コラム【武士が斬る!】vol.16 ダンディライアンの二人のドライバー。 SUPER FORMULAのピュアなレーシングに魅了されて
ようやく厳しい暑さも和らいで過ごしやすい気候になりましたね。この夏は私も熱中症になってしまい、今年の酷暑と年齢による衰えを実感した次第です… そんな暑さに負けず劣らずの熱いレースが前戦茂木ラウンドで繰り広げられましたよね!まずはその主役であったダンディライアンの二人のドライバーにフォーカスしていきたいと思います。
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タイヤ交換をするためのピットオープンになる10周を終えるとまず格之進選手がピットに飛び込みました。これはトップを走る山下健太選手がピットに入らなかったのを見て格之進選手が動いた形になります。それに対して牧野選手はステイアウト。もし格之進選手が入らなければ牧野選手は入るつもりでした。
先にレースを動かす——、これはロングランに自信がなければなかなかできない戦略です。山下選手はそこまでレースペースに速さがなかったこともあり、先に動き自分のペースで走るという選択が優勝するために最良と、ダンディライアンの二人は考えていたのでしょう。そしてこの時点では格之進選手にその選択権があり、この戦略をチョイスしました。
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6号車陣営はその難しさも持ち合わせる戦略を選び、格之進選手はしっかりとそのミッションをクリアしていきます。他車をオーバーテイクしながらペースも非常によく、しっかりと“裏”の1位をひた走ります。燃料が重い時の序盤で痛めたタイヤで走る“表”の上位陣よりも10秒以上のマージンをもって、実質的にトップを走っている状況に持ち込んでいきました。レースのセットアップが仕上がっていることと非常にうまいタイヤマネージメントのおかげで、長いスティントにもかかわらずタイムペースはレース終盤になっても大きく落ち込まずに走っているように見えます。そして必ず追いついてくるであろう、タイヤ交換を伸ばしたチームメイトとのバトルを予想して、その準備も含めたタイヤマネージメントをしていたのだと想像します。
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抜群のタイミングでピットに入り、タイヤ交換も非常に早く、アウトラップでもセクター3 ・セクター4を全体ベストのタイムを叩き出して、次の周にピットに入った山下選手を僅差でかわすことに成功!この局面がこのレースの大きなポイントだったと思います。すぐさま前を走る大湯都史樹選手も豪快にパッシングを完了し、最終盤のチームメイトバトルへの準備を完了しました。
ここから残り10周ほど。タイヤマイレージが苦しい格之進選手に対して1周コンマ8秒ずつギャップを縮めていく牧野選手は、ついに残り3周で真後ろにつきます。ここから両者、オーバーテイクシステムをONにして各コーナーでギリギリのバトルを繰り広げます。格之進選手は立ち上がりでトラクションがかかるラインをトレースしながら、このバトルを見据えていたかのように落ち着いた対処をしていました。登りのヘヤピンでインを刺した牧野選手に対してもしっかりと立ち上がりで抜き返し、追い抜きをさせません。バックストレートエンドでもサイドバイサイドで縁石いっぱいまで使いながらのオーバーテイクを牧野選手は試みますが、ここでも格之進選手が抑えきりました。丸々1周にわたるトップ争いは、まさに己のプライドをかけた、魂の走りだったと、すべてのレースファンを魅了したことでしょう。レース後、牧野選手に「今日はあいつのレースだった」と言わしめた、素晴らしい首位攻防のバトルだったと思います。
しかし、この日もレースの神様は格之進選手に試練を与えたのでした。残り1周とちょっとというところで、まさかのマシントラブル。その場でスピンを喫してマシンはストップしてしまいました。ここまでほぼ完璧といっていい走りをし、チームも戦略とピット作業をしっかりとこなしていた6号車陣営に、なぜ?どうして??
