監督がマウンドに送り出したのは、2023年は抑えをつとめた元阪神の呂彦青だった。「強心臓」が強みの呂は、フルカウントとしながらも、この日4番をつとめた勝負強い陳鏞基を注文通りのダブルプレーに打ち取り、絶体絶命のピンチをしのいだ。流れをつかんだ中信兄弟打線は7回、曽頌恩のシリーズ2本目となる3ランHRなど4得点、8回にも3点追加し10対0で大勝、2勝目をあげ、シリーズの主導権を握った。
続く第4戦、第5戦と、統一はいずれも一度はリードを奪ったものの、再度勝ち越しを許すと追い上げはならなかった。中信兄弟は、第4戦は9回から呂彦青、第5戦は8回からプレミア12代表の呉俊偉と、平野恵一監督が「優勝のキーマン」と語った2人をつぎこみ、僅差を逃げ切った。統一は、初戦の逆転負け以降も奮起したが、攻守にわたり、中信兄弟の安定した強さを感じるシリーズとなった。
MVPには、21打数11安打、2HR、7打点と大活躍した中信兄弟の右打ちの強打者、曽頌恩が選ばれた。入団以来、潜在能力は評価されつつ課題も多かった曽頌恩だが、コーチ時代から「一番厳しく指導したかも」という平野監督に抜擢され、粘り強く起用されると、初めて規定打席に到達した。台湾でも人気の漫画『SLAM DUNK』の登場人物、魚住純に似ていることから、ファンからは「魚住」、平野監督からは「ジュン」と呼ばれている24歳は、チームトップの打率.304、本塁打もリーグ7位の10本とブレイク、台湾シリーズでも大暴れした。台湾シリーズ終了翌日の10月26日には、追加招集でプレミア12代表に選出。スーパーラウンド進出をかけたオーストラリア戦では、リードを広げるレフトフェンス直撃の2点二塁打を放ったほか、スーパーラウンドの日本戦でも、早川隆久(東北楽天)から左中間を破る二塁打を放った。今シーズンは、さらなる進化に期待だ。
プレミア12組ではこのほか、6年連続守備率リーグトップの中信兄弟が誇る台湾球界屈指の二遊間、岳東華と江坤宇も攻守で活躍した。「黄金二遊」と呼ばれる彼らの、従来の台湾野球のイメージを覆す堅守に注目だ。
台湾シリーズでMVPに輝いた「魚住」こと曽頌恩。平野監督の粘り強い指導もあり、一気にブレイク、追加招集されたプレミア12でも活躍をみせた 【©CPBL】
平野監督は日本人監督4人目のシリーズ制覇 チーム力アップのために全身全霊
そして、台湾シリーズでも、のちの「プレミア12 MVP」陳傑憲がキャプテンを務める統一相手に4勝1敗でしっかり勝ちきり、日本人監督として、リーグ4人目となる台湾シリーズ制覇を果たした。
表彰式で、まずファンへの感謝の言葉を伝えた平野監督は、選手、そして共に戦ってきたコーチ陣に向け「厳しい監督だったと思うけど、よくついてきてくれた。本当にありがとう」と労った。
「動きまわる元気 誰にも負けない 明日へと続く道を拓け 前だけ見て」、これは、現役(オリックス)時代の応援歌の歌詞の一部だが、異国・台湾で、指導者と立場は変わっても、まさに、この歌詞のまま、常にエネルギッシュに動き回り、全身全霊を注いできた。
ただ、「熱さ」だけでなく、指導者としての冷静さ、柔軟さも持ち合わせているのが平野監督の強みだ。中信兄弟はリーグ一の人気チームで熱狂的なファンも多く、3位に終わった前期はバントを多用する采配が批判されることもあった。しかし、平野監督はメディアを通じ、その意図を丁寧に説明。後期に入り、進塁打が打てるようになると、バントは減少、エンドランや盗塁を増やすなど戦術を調整したほか、打順も柔軟に組み替えた。
監督就任にあたっては、2023年冬のジャパンウィンターリーグで交流をもったダニエル・カタラン氏を打撃コーチに招聘、アメリカのトレーニング施設「ドライブライン」での指導経験をもつカタランコーチは、具体的な数値目標を示す論理的な指導で打撃力アップに貢献、ホームラン数はリーグ1位、打点は2位となった。そして、投手起用については「ケンちゃん」と呼ぶ王建民投手コーチに一任。王コーチの継投はシーズンが進むごとに冴えを見せ、特に台湾シリーズの投手起用は、ファンから「神継投」と称賛された。
台湾シリーズ制覇直後、「チーム力向上のために全力を尽くしている平野監督の姿に、取材者として感銘を受けている」と素直な思いを伝えたところ、平野監督は、次のように話してくれた。
「一生懸命やっているところは、みんな見てくれていると思うんでね。現役時代もそうしてやってきたし、自分はそれしかできないので。コーチで仕えてきた時も、「もし自分が監督だったら……」という気持ちでやってきました。だから、こういうポジションを与えてくださったからには、命がけでやっています、外国人ひとりでもね(笑)。
厳しい指導者だと思いますが、皆さんが温かく迎え入れてくれて、協力してくれて、リスペクトしてくれて、幸せです。あとは、日々勉強ですね。決して『自分のスタイル』でいく、というのではなくて、中信兄弟を、そして台湾の野球を、まずはアジアでナンバーワンになれるように自分ができることをする。それは、アメリカの力を借りたり、日本の力を借りたりしながらです。台湾野球を更に高いレベルへ持ち上げたい、と思っています」
平野監督をはじめ、台湾プロ野球各球団で奮闘している日本人指導者の方に共通しているのは、自チームの強化はもちろん、台湾野球全体の実力をさらに向上させたい、という強い思いだ。それゆえ、台湾代表のプレミア12優勝には格別な思いがあったことだろう。
こうした平野監督の姿勢は、選手やコーチ陣はもちろん、台湾のファンにも伝わっている。ユニークな人柄もクローズアップされるようになり、「平野(ピンイエ)」監督は人気も向上、いまや「名将」との呼び声も高い。
「ひとりひとりのレベルであったり、チーム力については、まだまだ伸びしろ、向上の余地があるから、むしろ楽しみ」と語る平野監督は、昨年12月も、ジャパンウィンターリーグに参加した若手選手の視察で沖縄を訪れ指導を行うなど、精力的にチーム力の強化を行っている。
このオフ、「炸裂!」から始まる応援歌は日本でもおなじみ、DH兼外野手で2024年シーズンは主にクリーンアップを務めた陳子豪がFA権を行使、大型契約を提示した味全ドラゴンズへ移籍した。怪我の影響で87試合出場に留まりながらも、リーグ4位の17HRをマーク、29歳にして通算131HRの左の大砲の穴は大きいが、平野監督には、そんな逆境を跳ね返してくれそうな期待感がある。ディフェンディングチャンピオンになっても、「チャレンジャー」の気持ちで戦う姿勢を打ち出している平野監督、スローガンに「進化」を掲げた今季の中信兄弟の戦いぶりが楽しみだ。
(情報は1月19日時点のもの)
文・駒田英
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