【物語りVol.127】FB ステファーナス・ドゥトイ 「家族が自分を誇りに思えるように、僕は東芝ブレイブルーパス東京で頑張りたい」
【東芝ブレイブルーパス東京】
「ずっと日本で、東芝でラグビーを続けていきたいです。リーチ マイケルさんを見ていると、自分も35歳ぐらいまではこのチームでラグビーを続けたい、と強く思いますね」
テーブルマウンテンと喜望峰が有名な、南アフリカのケープタウンで生まれ育った。様々なスポーツが人気の世界都市で、愛称ステフはラグビーと出会う。
「色々なスポーツをやっていたけれど、おじさんや友だちがみんなラグビーをやっていて、自分もラグビーが一番好きでした。たしか7歳で、ラグビー1本に絞りました。小さい頃は、足がとっても速かったんですよ」
友だちに負けたくない。いや、誰にも負けたくない。アスリートとしての真っ直ぐでひたむきな欲求が、ラグビーを続けていくトリガーとなっていく。
「小さい頃からずっとコンペティターで、負けることが大嫌いでした。試合のメンバーに入りたい、スタートのメンバーに入りたい、という気持ちで取り組んでいたら、ラグビーにどんどんのめりこんでいきましたね」
名門のパール・ジムナジウム高校へ進むと、ライバル校との“ダービー”に闘志を燃やした。「東京SGとの府中ダービーみたいなんですよ」と、身体が前のめりになる。ティーンエイジャー当時の熱が、身体のなかで蘇っているようだ。
「年代ごとにチームを組んでいって、日本の高校2年と3年にあたる17歳と18歳が一緒にチームを作るのですが、私は17歳でメンバーに選ばれていました。18歳でもメンバーに選ばれましたが、ケガをしてしまいダービーでプレーできませんでした」
対外的なアピールの機会を失ったことで、国内最高峰のリーグに属するクラブや、有名大学からオファーを受けることができなかった。人生の分岐点に立ったステフは、小さな紙片に自らの未来を託す。
【東芝ブレイブルーパス東京】
来日したことはなかった。日本という国についても、日本のラグビーについても、ステフの記憶には一文字のメモも記されていない。未知の環境である。
極東の島国へ降り立ったステフは、郷愁にかられた。多くの外国人留学生と同じように、ホームシックに襲われたのだった。
「こっちへ来て1か月くらいで、父に『もう続けられない、航空チケットを買ってほしい』と電話しました。父は『もう少し頑張ってみたら』と言う。そんなやり取りが、何回か続きました」
ホームシックを癒す唯一と言ってもいい処方箋は時間だ。辛い夜を過ごして、何とか朝を迎える。そうした日々の繰り返しが、凝り固まった心を少しずつ、ゆっくりとほぐしていく。
「やっぱり、諦めたくなかったんです。応援してくれる両親とか仲間のためにも、日本でプレーを続けないといけないと思うようになりました。あの時ホントにギブアップしていたら、きっと後悔したでしょうね」
【東芝ブレイブルーパス東京】
「南アフリカ生まれでラグビーをやっていれば、誰もがスプリングボクスの一員になりたいと思うものです。けれど、日本の大学に通っている僕が、南アフリカへ戻って代表に選ばれるのは簡単ではない。スプリングボクスには、とても、とてもレベルの高い選手が揃っていますし。そうやって考えると、日本でプレーを続けて日本代表を目ざすほうが、僕にとっては現実的でより良いものだと判断しました」
大学卒業後も日本でラグビーを続けたいとの希望は、東芝ブレイブルーパス東京入りで叶うこととなる。「加入前に1週間練習に参加したんですけれど、アンビリーバブルな経験でした」と、嬉しそうに笑う。
「誰もがフレンドリーで、アットホームな雰囲気に惹かれました。それから契約書にサインをして、ロッカーに自分の名前を見つけたときに、チームの一員になったんだなあと実感できました」
東芝ブレイブルーパス東京との契約は、長いキャリアのスタートラインだ。問われるのは「これから何をするのか」である。
「僕はまだ23歳ですから、東芝で長くプレーをしたい。ここには素晴らしいコーチがいて、経験を持った選手がいるので、選手として成長したいし、進化したい。それができるチームだと思っています。いまの僕は、リッチー・モウンガのような何度もリーグ優勝を経験したことのある選手や、リーチさんのように色々な種類の経験をした選手から、色々なことを学んでいます。そして僕がセンパイになったときに、いまのリッチーやリーチさんのように若い選手の成長を手助けする存在になれたら嬉しいです」
【東芝ブレイブルーパス東京】
「リーグワンでさらに何回か優勝したい。そして、日本代表に選ばれたいですね」
南アフリカには、年に一度帰国している。久しぶりに家族と過ごす時間はかけがえのないもので、モチベーションを一気に充電できる。オンラインで日常的に顔を見ていても、実際に会うのはやはり特別だ。
「家族が自分を誇りに思えるように、僕は東芝ブレイブルーパス東京で頑張りたい」
5年後、10年後の自分を想像してもらう。逞しい身体にふさわしいビジョンを、ステフは思い描く。
「ずっと日本で、東芝でラグビーを続けていきたい。そうなるように、自分自身で未来を切り開いていきたいと思います」
そう言って、良く通る太い声で言った。
「南アフリカの人間は、簡単には諦めないんです。目標がある限り、僕は頑張り続ける」
(文中敬称略)
(ライター:戸塚啓)
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