三井ゴールデン・グラブ賞受賞者の愛用品にはどんなこだわりが? レジェンドたちのグラブに野球殿堂博物館で出合う

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ルーキーイヤーにして初受賞の松坂大輔氏 【写真提供:三井広報委員会】

 大谷翔平選手がドジャースでもさまざまな伝説を生む様子が連日話題だが、その最強メジャーリーガーをしても超えられないであろう記録がある。シーズン106盗塁を記録し、当時の世界記録を樹立した福本豊氏(阪急ブレーブス)だ。そのこともあって福本氏=盗塁のイメージが強いのだが、鉄壁の守備にも定評があり、長い歴史を持つ三井ゴールデン・グラブ賞(当時はダイヤモンドグラブ賞)の最多受賞者、かつ最多連続受賞者でもあることをご存知だろうか。

 今回は福本氏に代表される、三井ゴールデン・グラブ賞にまつわるさまざまな歴代No.1を紹介。野球殿堂博物館に収蔵されているレジェンドたちのグローブとともに、守備のエピソードをお届けする。

野球殿堂博物館の館内 【写真提供:野球殿堂博物館】

歴代最多12回受賞の福本豊とはどんな選手?

第40回三井ゴールデン・グラブ賞の表彰式でスピーチをする福本豊氏 【写真提供:三井広報委員会】

 前身であるダイヤモンドグラブ賞から数えて今年で52年目を迎える三井ゴールデン・グラブ賞。福本氏の初年度から12年連続受賞はまさに前人未到の記録だ。年にして24、5歳から37歳という、プロ選手として脂の乗った時期にずっと第一線で活躍し続けるという体の丈夫さにも驚くが、当時の超投低打高の傾向から見るに、外野手という1点に直結する重要なポジションで長きにわたりスタメンを張ったことに、当時の首脳陣らの福本氏の守備・走力に対する信頼が垣間見られる。西本幸雄監督、上田利治監督、そして梶本隆夫監督と歴代の阪急ブレーブスの監督たちに「フクのあの守りで負け試合を救ってもらった」といわれるほどだった。

 昭和55年4月発行の『ベースボールアルバム 福本豊』(恒文社)によると、当時、福本氏にとっての“走り”のライバルで、外野手として8️年連続ダイヤモンドグラブ賞を受賞したチームメイトの蓑田浩二氏は、走塁のみならず守りの技術も福本氏から学んでいた。シングルキャッチが主流の当時でも、イージーなフライほど基本通りの丁寧な捕球を心がけ、キャンプでは特守につぐ特守を欠かすことがない努力家であったという。

 そんな福本氏のグラブが野球殿堂博物館に収蔵されている。現在、外野手が使用しているグラブよりも若干重さがあるという違いはあれど、ダブルトンボのウェブは現在でもよく見られる仕様である。「Braves 福本」の白糸の刺繍もキリッとした印象だ。

福本豊氏のグラブ 【ⓒPLM】

 福本氏愛用のミズノのLite Flexシリーズは現在廃盤になり、福本氏のグラブを手がけていたミズノのグラブ職人・坪田信義さんも22年に逝去。偉大な記録を支えたグラブはいまや貴重なものとなっている。現在、このグラブは野球殿堂博物館にて常設展示ではないものの、今後福本氏に関連する展示が行われる際には披露される可能性があるとのことだ。

最年少記録は“平成の怪物”が。そのグラブは?

