【ATH】 ルイス・セベリーノ獲得に至った背景

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【これはnoteに投稿されたもーさんによる記事です。】
*サムネイルはMLB.comから


アスレチックスは、ルイス・セベリーノと3年6700万ドル(2年目終了後にオプトアウト)の契約を結んだと発表しました。
この契約は、エリック・チャベスと結んだ6年66Mの契約を超え、アスレチックスの球団史上最高額契約となりました。

低予算球団アスレチックスの突如とした大物獲得に球界は騒然となりましたね。今回はこのセベリーノとの契約について書いていきます。

セベリーノのプロフィール

FanGraphsより 【もー】

ルイス・セベリーノは来季の開幕を31歳で迎える先発右腕。

プロ入りからヤンキースでキャリアを送り、2017-18年には有望株時代の期待通りにエース級のシーズンを過ごしました。

しかし、2020年にトミー・ジョン手術を受けるなど、徐々にキャリアは故障に蝕まれ始めました。FAイヤーとなった2023年、防御率6.65、fWAR-0.5とキャリア最悪のシーズンを送ると、2024年はバウンスバックを期してメッツと1年契約を結びました。

そして、2024年は目論見通りの復活を果たしました。31先発で182イニングを消化。防御率3.91、fWAR2.1と2018年以来の好成績を残し、メッツの躍進に貢献しました。


セベリーノとなぜ契約を結んだのか

アスレチックスは徐々に選手が揃いつつあり、再建からのステップアップが現実味を帯びてきました。後半戦は勝率5割を記録し、昨季から19勝アップの69勝で2024年をフィニッシュするなど、近年にはないほど明るい雰囲気に満ちています。

その中で、オフシーズンの最大の課題が先発投手の確保でした。ブレント・ルーカー、ローレンス・バトラーを筆頭に好打者が揃ってきた打線とは対照的に、先発投手はまだまだ小粒。

このままシーズンに突入すれば、ローテが崩壊し、2023年の二の舞になるリスクも十分あったと思います。フルシーズンを完走したことのある投手は未だにJP・シアーズしかおらず、シアーズも現時点ではイニングイーター以上の存在ではありません。脇を固める投手もミッチ・スペンス、オズバルド・ビドーら未知数な投手ばかり。

これまでも若手ばかりのローテを支えるため、アスレチックスはベテラン先発投手を確保してきましたが、ことごとく失敗していました。2023年オフに藤浪晋太郎、ドリュー・ルチンスキを、昨オフもアレックス・ウッド、ロス・ストリップリングを獲得したものの、この4人で合わせてわずかfWAR0.5という惨状。

それでも先発の補強を怠るわけにはいかないとはいえ、先発補強の難易度は年々上がるばかり。先発投手のFA市場は高騰を続け、単なる穴埋めだけではなく、戦力になる先発を確保するには多大な出血を要します。

今オフでは既にフランキー・モンタスがメッツと2年34M、マシュー・ボイドがカブスと2年29Mの契約を結んでいました。モンタスは30先発で防御率4.84、fWAR1.4と決して優秀な成績ではなく、ボイドも防御率2.72だったとはいえわずか8先発でfWAR0.9を稼いだに過ぎません。

アスレチックスのセベリーノとの契約も、決して安価ではありません。予想外の高額契約が続く今オフの先発FA市場の中でも、とりわけオーバーペイだったと言っていいでしょう。

ロジックの上では機は熟していたとはいえ、これはアスレチックスらしからぬ動きです。これまで必要に迫られても、投資を渋ってきたのがアスレチックスであり、何よりオーナーのジョン・フィッシャーでした。

何が唐突にアスレチックスの財布の紐を緩ませたのでしょうか。

収益分配の対象から外れたくないアスレチックス

デイビッド・フォーストGMは、セベリーノとの契約が今季からサクラメントに仮移転することを踏まえ、新しい街と球場でアピールしていきたいことを示しているとコメント。
しかし、この建前の裏にある“本音”は別のところにありそうです。

アスレチックスの“本音”とは、収益分配の対象を外れたくないということでしょう。
アスレチックスは長らく収益分配の対象であり、2016年から発効された労使協定で一旦対象外となったものの、2022年からまたその対象に戻っている。その分配金は2022年から徐々に上がり、今季2024年は75%、来季2025年には100%の分配金を受け取ることになる。  

