「勝つことがベースとなっていくように、“個の強さ”を磨き続ける」 マイナビ仙台レディース 有町紗央里アシスタントコーチ

マイナビ仙台レディース
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 2024-25シーズンからマイナビ仙台レディースのトップチームアシスタントコーチに就任した有町紗央里。なでしこリーグ通算196試合に出場、カップ戦も含めると250試合出場を超える。日本女子代表にも選出された経験豊かなストライカーは、2020年に現役を引退。その後は、マイナビ仙台レディースユース、U-16日本女子代表の指導に当たってきた。練習場では張りのある声で、明るく厳しく選手たちを鼓舞し続ける。今シーズンのチームのことや指導者として歩む自身の日々について伺った。

繰り返し伝えることの大切さ。監督、スタッフ、選手へのリスペクト持って指導に当たる。

―選手として個人で力を発揮するということを考えると、有町コーチには豊富な経験がありますから、伝えられることも多くありますね。

「いえDFのことはあまりわからないです(笑)基本的には攻撃の部分に取り組んではいます。“ファンダメンタル”といって、チームとしてのサッカーの原則があって、攻めていても守っていても、シチュエーションに限らずこうするという原理原則があります。それをすべてのポジションに伝えるという役割でもあります。そこはずっと言っているので、みんな覚えてきてくれていると思います。サッカーをしている上では当たり前のことなんですが、プレーをしていると抜けてしまうこともある。繰り返し伝え続けています」

―アカデミーコーチからトップのコーチとなって、生活ペースは大きく変わりましたか?

「変わりましたね。朝方の生活になりました。たまにアカデミーの練習は見に行きますが、トップのクラブハウスで分析や練習の映像を見て、『もっとこうだったね』などと、翌日のトレーニングにつなげるよう話し合っています」

―ピッチで練習を行っている時間もありますが、コーチングスタッフにとってはそれ以外の時間で準備しなければいけないことがたくさんありますね。

「多いです。そういうところは須永さんも、山田コーチも、上野さん(拓也GKコーチ)もいろいろなことを知っています。私が、見て感じたこととは全く異なる視点で話をしてくれます。話をしているとすごく勉強になります。サッカー観が広がるといいなと思いながらいろいろな話を聞いています」

―選手としてサッカーをすることとコーチとして教えることは、全く違うことですか?

「たまに、今でもゲーム形式のトレーニングでプレーすることもありますが、ピッチの中にいると見える景色は違うんです。外からは全体が見えていて、『もっとこうすれば良かったね』ということがわかりますが、実際中にいるとプレッシャーを感じていたりします。『こういうところが難しいよね』と話しながらアプローチしています。監督と意図を持って練習を行っていますが、実際にやってみると、距離感が狭かったり、もっとプレッシャーに行かないと攻撃の練習にならなかったり。外から見ただけではわからないこともあります」

―コーチングスタッフと選手の間を取り持つ役割でもありそうですね。

「実際にやってみると選手の気持ちもわかります。でも選手の時は指導者がどう考えて練習を行っているか、わからなかったりするんです。選手と対話しながら、彼女たちの感じる難しさも理解しながら、やり続けることの大事さを伝えています。私が特別なことをしているかと言えば、そうではないと思いますが、一緒になってやっている感じです」

―今、指導者として得ている視点を持って現役復帰したら、無敵なのではないですか?

「そう思うじゃないですか。私がピッチの中に入って『やってやるぞ!』と思っても、実際はできないものだなと思っています。そこには技術や継続する中での視野みたいなものがあるんです。慣れもあります。そして現役選手たちのようには動けないです(笑)みんなタフです。昨季は終盤に失速するという現象が目に見えてわかりましたが、今シーズンは積み重ねがあるので、タフになっています。毎日、これだけトレーニングしていますから。そこは選手たちをリスペクトしています」

―現役選手のタフさは違いますか?

「いろいろな状況の中で、気持ちを前向きに持って行くことが難しい時期もあると思います。ひたむきにやってきた結果が少しずつ出てきているのかなと思います」

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―今季からトップチームで、須永純監督の下、コーチングスタッフとして活躍しています。須永監督はどのような方ですか?

