【物語りVol.131】WTB 金 秀隆
【東芝ブレイブルーパス東京】
4人兄弟の3男で、中学生になるタイミングでラグビー選手としての第一歩を踏み出した。
「それまでサッカーをやっていたんですけど、2番目の兄がラグビーをやっていて、かっこいいなと思って。サッカーも面白かったんですけど、ラグビーのほうが男らしいというか。中学2年生ぐらいから身長が伸びはじめて、3年生で179センチぐらいになりました。でも、足はそこまで速くなかったですね。同級生に比べて自分は身体能力が高いとは思わなかったですが、サッカーとラグビーをやっていたので球技は得意でした」
東大阪朝鮮中級学校を卒業すると、大阪朝鮮高級学校へ進学する。強豪として知られるラグビー部の一員となった。
「大阪には全国で優勝を狙える高校もあって、大阪朝鮮も花園に出場できるぐらいの力を持っていました。兄も大阪朝鮮で花園に出ていたし、自分も一度は出たいなと思って進学しました」
願いは2年時に現実となる。背番号14を着けて花園を駆け、チームはベスト8まで勝ち上がった。
高校卒業にあたっては、強豪大学から勧誘された。ところが、関東大学ラグビーリーグ戦グループで、3部から2部へ昇格したばかりの朝鮮大学校を選ぶのである。
「兄が行っていたというのがありましたし、朝鮮高校は大阪のほかに東京、愛知、それに当時は神戸もラグビー部があって、そこで試合に出ている選手が朝鮮大学校に集まれば、リーグ戦1部でも上位にいけるんじゃないかという希望を持っていたので」
すでにこの時点で、大学卒業後はプロになるとの野心を抱いていた。そのためには、強豪大学でラグビーを続けたほうが可能性は大きくなる。実際に、同世代のエリートたちと切磋琢磨することもできたのだが、金は朝鮮大学校を選んだ。
その理由がふるっている。
「プロになるのはもちろんですけれど、どうやってプロになるのかも大事かなと思っていて。僕が朝鮮大学校からプロになれば、一緒にやっている後輩たちや、朝鮮大学校への入学を考えている朝鮮高校の選手たちが、『自分も後に続くぞ』とか『自分にもチャンスがあるんじゃないか』と思えるんじゃないかなと」
【東芝ブレイブルーパス東京】
「同期には大学のトップレベルの選手がいて、チームにはカテゴリーCの代表選手もいて。レベルの違いはもちろん感じていました」
チーム内を見渡した金は、「頑張って4年目ぐらいから試合に出られたら」との未来図を描いた。ところが、加入1年目のシーズンの開幕節でいきなりチャンスをつかむ。15番を着けてグラウンドに立つと、全試合に15番でフル出場した。チームはプレーオフ準決勝まで勝ち上がり、自身は新人賞に選ばれた。
「いま考えたらすごいなって思いますが、当時はもう必死に頑張っただけで。自分ひとりの力で獲れた賞でもないですし」
翌年以降も戦力として機能していく。キャップを積み上げていったが、S東京ベイを離れる決意をする。
「東芝さんのラグビーはもちろん見ていて、自分のスタイルに合うかなと思いました。チャンピオンチームに誘ってもらって、また新しいチャレンジをしたいという気持ちで来ました。東芝のラグビーは、すごく楽しそうですし。それに、人生において環境を変える、新しい挑戦することにためらいがないというか、チャレンジすることにいつも前向きなんです」
【東芝ブレイブルーパス東京】
「アタッキングラグビーで、空いているスペースにどんどんボールを動かして。見ていて楽しいし、プレーしていても楽しいですね」
楽しさと同時に、レベルの高さも感じている。
「スタンダードが高い。日本代表の選手も何人もいる。簡単には試合に出られない。高いスタンダードのなかで努力して、競争に挑んでいきたいですね」
国内トップのカテゴリーで戦いながら、各地の朝鮮高級学校へ足を運ぶ。後輩たちとボールを追いかける。
「後輩たちにも全国大会に出てほしいですし、そのためにほんの少しでも力になれたら、と。どこの朝鮮学校も部員が減っていると聞くので、何とか盛り上げたいというのもあります。僕自身、高校生と練習をさせてもらうことで初心に帰るというか、もっと頑張らなきゃという気持ちになりますし」
東芝ブレイブルーパス東京のジャージを着てグラウンドに立つことで、家族が、親戚が、自分を応援してくれるたくさんの人たちが、笑顔の輪でつながっていく。そして、朝鮮高校や朝鮮大学校で夢を育む後輩たちが、成長意欲を逞しくすることができる──それこそが、金がラグビーに打ち込むモチベーションである。
「地元の人たちを中心にたくさんの人が、僕のことを気にかけてくれています。そういう人たちのためにも、1試合でも多く出たい。結果的にそれが、朝鮮大学校の後輩たちの刺激になれば。ホントにいい選手がいっぱいいますから」
自分のためだけに頑張るわけではないから、簡単にはくじけないし、つまずいても立ち上がれる。自分が踏み出すその一歩が、誰かの幸せにつながると信じて。
文中敬称略)
(ライター:戸塚啓)
【東芝ブレイブルーパス東京】
次のホストゲームは、第8節:2/15(土)14:05より、秩父宮ラグビー場にて東京サンゴリアスと対戦します。
13:00キックオフとなりますので、ぜひ会場で皆様の熱いご声援をよろしくお願いします!
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