現行の収益分配制度では、分配金を受け取った球団のペイロールが分配金の150%に満たなければ、異議申し立てを受けて収益分配を失うリスクがある。つまり、来季から受け取る分配金が増えるアスレチックスは、それに応じてペイロールを増額しなければいけないわけだ。恐らく分配金の150%という条件をクリアするのが、ナイチンゲール記者が報じた約1億ドルということだろう。

この引用にもある通り、アスレチックスは1億ドル前後までペイロールを引き上げなければ、収益分配の対象から外れるリスクがあったと各記者は報道しています。

フィッシャーにとって収益分配はまさに命綱。特に収容人数が2万に満たないサクラメントでは、動員による収入は期待できません。

収益分配はこれまで以上にフィッシャーの命綱

さらにフィッシャーは2028年のラスベガス新球場のオープンに向け、今後さらなる支出が見込まれています。新球場の費用が当初より2.5億ドル増えて17.5億ドルとなり、フィッシャー一族は14億ドルを負担する予定です。公的資金の導入前には1億ドルを費やすことが義務付けられており、既にアスレチックスは建設予定地の解体などに4000万ドルを投入しているとのこと。

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フィッシャーがラスベガス移転前に球団経営を維持するためには、これまで以上に収益分配が必要不可欠となっています。その収益分配を失わないために、ペイロールを2倍近くに増やす必要があるのだとすれば、何とも皮肉な顛末です。

また、セベリーノの契約に限らず、サクラメントで補強して勝ちを目指すことは、ラスベガスにおける増収、引いては14億ドルという巨額の投資の回収につながる重要な要素でもあります。

MLBの多くの球団の放映権を取得していたダイヤモンドグループの倒産に代表されるように、MLBの放映権バブルは終焉したと言っていいでしょう。

アスレチックスは現状こそベイエリアのTVメディアであるNBCSとの放映権契約下にあり、年間70Mの割の良い放映権収入に預かっています。

しかし、ラスベガス移転後は新たな放映権契約を結ばなければなりません。大都市圏のベイエリアから、MLB最小規模のスモールマーケットであるラスベガスに移る上、ケーブルテレビの収入モデルは崩壊済み・・・。

結局のところ、アスレチックスは放映権収入を大きく減らすはずです。

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そうなってくると動員収入はより重要になってきますし、客を呼び込むためにはラスベガスに乗り込む前のブランディングも重要。だからこそ、フィールドにより良いチームを揃え、サクラメントで勝っておく必要があるのです。

オークランド時代はフィールドで成功を収めることが、必ずしもオーナーの利益に繋がるわけではないとフィッシャーは考えていたはずです。だからこそフィッシャーは緊縮財政を敷き、勝てるチームを作ることに一切の興味を示してきませんでした。

しかし、オークランドを飛び出した途端、事情が変わり、ちゃんとした投資を行って勝利を目指すことがオーナーにとっても利益に繋がるようになりました。

オークランド時代を思うと切ない

これはオーナーによる冷徹な運営に晒されてきたオークランドのファンにとってはあまりに皮肉です。

個人的に、もし2012-14年のチームや、2018-21年のチームにこのような真っ当な補強があれば、さらに上を目指せたと思うと歯がゆいです。

2018-21年のチームを支えたマット・チャップマンなどは「オークランドではオーナーと選手が同じ目標を持っていなかったように感じる」(https://www.si.com/mlb/athletics/news/matt-chapman-on-vegas-ive-heard-that-before)と、常々オーナーのサポート不足を嘆いていました。特に2020年限りでFAになった正遊撃手マーカス・セミエンに対し、フィッシャーは1年12.5M(基本給2.5Mでその後10年間で毎年1Mのリボ払い)という厚顔無恥なオファーを提示したことを思い出すと、今オフに急に投資し始めたことは何とも言えない気持ちになります。

せめて、ラスベガス移転までの3年間をオークランドで過ごし、強くなったチームをオークランドのファンの前で見せてほしかったです。しかし、オークランド市とアスレチックスはコロシアムのリース契約を延長することで折り合えず、サクラメントのマイナー球場に引っ越すという意味のわからない現実が我々の眼前にはあります。


改めて:なぜセベリーノだったのか

ここまでの話をまとめると、アスレチックスは収益分配を失うリスクやラスベガス移転後の投資回収のため、今オフの補強に積極的だったようです。それがセベリーノの獲得に結びついたわけですが、改めてセベリーノという人選の理由に迫りたいと思います。

