ソナエルJapan杯2024、長崎の壁は厚かったけれど 2位の清水、Best Jump Up賞の山形の担当者に聞く

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今回話を伺った清水エスパルスのホームタウン担当 松浦凌大さん(左)とモンテディオ山形の運営担当 佐藤日和さん(右) 【 】

 今年で4回目となる「ヤフー防災模試 ソナエルJapan杯2024(以下、ソナエルJapan杯)」が9月12日に終了した。

 ソナエルJapan杯は、防災意識を高めることを目的に、災害時に必要な知識や能力を問う「ヤフー防災模試」を、Jリーグに所属する全60クラブのファン・サポーターがスマートフォンで受験するというもの。防災模試受験による勝ち点、そしてクラブ公式Xへのリポストによる勝ち点の合計をクラブ間で競い合い、最終順位を決定する。

 このほど発表された最終結果では、1位がV・ファーレン長崎(勝ち点12,882)。2位の清水エスパルス(同 10,115)、3位の横浜F・マリノス(同6,374)を大きく上回り、見事に4連覇を達成した。また、前回51位から6位となったモンテディオ山形(同5,301)が「Best Jump Up賞」を獲得している。

 今年は元日の能登半島地震から始まり、その後も地震や台風や大雨による被害が各地で相次いだ。つい最近でも、復興の途上にあった能登の被災地が大雨に見舞われ、少なからずの犠牲者を出している。そんな中で行われた、今年のソナエルJapan杯。各クラブの担当者は、どんな思いで防災意識の向上に取り組んでいったのだろうか?

 今回は、2位となった清水の松浦凌大さん(ホームタウン担当)、そして見事なジャンプアップを達成した山形の佐藤日和さん(運営担当)にお話を伺った。(取材日:2024年9月16日=オンラインにて実施)

■静岡県と山形県、それぞれの県民の防災意識とは?

──山形の佐藤さん、清水の松浦さん、今日はよろしくお願いします。まずは簡単に自己紹介からお願いします。

佐藤 モンテディオ山形で運営を担当している佐藤日和です。昨年に新卒で入社しました。山形の新庄市出身ということもあり、今回のソナエルJapan杯では地元のクラブが上位に入るために頑張ってきました。今日はよろしくお願いします。

松浦 清水エスパルスでホームタウンを担当している松浦凌大です。今年4月、クラブのパートナー企業である、静岡ガスから出向してきました。僕自身も静岡市の出身で、幼少期からエスパルスが身近に感じられる環境で育ちました。ですので、今回のソナエルJapan杯も、高いモチベーションをもって臨みました。今日はよろしくお願いします。

──清水は昨年の7位から今回は2位。山形は51位から一躍6位にジャンプアップしました。今回の成績について、それぞれ自己評価をお願いします。

松浦 100点満点で70点くらいですかね。エスパルスは最低限、表彰台に上がるだけのポテンシャルはあると思っていましたので、その点では満足しています。とはいえ、やるからは優勝を目指していたわけで、やっぱり1位の長崎さんの壁は分厚かったです。それを乗り越えられなかったので、30点マイナスといったところですね。

佐藤 昨年、51位という順位に終わったのは、ファン・サポーターや行政を上手く巻き込めなかったのが原因だと思っていまして、そこが最も悔いが残るところでした。今回は反省を活かしたことに加えて、7月に県内で豪雨災害があったことも大きかったと思います。クラブとしても、より防災意識を高めようとしたこともあり、目標だったトップ10に到達することもできました。その意味では100点満点でしたね。

──今、佐藤さんから豪雨被害のお話がありました。防災意識というのは、地域によって異なると思います。静岡県は、もともと防災意識が強いイメージがあるのですが、いかがでしょうか?

