かけっこが苦手な子どもをどうサポートする?楽しく速く走るコツをプロが伝授

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運動会のメインイベントのひとつが“かけっこ”。走る子どもたちはもちろんのこと、応援する子どもたち、そして見学している親も大いに盛り上がる。ただ、足の速い子はいいが、走るのがあまり得意ではない子どもにとってはつらい体験にもなりかねない。友達に抜かされて順位が下の方になれば、悔しかったり悲しかったりして二度と走りたくないと思うことも。子どものそんな姿を目にした親は、いったいどんな声がけをし、どのように励ますのがいいのか。順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科バイオメカニクス研究室教授の柳谷登志雄氏にお話を伺った。

本来、子どもは走ることが大好き

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子どもの頃、友達と追いかけっこして騒いで親に怒られたり、小学校の廊下を走って先生に怒られたりした経験を持つ人は多いだろう。子どもは本来、走るのが大好きなのだ。しかし、運動会や体育の授業などで競争を強いられると、多かれ少なかれ、好きではなくなってしまう子が出てくる。だから、元々子どもが持っていたどうしても走りたくなってしまう感情を、大事にすることが重要なのだそう。

「大人は急ぐ手段として走りますが、子どもは楽しいからついつい走ってしまうんです。校庭に行って遊びたいとか、子ども同士でじゃれ合っていて興奮して走ってしまうとか。そういう行動を抑えるのは、心と体の発育にとってよくないのではないかと私は常々思っています」
運動会から徒競走がなくなる?

走る競技“かけっこ”はどうしても競争になってしまうから、速く走れない子どもたちは走ること自体が嫌いになってしまうかもしれない。そうした懸念から、昨今は教育の”順位づけ”の見直しなどもあり、近頃の学校の運動会から徒競走がなくなっていることに、柳谷氏は危惧を覚えているのだと言う。

「小学校などでは特に、足が速い子が人気者になったりしますよね。足が速いということは、スポーツの能力を決定する要因にもなります。いろいろな場で活躍する機会も増えますし、クラスの中心になることもあるでしょう。運動能力が高くない子どもにとっては悔しいし、残念なことではあるんですが、成功体験が子どもを成長させるということを踏まえると、走って競争することも大事なことではないでしょうか」(柳谷氏、以下同)

では、子どもが競技としてのかけっこを苦手と感じる場合、どうしたらいいのだろうか。

「かけっこと言えば運動会ですが、私も子どもの運動会を見に行ったことがあり、“どうして速く走れないの!”などと言ってお弁当の時間に怒っているている親御さんを目にしたことがあります。これは良くないです。子どもも面白くなくて嫌いになってしまうでしょう。とにかく褒めてあげれば良いと思います。速い子には“速かったね”でいいし、それほどでもなかったなら“頑張ったね”と。出来そうなら、普段からお父さんお母さんが子どもと一緒に走って、楽しさを共有するのもいいですね。難しい場合は、走る教室のようなところに行って、友達と一緒にお互いに励まし合いながら身体を動かすコツを身につけていくのも良いと思います」

「苦手」から「もっとやりたい!」へ。かけっこが楽しくなる秘訣

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柳谷氏は、コロナ禍で縮小を余儀なくされたものの、定期的に「瞬足陸上教室」を開催し、子どもたちに走る指導を行っている。競技志向の子どもには専門的な走り方を、それ以外の子どもたちには走る楽しさを教えるようにしているのだという。

「たとえば、追いかけっこや鬼ごっこって楽しいですよね。ですから、追いかけっこの応用でウォーミングアップをしてもらい、怪我のないようにしています。自分の足が少しでも速くなったのを実感したり、できなかったことができるようになるのを感じたりするのはとても楽しいですから、ミニハードルやマーカーなどを使って、足の動かし方から始めます」

10mぐらいの短い距離にミニハードルをいくつか並べ、最初はいろいろな足の上げ方、いろいろなリズムで歩くことから始め、だんだん速度を上げて、次第に走るように足を動かしていく。距離は短く、スピードも上げず、段階を踏みながらダンスのような感覚で行っていくと、できることが増えていく。“楽しかった”“もう少しやりたい”と思ってもらえるような内容を心がけているのだそう。

「また、運動があまり得意ではないという子どもは、自分の体をどう動かして良いかわからない、操り方がわからないのです。そういう子どもたちには、頭と筋肉をつなげるというか、考えた動きができるように指導します。それに慣れてくると、今度は考えなくてもできるようになり、操り方が上手になっていくはずです」

柳谷氏の専門であるバイオメカニクス研究は、腕の振り方や足が地面に着くときの動きを調べて問題を見つけ、解決法を探ることができる。学問としては計測して数字を使って説明するのだろうが、子どもたちにはどのように指導しているのだろうか。

「足が地面に着いてからしっかり蹴ろうとする子どもがいるんですが、そうすると足が後ろに流れてしまいます。足が地面から離れたら、いくら蹴っても体はもう前には進みません。ですから、速く走るためには、足を振り下ろすときを意識すること。前に出た足を地面に下ろすときに速く動かすことが大事です。そうすれば、地面に動きがきちんと伝わって推進力になります」

「4の字を意識!」もっと速く走るための5つのポイント

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最後に、実際速く走るためにはどうしたらいいかを柳谷氏に伺ったところ、体を無理なく動かしスピードを出すためには、トップスピードになったときに地面に着いている足が曲がらないようにすることが重要なのだという。

「スピードが落ちてしまう原因のひとつに、地面に着いた足の膝や腰が曲がってしまうことがあります。そんな時は、体を支えている足と浮いている足とで4の字を描くようにするといいとアドバイスします。4の字を意識して身体を動かすと、足が地面を速く、しっかりと捉えて足が曲がらず、前に速く進むことができるんです」

以下に柳谷氏に伺った速く走るためのポイントを5つ記載したので、お子さんのかけっこのアドバイスとして、ぜひ参考にしてみてはいかがだろうか。

(1)余分な力を抜く(肩に力を入れないで、手は軽く握る)
(2)腕を速く振る(手ではなく、肘を前から後ろに振るイメージ)
(3)足を股関節から動かす(股関節をぐいっと前に出し、地面の上に足を置いていくことを意識する)
(4)出した足を真下に下ろす(前足で空き缶をつぶすつもりで、まっすぐに足を下ろすことを意識してゴールへ)
(5)地面をしっかり蹴る(親指のつけ根のあたりで地面をとらえる。強く蹴って前へ)

“子どもは楽しいから走る”という言葉にハッとさせられた。体育の授業や運動会でのかけっこで競争することはもちろん子どもの成長の場となるが、走るのが苦手な子が楽しさを失ってしまわないように、大人が気にかけられることもあるはずだ。そんなことに想いを馳せながら、子どもを持つ方は是非、“4の字”を意識して一緒に走ってみてほしい。

PROFILE 柳谷登志雄(やなぎたに・としお)
順天堂大学スポーツ健康科学部教授。専門はスポーツ科学(スポーツバイオメメカニクス)。監訳に『パワーズ運動生理学』(メディカルサイエンスインターナショナル)、『スポーツと運動のバイオメカニクス』(同前)がある。

text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
photo by Shutterstock

※本記事はパラサポWEBに2024年10月に掲載されたものです。
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