「ひと言で言うと『いろいろな経験をされている方』ですね。試合で負けそうだったり、上手くいかず、どうしたら勝てるんだろうと考えこんでしまう状況もあります。そういう時に、感情的にはならず、常に分析して、『もっとこういうことができないといけない』と冷静に見ることができる。須永さんだけがそう思っているのではなく、『どう思う?』と共有してくれます。そこには山田英二コーチもいて、対話しながら、考えを引き出してくれます。いろいろな人とコミュニケーションを取って、チームが良くなることを考えてくれます。須永さんの考えには常に“チームが良くなるために”ということが第一にあると思います」

―コーチングスタッフの中での役割分担はどのようになっていますか?

「須永純監督と山田英二コーチが主に戦術的な部分を進めて行っています。チーム戦術は二人が、スキルを上げていくための個人戦術は私が伝えるようにしています。サッカーの原理原則のところですね。例えば、試合の中でこういう状況の時、サポートする選手は寄って行った方が良いのか、そうではないのか、とか。私は、個人のところを見るという感じです」

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シーズン序盤の試行錯誤。積み上げが必ず結果につながっていく。

―2024-25シーズンはスタートの段階で、けがをしてしまった選手も多く、ユース選手の力を借りていた状況がありました。シーズン序盤を振り返るといかがですか?

「最初は、練習のスタイルについても伝えることがたくさんありました。個人でもチームでもそうですし、戦術も3バック、4バックの時がありました。チームの形を作る、ベースを作るという段階で、選手たちと『やってみよう!』というところに至るまで時間がかかったという印象でした。やりながら作りあげていくものではありますが、選手たちにとってもなかなかゴールが見えなくて、結果が出てこない。そしてけが人も出ているという状況。そういう時はブレそうになったりもするんですが、須永さんはブレずにやり続けて、選手もそれについてきてくれた。伝え方も試行錯誤でした。『こういう言い方より、こう伝えた方が良い』とか、『この選手には誰が言うと、より伝わるか』とか。いろいろなところですごく気を遣っていました。選手がピッチの中で要求したり、やり続ける中で、コンビの良さが出てきて、形になってきました」

―良い場面はあっても、なかなか結果が出ないということがありました。

「シュート0本の試合もありました。そこまで進めていなかったというか……。ゴール前の練習だけやっても、そこまで行けていなければゴールに結びつかない。後ろから運ぶ、前進する、そこからもっとゴール前に運んで、最後の崩しという段階があります。シュートまで行けていないけれど、ある段階では良い場面が出てきている。それを続けながら、そこまで行ける回数が最初は1回だったのが10回になった。そういう積み上げが大変でした」

―サッカーでは「積み上げ」という言葉がよく用いられますが、本当に積み上げていくんですね。

「はい。前線の選手だけではないです。後ろの選手が運ぶということが大事です。前の選手が落ちてきても、ゴールが遠くなってしまいます。DFはボールを持っていれば良い、ではなくその選手が運ぶことで時間とスペースを作ることができて、少しずつつながり出したなと思います」

チームや日本女子サッカーの未来を担うユース選手たちの活躍

―ユースの選手たちがトップで力を発揮している様子はどう見ていましたか?

「(津田)愛乃音や(菊地)花奈、あの子たちは怖いもの知らずです。ユース1年生の時もそうでしたが、自分の持っているものがどう通用するのか、そのワクワク感が強いです。昨季もトップの練習に参加させてもらい、試合に出られなかったり、出ても結果は残せなかった。そこで悔しい思いはしていたんです。『トップでこういうことができなかった』という反省があって、アカデミーでは、『そこをもっと頑張ろう。結果を出せるようにしよう』と取り組んでいました。今季チャンスをもらって、チャレンジして『行けるな』という自信をつけていく姿が見ていて頼もしかったです。そういう様子を見て、同じ世代の子たちが『私もこういう舞台で戦いたい』と思ったのではないかと。アカデミーの練習に戻っても意識高く続けてくれています。愛乃音は、試合に途中からではなく最初から出たいという思いが強く、練習でも自分が言われていることだけではなく、同じポジションの(廣澤)真穂がどういうことを言われているのかということも聞いているんです。自分のことのように聞いて取り組んでいる姿を見ているので、賢いと思います。そういう選手は勝手に伸びていくだろうなと思います」


―3年生で今季のトップ昇格が決まっているのは、佐藤にいな選手。彼女もトップの試合に多く出場してきました。

「にいなは、味方と合わせるのが上手な選手です。味方を見て、相手を見て判断してプレーができる。“認知”の能力が高く、周りを見て判断できる選手です。スピードやボディコンタクトのところはもう少しやっていかければいけないですが、中盤で前を向き、前へパスを送れる選手なので、そういうところがトップの中でももっと出てくるといいなと思います」