松浦 おっしゃるとおりで、以前であれば東海地震、最近であれば南海トラフ地震に備える必要があります。地震だけでなく、台風についても、最近は以前にも増して警戒が必要になりました。実際、一昨年には台風15号の影響で大きな被害が出て断水が続きました。その際に選手とスタッフが被災地を訪問したことも経験となっています。

 県民レベルで防災意識が高まる中、クラブとしても震災発生時を意識した訓練や備蓄品、そして避難経路の確認など、いろいろ意識を向ける必要があると感じています。また僕自身、ガス会社から来ていることもあり、災害時のインフラについては、いつも気になっていますね。

──山形については、いかがでしょう?

佐藤 2011年の東日本大震災があり、もともと地震や津波に対する意識が高かったのですが、7月の豪雨災害でさらに高まった印象です。県内の各市町村でも、公式LINEで避難経路の確認や備蓄品に関する呼びかけの連絡は、頻度が高まっています。

 クラブに関していえば、所属選手がそれぞれ自治体のアンバサダーをしている「35市町村アンバサダープロジェクト」というものがあります。今回の豪雨災害に際しては、スパイクなどのオークションを行って、集まった金額を寄付させていただいたのですが、それによって選手の間でも防災への意識が高まっていることを感じています。

■「表彰台」と「ベスト10入り」に向けての施策とは?

──ここから具体的なことについて伺いたいと思います。清水は表彰台、山形はベスト10入りという目標を掲げたわけですが、担当者レベルではどのような取組みをされてきたのでしょうか?

佐藤 51位から脱却するべく、いろいろなことにチャレンジしました。まずホームゲーム開催日ですが、県内で活動している防災団体や消防署の協力をいただいて、災害が体験できるブースを作ったり、消火器の体験会を行ったりしました。ハーフタイムでも、サイレンを鳴らしたりアナウンスをしたりして、試合中に地震が発生した時のシミュレーションも実施しています。あとは公式LINEやメルマガで、受験の呼びかけを毎日更新していましたし、公式Xでも選手が「僕は何点でした。皆さんもぜひ!」というポストをしてくれていました。

選手が安全確保行動を実践しし、クラブの公式Xからファン・サポーターへ発信。 【画像:モンテディオ山形提供】

──なるほど。山形の場合は地上戦と空中戦、どちらもしっかりやっていますね。清水の場合はどうでしょう?

松浦 ポイントを積み上げるには、ファン・サポーターの皆さんだけでなく、一般の方々にも広く受験してほしいというのがありました。そこで静岡市に相談し、市の公式XやLINEを活用しながら、広く周知していただく協力をお願いしました。それと僕の出向元やパートナー企業向けのメール配信を通じて、パートナー企業の方々にも受験していただくようお願いしました。

 あとは子どもたちですね。エスパルスは、Jクラブでも3番目にスクール生の数が多いので、スクール事業の担当者にも協力をお願いしました。もちろん広報との連携も不可欠です。毎日のSNSの投稿は当然として、内容についても定型文だと注目されないので、具体的な防災の知識やグループの順位表を見せるといった工夫も施しました。

──松浦さんからも話がありました。今回のソナエルJapan杯では、第1節から第3節まで、各節でのグループの順位が表示されていました。順位の変動を見ながら、施策を修正するようなことはあったんでしょうか?

松浦 清水はこれまでスロースターターだったので、今年は最初からパートナーさんに、公式Xのリポストをお願いする形で臨みました。その結果として、今年は第1節(グループC)からずっと首位をキープできました。修正という意味では、第3節のところで順位表を見せて、ラストスパートをかけるくらいでした。

佐藤 公式Xの投稿やメルマガなどを積極的に発信したおかげで、第1節、山形はグループAで1位だったんですけれど、少し慢心してしまって(苦笑)、第2節で順位ががくっと落ちてしまいました。それで第3節からは投稿の回数を再び増やして、県や35市町村の各担当者に再度の受験をお願いしました。結果として、再び順位上げることができましたが、最終的に6位になるとは思いませんでしたが。

──では、どういった場面で手応えを感じたでしょうか?

