【レポート】MGCおよびMGCシリーズ会見実施 / メダルを目指す「MGCファストパス」を導入!
【JAAF】
主催者挨拶
【JAAF】
今回、説明する新たな枠組みは、2つのオリンピック(東京・パリ)へのプロセスとその成果を、選手強化と事業運営の両面から振り返り、2028年ロサンゼルスオリンピックでの活躍とマラソン選手層の充実、基盤の強化を目指すものである。
検討に入る前段の議論については、のちほど詳しく説明させていただくが、強化の観点では「選考の透明性の確保」と「選手のモチベーション、パフォーマンスレベルの向上」に寄与できたと考えている。一方で、マラソン界のスピードアップは加速の一途であり、国際基準のパフォーマンスを出していくには、「より高いレベルで勝負できる競技力」が課題であり、その解決に寄与する制度設計が求められているという現状認識にある。
また、事業の観点では、2019年に実施した第1回MGCにおいて52万人のファンが沿道で観戦くださり、2023年の第2回大会も大雨の悪天候にもかかわらず、16万人に及ぶ方々に沿道やスタジアムで応援していただいた。テレビでは第1回大会は約30%、第2回大会も約20%という高い視聴率を記録した。このように、多くの方から関心をいただくスポーツイベントとなっているが、同時に、出場権を獲得する各シリーズ大会から本大会に向け、複数年にわたり注目度を高めていくことの難しさも認識している。
今回の検討プロセスにおいては、実際にMGCを走り、オリンピックに出場したアスリートの意見が最も大切であると考え、アンケートを実施し、MGC本戦や、オリンピックに向かうまでのプロセスなど、様々なご意見を頂戴した。さらに、アスリートの指導に当たる方々や、MGC設立とその後の推進組織である(JAAFロードランニングコミッション:JRRC)のリーダーを務めていただいた瀬古利彦さんをはじめとする関係の方々、さらには現在JMCシリーズに加盟いただいている各大会関係者の皆さんからもご意見をいただくなど、できるだけたくさんの方々のご意見を踏まえながら、次に向けて良い制度設計ができればという思いがあった。
また、一般の方々から見て、JMCシリーズという毎年の日本チャンピオンを決めるシステムと、4年に1回のオリンピック選考レースであるMGCが存在する従来のマラソンの体系はわかりづらいというご指摘があったことも承知しており、今回の制度設計においては、この点の解決も目指した。このように、様々な立場や観点からの意見を踏まえて、強化的な面と、事業的な面でどうバージョンアップさせようとしているのかが、本日ご説明する新たな仕組みということになる。
新しいシリーズは、まだ、これから決めていくところが多い。また、より良くするための方向修正を行うことも、躊躇せずにやっていきたいと考えている。そういう意味での本日の発表だと受け止めていただければありがたい。新たなMGCシリーズに加盟していただく大会関係者の皆さまとは、今後、年に複数回のディスカッションを行い、密なコミュニケーションを図っていこうと話し合っており、また、都度、中間でさまざまな評価を実施していく。ここにお集まりの皆さまにおいても、多くの方々に関心を持っていただき、より良いシリーズになるようご支援いただくことを願い、説明をスタートさせていただく。
MGCの評価および次回MGCに向けて
【JAAF】
MGCは、東京オリンピックに向けて導入された。3年にも及ぶ長期の選考システムであり、世界では例の見ない選考方法といえる。
評価としては、東京大会、パリ大会と2大会連続で、男女ともに入賞者を出すことができた。東京大会については、(コロナ禍により1年)延期になった影響もあり、MGCの成果を評価するのが難しい状態ではあった。結果としては、男子は大迫傑選手(Nike)、女子は一山麻緒選手(ワコール、現資生堂)が、ともにMGCファイナルチャレンジで出場権を獲得し、6位(大迫)・8位(一山)に入賞した。また、パリ大会では、男子はMGC2位の赤﨑暁選手(九電工)、女子はMGC優勝の鈴木優花選手(第一生命グループ)が、ともに6位入賞を果たした。これらの結果から、「マラソンの成果が安定した勝負強い選手」「勢いのある選手の派遣」ができたと考えている。また、9月・10月に開催することにより暑さに対応できる者を選出できる、ペースメーカー不在のレースを経験できるなどの強みを、本番で十分に生かせる大会になったといえる。