―トップの試合でもいくつかそういうシーンは見せてくれました。もっともっとできる選手ですね。

「WEリーグの試合ではユースと比べてプレッシャーが速いので、後ろに下げる回数が多くなってしまうところがあるのですが、にいながこれからやっていく世界はそのプレッシャーが当たり前。その中で前を向くチャンスを逃さないとか、前にボールをつけて、もう一度自分が関わっていく。ゴール前に入っていく回数を増やしていくというところが、彼女の良さになっていくのではないかなと思います」

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求めたいのは“選手同士の対話”。コンビでも個の力でも勝てるチームに。

―3月から始まる2024-25シーズンの後期は大卒の選手たちも加入します。マイナビ仙台レディースとして、どのような変化や選手たちの成長に期待しますか?

「新しい選手も入ってきます。(大西)若菜はずっと特別指定選手としてやってきましたし、にいなもトップでプレーしてきました。それぞれが個人として戦っている中で、見つかった課題があると思います。私たちコーチングスタッフからフィードバックは続けていきますが、選手間でつながりがたくさんできているので、何が良くて上手くいっていたか、何が悪くて上手くいなかったか。選手間で話ができるようになると、もっと成功する回数が増えると思います」

―選手同士が考えて話し合うことで、どのような現象が見られますか?

「パスがつながり、もっと崩せる場面が出てくると思います。今、開幕戦の時に比べると、その回数は増えてきていると思います。ビルドアップもゴール前の崩しもそうです。選手が何をすべきかわかっていて、共有できていれば、ボールを失っても、また奪いに行く連続性も出てくる。チームとしてやりたいことが、選手の中に入ってきたので、その上で選手のアイディアが増えてくれば、自分たちで思い描いているものをどんどん超えて来ると思います。そんなこともできるの?とワクワクするシーンを、一人では難しくても、二人、三人と関わってくる中で出せればいいですね。局面でも2対1が作れれば勝てるとか、サイドの選手であれば個で仕掛けて点が取れるとか。最後は“個”だと思うので、もっとアプローチしていきたいです」

―“個”が力を発揮する中で、結果がついてくると自身にもなりますね。

「努力が実って、結果につながってくれたら一番嬉しいですね。負け続けると、勝ち方を忘れてしまうんです。勝って、それを続けていく。負けて当たり前ではなくて、やっぱり勝つことがベースとなっていくように、後半戦は一つでも多く勝つことを目標にやっていきたいです」

―「指導者・有町紗央里」としてはどのようなことを目指して進んでいますか?

「指導者を始めた時から、いつか監督をやってみたいという思いがあります。やったことがないので。いろんな監督を見ていると、監督は本当に大変そうだなと思うと思うところもあるんです。それは間近で見ていると、より感じます。それでもいつかやってみたいという気持ちがあります。しかし、私が監督になった時に、選手に何を伝えられるか。納得感を与えてあげられるか。まだ、今はそれだけの器ではないと思っています。もっと経験を積んだ中で、行く行くは監督をやってみたいです。チームと選手が良くなるように取り組みたい。どれくらい自分ができるか、未知の部分が大きいですが、いつかはやってみたいと思っています」

―楽しみです。有町さんは良い監督になれるのではないですか?

「実際に指導するためには、ライセンスも取らなければいけないです。ライセンスはいろんな方と一緒に学ぶことのできる場です。そして、今、コーチとして指導しながら、選手がどのように感じていているか。試合が続く中で、勝ったり負けたり、その時々で監督の立ち居振る舞いも変わってくると思います。そういうことは現場でしか学べないことだと思っています。毎日学ぶことがたくさんあります」
(マイナビ仙台レディースオフィシャルライター・村林いづみ)
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著者プロフィール

東日本大震災により休部した東京電力女子サッカー部マリーゼが移管し、2012年ベガルタ仙台レディースが発足。2017年に株式会社マイナビとタイトルパートナー契約を締結しマイナビベガルタ仙台レディースとなりました。 2020年10月にWEリーグへの参入が正式決定。2021年2月より「マイナビ仙台レディース」とクラブ名を改め、活動をスタート。選手達の熱いプレーが多くの方に届くような盛り上がりをともに作っていきます。仙台、東北から日本全国、全世界に向けて、感動や勇気を与え、WEリーグ優勝を目指し活動しています。

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