時に残酷なシナリオを用意するのがレースの神様だということは知ってはいますが、あまりにも…、本当に言葉になりません。
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SUPER FORMULAの歴史に残るような名勝負を制して2勝目を挙げた牧野選手は、初優勝の時とは打って変わって非常に静かな面持ちでした。無線でもインタビューでも、真っ先に格之進選手のことを気遣い、そして今日は自分の負けということを認めていました。チームメイトだからこそ分かりあえることがあるのでしょう。そして、お互いがすべてを出し切ってフェアに戦ったからこそ、ライバルを敬う言葉が出たのでしょう。これぞモータースポーツ、これぞスポーツマンシップというレースを見させてもらったことに本当にありがとうと言いたいですし、それを見られた我々は幸せだと思います。
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しかし、SUPER FORMULAの舞台ではあまりそういった場面をみることはありません。2022年の茂木ラウンドでも今回と同じようにチームインパルの2台で最終ラップまでチームメイトバトルが繰り広げられました。ドライバーたちが己のすべてを出し切って戦うこと、それによって素晴らしいバトルが生まれ、素晴らしいドラマが生まれるということを、我々日本のレースファンは知っています。でもF1に代表されるように、実はそのことが当たり前のようで当たり前でないのがレースの世界の常です。
ではなぜSUPER FORMULAでは、こうまで純粋なレースが繰り広げられているのでしょうか?? これは私の持論なのですが、日本の、このSUPER FORMULAに関わる人たちの純粋なレース愛によるところだと、そう思っています。今回のレース、村岡さんの一言も、レースを愛しているからこそ、本当のバトルをファンに見せたいという想い、そして自らもそのバトルを見たいという気持ちだったのではないでしょうか。
レースには多額の資金が必要になります。時代が進むにつれ、自動車メーカーの資本力や技術力なしでは成立しない領域に入っていると言っていいでしょう。もちろんビジネスも絡んでおり、純粋な気持ちだけではやっていけないというのが時代の流れでもあります。しかし、このSUPER FORMULAのステージには、“純粋さ”がいまだに守られていると思うのです。
それを守っている人たちの筆頭がチームオーナーの皆さんです。星野一義さん、中嶋悟さん、舘信秀さんという日本モータースポーツの創成期を築いてきた人たちに、近藤真彦さん、村岡潔さん、土居隆二さんといった、その背中を見続け追いかけてきた人たちがいます。そして他のチームオーナーの皆さんもSUPER FORMULAのピュアなレーシングに魅了されている人たちばかりだと、勝手に想像しています。
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今回のダンディライアンの二人の清々しいほどのスポーツマンシップは、こういったチームオーナーの皆さんが守ってきたステージのうえにあるのだと、私は思います。もちろん、ドライバーたちの日々の努力、切磋琢磨してきたライバル関係なしでは、このような素晴らしいバトルはないでしょう。他にもオーガナイザーやプロモーターの皆さん、オフシャルの皆さんも同じくレース愛に溢れているからこそ、純粋なレースの舞台が出来上がります。そして何より、ファンの皆さんが注目してくれることがこの舞台をより一層華やかに彩ってくださいますし、ドライバーたちのいい走りに繋がっていることに間違いありません!
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流れは牧野選手にあるようにも見えますが、それにストップをかける選手が現れるのか? 気温が下がると野尻智紀選手も俄然元気になってきます。山下選手もポールポジションを獲ったことで自信を取り戻しているし、決勝セットアップを見つければライバル勢には脅威でしょう。前回の富士で勝った坪井翔選手は当然この富士で連勝を狙ってくるはずですし、コンスタントに上位を得ている山本尚貴選手もシリーズを見据えて勝負の週末と気合いを入れて臨むはずです。こうあげていくと、全員にフォーカスできますが(笑)、個人的な注目は格之進選手とニック・デ・フリース選手、あとヤマケンです。
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また今週もいいレースを期待したいですね!それではまたm(__)m
日本のトップカテゴリーで活躍したレーシングドライバーとして活躍。プライベートチーム「つちやエンジニアリング」のチームオーナーでもある。現役を引退した現在は、ドライバー・エンジニア・メカニックの育成に務め、モータースポーツ界に大いに貢献し多方面で活躍している。
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