昨年のMGCは、雨の影響があったものの、(それまでの)暑い夏の時期にマラソン練習を積み上げてきたことが、結果となって現れた。また、早期に内定できるメリットも多く、オリンピックに向けた準備段階にコース視察ができ、難コースといわれたパリのコースを攻略する検討の時間がつくることができた。さらに、個別に科学的サポートを受けられたことで、選手自身に合ったサポート体制が可能になった。この点は選手たちからも、対策が取れる時間があってよかったというコメントを得ている。システムと選手の意図が合致した仕組みということができよう。
また、日本代表選手を輩出するだけでなく、目先に囚われず将来を見据えた計画を立て、目標とする大会として、各チームにおける選手の育成や強化に貢献できていると考える。その成果は、昨年の第2回が、第1回のMGCより参加者が増えていることからも評価できる。また、今年1年においては、男女とも日本歴代順位の記録が大きく入れ替わっている。この点から、日本マラソン界の層が厚くなると同時に、トップの記録も出すことができていることがわかる。この良い流れを、2028年ロサンゼルスオリンピックに繋げていきたい。
>>これまでのMGCはこちら
https://www.mgc42195.jp/2023/
<次回MGCについて(要旨)>
ロサンゼルスオリンピックに向けては、これまでと同様の選考システムを採用するが、それにプラスさせての施策として、スピードを追求するという新たな挑戦に取り組んでいく。そして、ロサンゼルスオリンピックでのマラソン日本代表には、過去2大会で男女4名の入賞者を出せた既存の目標に「メダルを目指す」を掲げることを加え、以下に示す3つのタイプの選手の派遣を目指す。ロサンゼルスオリンピックでは、このようなタイプの違う選手を派遣することで、メダルを含む複数の入賞を目指していきたい。
・メダルが狙える記録を持った選手(速い)
日本記録を大きく上回る記録を設定し、選手に、より高いところを目指してもらう新たな試みである。強化としてメダル獲得を目標に掲げた時、具体的にどの水準を目指すことが、実現の可能性につながるかを記録で示す。この記録に1人でも多くの選手や指導者たちが本気で挑戦してくれれば、日本のレベルは必ず上がると信じている。また、もし叶わなかった場合でも、次の世代に目線を上げてもらう仕組みになると考えている。
・再現性・調整力のある選手(強い)
これは既存の仕組みのなかにあるもの。MGCで勝ち上がる強さは、オリンピックでも証明済みといえる。多くの期待に応えられる選手を再び代表として派遣したい。
・最も勢いのある速い選手(勢い)
これも、MGCファイナルチャレンジで証明済みである。過去の選考からも、オリンピックイヤーに結果を残した選手は、本番で活躍する可能性は高く、この「勢い」こそが最大の武器になる。私としては、MGCファイナルチャレンジ設定記録を高く設定できる状況になってほしいと強く願っている。また、初マラソンの選手であっても、高い記録に到達できれば、その勢いを持って世界と勝負してほしいという願いもある。
MGCおよびMGCシリーズ概要説明
説明に当たっては、日本陸連事務局の平野了事業部長と高岡シニアディレクターの2人が登壇。制度設計について平野部長が説明を行ったうえで、設定の意図など強化的な側面に関する説明を高岡シニアディレクターが述べていく形がとられました。
◆MGCシステムの設計について
平野部長は、今回の変更点として、まず、「MGCファストパス」「ワイルドカード」「MGCシリーズ(現JMCシリーズ)」という3つの言葉を上げました。そして、「ここまで、オリンピック代表の選考につながるMGCと、日本選手権として行ってきたJMCシリーズが2本走っている状況で、連動して進んできたが、今後は、このJMCシリーズの“複数年・複数回のパフォーマンスを評価する”日本選手権シリーズとして位置づけていた理念そのものは継承しつつ、マラソンのブランディングを「MGC」という言葉に一本化する。さらに、このシリーズのなかにスピードを追求する要素を加えていく」と説明。MGCシリーズと改称される旧JMCシリーズを軸とした日本代表選考の仕組みのなかで、大きく変わる点として、「MGCより前の2027年3月時点に、オリンピック代表を内定する仕組みとして、“MGCファストパス”を導入すること発表しました。
◆MGCファストパスの新設
このMGCファストパスについて、高岡シニアディレクターは、「MGCシステムが、過去のオリンピック2大会において、一定の成果が出せたなかで、私たちは、これに満足せず、さらに高い目標を上げる必要があると感じた。男子は1992年(バルセロナ大会)以来、女子は2004年以来(アテネ大会)と、20年以上遠ざかっているメダルに挑戦したい。難しいことではあるが、より高い設定がメダル獲得の可能性となることを信じている。1人が突破すると複数の選手が超えるという“メンタルの壁の崩壊”を期待し、限りなくメダル獲得の可能性を高めていきたい」とコメント。その設定記録(男子:2時間03分59秒、女子:2時間16分59秒)を、設定に至った指標も挙げたうえで発表しました。また、有効期間内の対象競技会において設定記録を突破した者のうち、最速1名が2027年3月の段階で代表に内定するとしました。