私が思うに、セベリーノがQO物件だったことは大きなファクターだったと思います。

セベリーノとの契約報道後に、「MLBネットワーク」のジョン・ヘイマンは「アスレチックスがセベリーノとの契約合意前に、ショーン・マナエアにも高額オファーを出していた」ことを報じました。
セベリーノとマナエアに共通するのが、クオリファイング・オファーを拒否してFAになった“QO物件”だったことです。

QO物件を狙うことがアスレチックスにとってどう利するのかというと、それは競争率が比較的低いことに理由があります。

前述のようにアスレチックスはペイロールの引き上げを企図していましたが、一方でそれは決して簡単な道ではありませんでした。

いくらアスレチックスがFA選手と契約してペイロールを上げたかったとしても、FA選手がアスレチックスに移籍したいとは到底思わない状況であるためです。

アスレチックスは向こう3年間、サクラメントのマイナー球場でプレーすることになります。高額を得られるFA選手の誰が、マイナーの球場でプレーしたいと思うでしょうか。

実際、「ジ・アスレチック」のケン・ローゼンタールはアスレチックスの補強の苦戦を報じていました。

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事実、ドジャースからFAになったウォーカー・ビューラーからは、すげなくオファーを断られたという報道もありました。
したがって、FA戦線では圧倒的なディスアドバンテージを抱えるアスレチックスにとって、ライバルが比較的少ないQO物件を狙うことは理に適っていました。

しかも、セベリーノやマナエアは、フアン・ソトやコービン・バーンズのようなQO補償を失うことを気にするまでもない大物FAとは格が違う選手。典型的な中堅クラスの選手であり、獲得のためにドラフト指名権を失うのが惜しいと考える球団も多かったはずです。

さらに、アスレチックスは他球団と比べ、QO物件を獲得しても失うものが少ない球団でもあります。アスレチックスは収益分配の対象であるため、失うドラフト指名権は3番目に高い指名権のみ。
各グループについて、クオリファイング・オファーを拒否したFA選手と契約を結んだ場合に科せられるペナルティは以下の通りだ。

【1 ぜいたく税の基準額を超過したチーム】2番目と5番目に高い順位のドラフト指名権を喪失する。また、国際アマチュアFA選手との契約に使用できる契約金の総額が100万ドル減額される。2人目と契約した場合は、3番目と6番目に高い順位のドラフト指名権を喪失することになる。
【2 収益分配金を受け取る側のチーム3番目に高い順位のドラフト指名権を喪失する。2人目と契約した場合は、4番目に高い順位のドラフト指名権を喪失することになる。
【3 それ以外のチーム】2番目に高い順位のドラフト指名権を喪失する。また、国際アマチュアFA選手との契約に使用できる契約金の総額が50万ドル減額される。2人目と契約した場合は、3番目に高い順位のドラフト指名権を喪失することになる。
今回、アスレチックスが失う指名権は、球団が持つ3番目に高い指名権である2巡目指名権です。

アスレチックスは収入あるいは市場規模が下位10チームに入るため、1巡目後のコンペティティブ・バランス・ピックが与えられているんですね。それ故、3巡目指名権ではなく、2巡目指名権を失うことになります。ただ、実質的に2巡目指名権が1つに戻ったのと同じですから、十分耐えられる痛みです。

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つまり、アスレチックスにとっては、QO物件であるセベリーノは比較的競争率が低い上、獲得しても他球団より痛手が少ない選手だったわけです。


それにしてもセベリーノがアスレチックスを選んだのは驚き

しかし、そういった事情があったとしても、最終的に獲得に成功したのは驚きの一言です。

セベリーノはこれまでのキャリア全てをニューヨークで過ごし、エースとして活躍してきた期間も長かった選手。オファーをあっさり断られたビューラーと全く同じ立場でした。また、今季の活躍からして、優勝の可能性がアスレチックスよりよほど高いコンテンダーからのオファーもあったはずです。

結局は、それだけアスレチックスが提示した3年67Mが他球団と比べても圧倒的なオファーだったということだと思います。

「MLBTR」の予測では、セベリーノは3年51Mと出ていました。カルフォルニア州の高い税率を差し引いても、セベリーノに首を縦に振らせるには十分な額だったようです。

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また、入団会見でセベリーノが言っていたのは、元同僚のミゲル・アンドゥハーからアスレチックスのクラブハウスの良い評判を聞いていたということでした。
アンドゥハーにテンダーした意味はここにあったのかという感じですね。



長くなりそうなので後編に続きます。

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