佐藤 Xでの投稿で「選手が受験しているから、私もやってみようかな」という反応が、目に見えて増えた時ですね。それと試合日での災害体験ブースで、お子さんたちが興味をもって参加しているのを見ていて「いける!」と感じました。

松浦 われわれもXでのファン・サポーターの反応を見て、手応えを感じていました。ただ、他クラブの発信とリアクションを見ていると、やっぱり長崎さんは別格でしたね。あちらの反応は「今年もこの季節が来た!」みたいな感じで、やる気満々なんですよ(笑)。長崎さんの4連覇も当然だなって思いました。

災害時に防災拠点となる「災害レジリエンス強化型 再エネステーション」のセレモニーに参加した清水エスパルスのパルちゃん。 【画像:清水エスパルス提供】

■絶対王者の長崎に追いつくために必要なこと

──結果として、清水は7位から2位、山形は51位から6位に順位を上げることに成功しました。さまざまな施策を打ち出す中、決め手となったのは何だったのでしょうか?

松浦 去年よりも受験者の範囲を広げられたことですね。ファン・サポーターだけでなく、スクール生の親御さん、パートナー企業や市民の皆さんにも受験していただいて、さらに勝ち点を積み上げることができました。それと今年は、宮崎での地震や台風10号があったことで、災害への危機感を抱き、クラブからの発信に対してファン・サポーターがより反応を示しやすい状況ということもあったかもしれないですね。

佐藤 本当に去年まで、何もしていなかったので、リアルとSNSを使いながら、防災の意識を高めていただくことを心掛けました。それと山形の場合、豪雨災害が後押しした部分もあったと思っています。故郷の新庄市では、2人の警察官が殉職されているんですが、私と同じ20代だったんです。それを知って、私の中でも「このままじゃ駄目だ!」という思いが募ったというのもありました。

──回を重ねることで、得られたものがあったと思います。前回の反省点を活かせたことがあれば、教えてください。

佐藤 去年は「他の部署を上手く巻き込めなかった」という反省がありました。今年は広報や営業からも提案があったり、選手からも「こっちで発信するからURLを教えて」と言ってもらえたり。そういった広がりが生まれたのは、よかったと思います。

松浦 やっぱり広報との連携は重要でしたね。広報セクションとの間で、個別のチャットができたので、密な連携が取れたのは大きかったです。

──そうした上手くいった部分は、ぜひ次回に活かしたいですね。もっとも、4連覇中の長崎の分厚い壁を突き崩すことは、容易ではないとも思います。そこで最後に、絶対王者の長崎に追いつくために、何が必要だと考えているか、教えてください。

松浦 今回は2位になりましたが、あらためて長崎さんの強さを実感しています。ホームタウンなどの試合以外の活動は、発信してもそこまで大きな反応があることは少ないのですが、ソナエルJapan杯に関しては、ファン・サポーターの皆さんが「待ってました!」みたいな感じで(笑)、文化として根付いている感じなんですよね。

 今回、Xでの呼びかけを通じて受験者数を増やすことはできましたが、山形さんのようにスタジアムで防災関連のブースを出すところまではできませんでした。来年は、そうした場で受験していただくことにも取り組んでいきたい。どうしても勝ち点にフォーカスしがちですが、本来の目的は防災の知識を身に付け、活かすことです。そうしたものを追い求めた先に、長崎へのキャッチアップがあるのではないかと思います。

佐藤 これまで長崎さんは、雲の上のような存在という感じでした。真似をするにも、クラブとしてのアプローチが違うのかと考えながらチャレンジして、今年は「Best Jump Up賞」という結果につながりました。ただ、松浦さんがおっしゃるように、順位を上げるだけが目的ではないんですよね。ここで得た知識が、いかに役立つかについて、特に子どもたちの世代にも伝えていければと思っています。

(文:宇都宮徹壱)

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