◆MGCファストパスにおける内定について
MGCファストパスが導入されることによって、ロサンゼルスオリンピック男女各3枠の代表選考の流れは、
①2027年3月中旬:MGCファストパスによる内定者(メダルを狙える記録を持つ者:速い)1枠、
②2027年秋:MGCによる内定者(勝負強さ、調整力:強い)1枠(①で該当者不在の場合は2枠)、
③2028年3月中旬:MGCファイナルチャレンジによる内定者(スピード:勢い)1枠(該当者不在の場合は、MGC次点の選手が内定)、
の順に決まっていくことになります。平野部長は「この順で、速い、強い、勢いという各項目から1名ずつの代表が選考されることが理想」としながらも、①③については該当者が出ない可能性があることも示唆。想定される事例を挙げて、その場合の選考の進め方を説明しました。また、MGCファストパスによる内定は最速者1名のみとなることや、ロスオリンピック参加標準記録の対象期間開始より前にMGCファストパス設定記録をマークした場合は、MGCファストパス有効期間終了時までにロスオリンピック参加標準記録を突破する必要があること、MGCファストパスにより内定した選手はMGCには出場できない仕組みにしていることも示されました。
【JAAF】
2027年秋に実施されることによるMGCへの参加資格については、①MGCシリーズ加盟大会におけるグレード別設定条件、②日本代表派遣大会入賞、③MGC参加標準記録突破、④MGCシリーズ8位入賞、⑤ワイルドカードの5パターンが示され、平野部長からブラッシュアップされた点や新たに設定された点なども含めた解説が行われました。
高岡シニアディレクターは、①における設定記録を引き上げた背景として、「MGCに出場することが選手のステータスになるよう、前回より高い記録(男子:2時間09分00秒以内、女子:2時間27分00秒以内)を設定した。前回は悪条件下でも下位者を拾えるようにしていたが、今回は条件に関係なく評価する。どのような条件でも、このタイムはクリアしてほしいという意図もある」と述べたほか、③のMGC参加標準記録については、「男子は2時間08分00から2時間06分30秒に、女子は2時間24分00秒から2時間23分30秒に変更した。これは、いずれも東京2025世界陸上の参加標準記録に合わせたものである」と補足しました。
◆ワイルドカードの変更
MGC参加資格において「大きく変更した」(平野部長)のは、⑤のワイルドカードです。前回は①以外となる②~④の参加資格もワイルドカードに分類されていましたが、今回は「①において対象順位内に入ったものの記録を突破できなかった場合に、ワイルドカードリストに加えられ、そのリストのなかから、資格記録有効期間内の上位者のみに、ワイルドカードとしてのMGC出場資格を付与する」仕組みとなりました。ワイルドカードの資格記録は、MGC参加資格記録の有効期間内(2025年3月から2027年3月まで)における対象大会で記録がよければ、常にホームページ内でアップデートされ、リストの順位を上げていくことが可能になります。平野部長は、「このワイルドカードにおいても、コンディションを問わず指定大会内で求められる順位を取ってくる勝負強さ、そのなかでより速い記録を持つ者しかワイルドカードによる資格を得ることができないようにしている」と述べ、ワイルドカードによるMGC出場の想定例を挙げて説明しました。
このワイルドカードについて、高岡シニアディレクターは、「前回は、2本の平均記録による設定など、安定した記録を持った選手がMGCの出場資格を得るなどのケースもあった。しかし、今回は、MGC出場権を獲得するために、選手自身が、ボーダーラインを引く仕組みになっている。選手が、より高いレベルに行く意識づけをするために、5つの枠を設けた。大会によって、コンディションが整わなかった場合に、力のある選手が救われる仕組みでもあると考えている」とコメント。さらに、「条件によってMGC出場者(MGCファイナリスト)の数が大きく変わることから、一定の人数でMGCレースを成立させてたいと考えている」として、MGC出場資格の付与は、過去2大会を参考に、男子50名以上、女子30名以上でのレースとすることを想定して設定したことを明かしました。ワイルドカードでの枠は最低5名を担保していますが、もし、①~④での参加資格者が少なかった場合は、男子であれば上限50名となるまでワイルドカードの枠を追加(ただし、記録設定あり)されることとなります。高岡シニアディレクターは、「選考レースとして、さまざまなタイプの選手が勝負できる大会、選手にとって価値のある大会としたい」と、設定の背景をこう話しました。
