ラストワンプレーの悲劇 大阪体育大学ラグビー部の「大改革」 関西大学に屈すもチームの変貌を証明
試合は、前半９分、ラインアウト後のモールから連続攻撃し、最後はシオネ・マウ選手（体育学部４年、高知中央高校）が抜け出して先制トライ（ゴール）。ブレイクダウン（密集）で優位に立ち、ディフェンスでよく前に出て、攻撃的なタックルも決まり、前半14分にモールからソナタネ・コロ選手（体育学部２年、青森山田高校）がトライ。30分にはスタンドオフの小野田武流選手（体育学部２年、常翔学園高校）がＰＧを決め、前半を15―０で折り返した。
しかし、後半は８分に関大がトライ。大体大も32分にＰＧを決めたが、39分、関大がトライ（ゴール）を決めて６点差。そして５分間のロスタイムに、運命のラストワンプレーを迎える。楕円級がゴールポスト間を飛び去り、関大のゴール成功を告げる旗が２本上がると、大体大の選手はその場に崩れ落ちた。
試合後の記者会見。堀田凌永主将（体育学部４年、京都成章高校）は声を詰まらせながらも「ラストワンプレーで自分たちの甘さが出たが、（Ａリーグ校相手に）勝ちを知らないチームが、ここまでやったことを誇りに思う。来年はこの景色を知っている１、２、３年生と新入生が必ずやり返してくれる」と言い切った。
大体大は入替戦で、昨年は同志社大学に21―62、２年前は摂南大学に13―45、３年前は関西学院大学に17―48と大敗した。なぜ今年、ロスタイムまでＡリーグを追い詰めることができたのか。今年２月に就任した長崎正巳監督は「部全体の大改革」を挙げた。
長崎氏は大体大ではCTB。関西大学リーグで優勝し、関西ベスト15にも選ばれた。マツダではCTB、フルバック。31歳までプレーし、西日本社会人リーグで優勝、九州代表にも選ばれた。33歳だった1997年、大体大に職員として復帰し、2006年までコーチを務めた。その後はほぼ仕事に専念し、大学の事務局トップの事務局長に昇進したが、昨年７月、事務局長職を辞して約17年ぶりにラグビー部に本格復帰し、GMに就任した。今年２月から監督を兼任する。
「冒険ですよ。ラグビー部を何とかしたかった」。ラグビー部復帰のわけを、長崎監督はそう振り返る。
大体大ラグビー部は「ヘラクレス軍団」の愛称で、かつては、名将・坂田好弘元監督のもと2006年には全国大学選手権で４強に進んだ。しかし、近年は低迷。2014年の入替戦で敗れ、翌年Bリーグに降格。その後、Aリーグに復帰したが、2019年、Aリーグで最下位となり、入替戦で敗れてBリーグに降格した。2020年はBリーグで優勝したが、コロナ禍のため入替戦が実施されず、2021年から入替戦で３連敗していた。
「大改革」はグラウンドでの練習だけではなく、学修面、生活面にも及んだ。学修面は１対１で選手と面談し、授業により真剣に取り組めるよう話し合った。学習支援室などの支援も受けた。その結果、学習サポートが受けられるフリースペースのラーニングコモンズに、就活の勉強をする４年生や授業の課題などに取り組む下級生ら多くの部員が集まるようになった。生活面は寮でのタイムスケジュールの管理の仕方など細かい点まで学生と話し、規律も定めた。長崎監督は「心変われば体も変わる。学修や生活での態度が変わると、練習にも出る。ミスをした場合になぜ起きたのかどう修正するか、きっちり考えるようになった」という。
練習面は、質・量とも昨年の２倍以上にした。
GMになった昨年７月、戦うベースとなるフィジカルがまったく整っていないと感じた。昨年は入替戦出場が大前提なので、この時点からのベース作りでは間に合わず、戦術的な練習を重視したが、その反省から春から体力強化に努め、食事にも気を配った。
５月の近畿大学との練習試合では、Aリーグ勢を相手にブレイクダウン（密集、接点）で圧力をかけられると、コンテスト（ボールの争奪）で防戦一方になった。Bリーグ同士の試合で優位に立ててしまう甘さは、過去の入替戦でも出た。ブレイクダウンでの強度の弱さという課題が明確になり、すべての練習に質量、強度を上げ、走り込み、ウェイトトレーニングなどで身体を鍛えた。また、元ヤマハ発動機の伊藤雄大氏を招き、FWのセットプレーとブレイクダウンでの強化に努めた。
フィジカル強化の成果で、試合でけがをする選手が格段に減った。昨年、一昨年は１試合で５、６人けが人は出ることも珍しくなかったというが、けが人の減少でリザーブ陣が充実し、戦術的な交代が自在にできるようになったことも大きな成果となった。
また、昨年４月に就任した和田哲元ヘッドコーチの学生と情熱をぶつけ合う熱い指導もチームを変えた。
これらの改革について、長崎監督は、事務局長として各部署を統括していた経験がとても参考になったという。Plan（計画）、Do（実行）、Check（評価）、Action（改善）のPDCAサイクルをチームの方針や計画策定に活かした。その結果、この日の試合では、セットプレー、ブレイクダウンで相手ボールを何度も奪った。最後に逆転されたとはいえ、走り負けて体力を使い果たすこともなかった。
ラグビーの魅力を存分に伝えた手に汗握る一戦は、大体大の成長を証明した。関大の石川海翔主将は記者会見で「体大の執念のタックル、セットプレーでのプレッシャーに、体大のこの１年間の思いを肌で感じた。体大の後輩は４回生がつないできた思いを引き継いでいくのだと思う」と語った。
長崎監督は「ラグビー部全員がこの１年間耐え、しっかりしたパフォーマンスを見せたことを誇りに思う。努力すれば報われることを勝利で体験してほしかったが、堀田主将を中心に高い土台を築いてくれた。来年はこれに上積みしていけば、必ず」
ラグビー部は間違いなく生まれ変わった。
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