第28回三井ゴールデン・グラブ賞の表彰式。投手部門に松坂氏と上原浩治氏が選出。上段左端にはイチロー氏、上段右端には新庄剛志氏の姿も 【写真提供:三井広報委員会】

 三井ゴールデン・グラブ賞の最年少受賞記録は、1999年当時19歳1カ月の松坂大輔氏(西武ライオンズ)によるもので、入団一年目の受賞は最多勝・ベストナイン・新人王と合わせてこの年の話題を総なめにした。松坂氏の圧巻の投球は“平成の怪物”として語り継がれているが、フィールディングも超一流であった。

 守備の基本はボールを体の前でさばくことだ。投手が打球に触れたことで前に落ちればいいが、弾かれたボールの軌道が変わり、内野手が捕りづらくなる可能性もはらんでしまう。また、恐ろしくスピードが速く回転がかかったライナー性の打球は怪我の恐れもあって、積極的には捕りにいかないという判断も働くため、投手の守備への貢献は難しいところ。そんななかでも、松坂氏は初受賞の1999年、25試合の登板で10刺殺、29捕殺、失策0と完璧なフィールディングを見せた。繰り返すが高卒の新人が、だ。

 実は、野球殿堂博物館収蔵の写真のグラブはピッチング用や試合用ではなく、投手守備練習の際に用いられていた“守備練習専用グラブ”だ。松坂氏は「投手も9人目の野手」であることを強く意識していた。

松坂大輔氏守備練習用グラブ 【ⓒPLM】

 特徴はとにかくコンパクトであること。もともとトレーニンググラブは小さめにつくられる傾向にあるが、松坂氏と他選手のグラブを見比べると一目瞭然だ。素手で掴む感覚で捕球し、すばやく握り変えができるようにポケットも浅くなっている。

松坂大輔氏の投球用グラブ(西武時代 2004年寄贈) 【ⓒPLM】

 松坂氏の現役当時、投手用のグラブは球種の握りを隠すために大きく作ることがセオリーとされてきたが、松坂氏がその真逆、守備にも最大限対応できる小さめのグラブを職人にオーダーしたことで、プロ選手や全国の野球少年に大きな影響を与えた。

 セ・リーグにおける三井ゴールデン・グラブ賞の最年少記録保持者、立浪和義氏(中日ドラゴンズ・19歳2カ月)のグラブも野球殿堂博物館に収蔵されている。遊撃手として高卒1年目からレギュラーという華々しいデビューを飾ったが、意外なことに遊撃での受賞はこれが最初で最後だ。1995~97年は二塁手で、2003年には三塁手で三井ゴールデン・グラブ賞を受賞している。ちなみに、3つの異なるポジションでの受賞は立浪氏のみだ。

立浪和義氏のグラブ 【ⓒPLM】

他にもこんな記録が……三井ゴールデン・グラブ賞にまつわるさまざまな記録

三井ゴールデン・グラブ賞の表彰式で手渡される金色のトロフィーは、受賞選手が使用するグラブを模った特製品 【写真提供:三井広報委員会】

 最年少記録があれば、当然最年長も。稲葉篤紀氏(北海道日本ハムファイターズ/2012年)の40歳2カ月での受賞がパ・リーグの記録だ。また同年に、宮本慎也氏(東京ヤクルトスワローズ)が41歳11カ月で受賞しており、これがセ・パ合わせた最年長記録となる。

 満場一致、まさに文句なし。そんな満票受賞者はセ・パ合わせても10名しかいない。パ・リーグの5名を挙げると、大橋穣氏(阪急ブレーブス/1972年)、有藤通世氏(ロッテ・オリオンズ/1974年)、福本豊氏(阪急ブレーブス/1976〜1979年)、梨田昌崇氏(近鉄バファローズ/1979年)、秋山幸二氏(西武ライオンズ/1990年)となっている。平成以降パ・リーグではたったひとりしかいないが、果たして今後現れるのか?

 両リーグで受賞歴がある選手は9名いるが、もっとも受賞が多いのが新庄剛志氏だ。セ・リーグでは7回(阪神タイガース/1993年~1994年・1996〜2000年)、パ・リーグでも3回(北海道日本ハムファイターズ/2004〜2006年)と、計10回の受賞歴がある。

「第53回三井ゴールデン・グラブ賞」は11月12日に発表、11月28日に表彰式が行われる。今年はどんな選手が受賞するのか、今から楽しみに待ちたい。
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