◆MGCファイナルチャレンジについて
「勢い」のある選手の選考を目指すMGCファイナルチャレンジは、MGCシリーズ2027-28のGS(グレードS)大会出場選手が対象となり、今回は、初マラソンの選手も可としました。ここでは、設定記録突破者のうち、最も速い1名が2028年3月、3人目の代表として内定することになります。MGCファイナルチャレンジ設定記録は、2027年4月以降に発表される予定ですが、このタイムについて、「MGCファストパス設定記録を、どれだけ多くの選手がクリアできるかどうかで、大きく変わってくると思っていて、クリアしている選手がいた場合は、より高いタイムを設定できると考えている」と高岡シニアディレクター。「“このタイムが出せたのなら、初マラソンの選手であっても派遣すれば活躍できる”と思えるようなタイム設定ができればと思っている」と話しました。MGCファイナルチャレンジは、これまで初マラソンの選手は、対象外となっていましたが、「今回、対象とすることで、速さに加えて、勢いのある選手の選考も可能にした」と、その意図を説明しています。
◆MGCシリーズ(旧JMCシリーズ)について
最後に、概要の冒頭で触れられていたMGCシリーズについての説明が行われました。これまでJMCという日本選手権シリーズを行ってきましたが、日本選手権の理念を残しつつ、マラソンのブランディングを「MGC」に一本化。MGCとJMCシリーズを融合させることで、日本マラソン界の主軸となるコンテンツとして、MGCシリーズの名称で、2025年3月10日からスタートを切ることになります。
ポイントの有効期間やシリーズの総合成績が日本選手権成績となること、シリーズチャンピオンが主要国際大会の代表に内定すること(オリンピックを除く)など、大枠の部分は旧JMCシリーズを踏襲しての展開となりますが、大きく変わったのは、ポイント獲得の部分。「これまでは、2年間に3本出走し、そのうちポイントの高い2本でパフォーマンスランキングを決めていたが、MGCシリーズからは、2本出走して2本の合計に変更」(平野部長)されます。
この変更について、高岡シニアディレクターは、「再現性などの評価軸は継続し、スピード強化できる仕組みにした」と述べ、「シリーズチャンピオンは、日本代表になる選考を定めている。マラソン回数は少ないものの力がある選手も派遣できるよう、“2本出走の2本合計”に変更した。2本の合計は再現できる証拠でもあると考えている」と理由を説明。「さらに選手が、MGCファストパス設定記録を狙う環境を整えた」とし、「世界のスピード化に後れを取らないためにも、スピード強化にあたる時間を確保し、10000mやハーフマラソンにぜひ挑戦してほしいと考えている。この両種目での日本記録更新も、マラソンへのスピード養成に必要な一因。また、マラソン選手が、トラックの10000mに取り組むことによって、トラック選手の記録の引き上げにも貢献できるとも考えている」と期待を寄せました。一方で、「マラソンの経験を増やし、力にできる選手に関しては、もちろん1年に3本、4本といった形で強化する方法を選んでもかまわない。2本とすることで、選手の適性や育成方針に合わせたアプローチが可能になると考えた」と、現場における選択の幅を広げたことを示しました。
新設やアップデートが行われた上記の点を丁寧に説明したうえで、MGCシリーズ大会のカテゴリーや、加盟大会の現状、今後のスケジュールなども提示。このほか、2028年ロサンゼルスオリンピック 、2027年北京世界選手権、2026年愛知・名古屋アジア大会の3大会について、マラソン日本代表選手選考方針が、高岡シニアディレクターより発表され、「選考要項は、3大会とも、大会主催者が参加資格を発表したあとに発表する」ことも共有されました。
日本陸連では、本会見終了に合わせて、MGC特設サイトを更新。2025年3月10日からスタートするMGCシリーズや2027年秋に予定されているMGCについて、わかりやすく紹介しています。ぜひ、ご参照ください。
文・写真:児玉育美(JAAFメディアチーム)
MGC特設サイト
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