一軍初年度で奮闘中、CPBL「第6の球団」台鋼ホークスにクローズアップ

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「魔鷹(モーイン)」こと、主砲のスティーブン・モヤは目下、HR、打点部門でトップに立つ大活躍をみせている 【©台鋼雄鷹球団】

 前後期制で、全6チームが60試合ずつ戦う台湾プロ野球(CPBL)。後期シーズンも既に7割以上を消化し、公式戦は残り3週間ほどとなった。

 今季から平野恵一監督が就任した中信兄弟は9月14日、2位の味全ドラゴンズに3対2で辛勝、後期シーズンの優勝マジック「12」を点灯させた。なお、中信兄弟は、年間順位でも前期を制した統一セブンイレブン・ライオンズに2ゲーム差をつけ首位、後期制覇と共に、台湾シリーズ直接進出を目指している。

 8月のこのコーナーでもご紹介した通り、今季、台湾プロ野球は空前の盛り上がりをみせている。公式戦の観客動員数は8月26日、269試合消化時点(全360試合)で、史上初めて200万人を突破、1試合の平均観客数も約7,400人と、35年目で初めて7,000人台に乗ることは確実だ。

 日本でも話題のチアリーダー人気や、各種のコラボイベントやゲストを招くテーマデーの開催など、各球団の興行面での努力が一役買っていることは間違いないが、ファン待望の室内球場「台北ドーム」の運用開始、そして、第6の球団、台鋼ホークスの参入により、新しい風を吹き込んだことが大きいだろう。

 2022年に台湾プロ野球へ参入した台鋼は、昨シーズンは二軍公式戦を戦った。一軍初年度の今季に向け、昨年8月、楽天モンキーズとの間で、直前のドラフト会議で1位指名したばかりの元メジャーリーガー林子偉と、楽天の3選手及、王柏融が帰国した際のCPBLにおける「契約所有権」譲渡という、実質的には「1対3プラス1」となる大型トレードを決行した。そして、オフに北海道日本ハムファイターズを退団した王柏融は、昨年12月、台鋼入りを果たした。

 昨季はこのトレードが契機となり、若手が成長、二軍チャンピオンシップ、アジアウインターリーグを制したが、なお、他球団の一軍との実力差は顕著であったことから、エクスパンション・ドラフトやトレードで主に中堅クラスを獲得、「ノンテンダー」となったベテランも補強した。

 そして迎えた一軍初年度、成長過程のチームと感じさせるプレーも少なくないが、ひたむきな若手選手に対するファンの視線は温かい。興行面でも、独自路線のさまざまな仕掛けで話題を集め、一軍初年度にして主催試合の平均観客動員数はリーグ4位の7129人、アクセス面が課題といわれた本拠地、南部・高雄市の澄清湖球場の平均観客動員数も、球場別3位の6841人と健闘している。

 今回は、一軍初年度で奮闘中の新球団、「台鋼ホークス」にクローズアップし、インタビューも交えてご紹介しよう。

スティーブン・モヤが目下「二冠王」の大活躍、拡大ドラフト移籍組も奮闘しキャリアハイ

 今季から一軍に参入した台鋼は、前期シーズンは23勝37敗、借金14、勝率.383で最下位に沈んだが、後期は48試合消化時点(9月15日現在)で20勝28敗、勝率.417、8月に富邦ガーディアンズが歴史的な不振に陥ったこともあり、8月23日から5位をキープしている。

 主力選手を紹介しよう。打者では、かつて中日ドラゴンズやオリックス・バファローズでもプレーした「魔鷹(モーイン)」ことチームの主砲、スティーブン・モヤが9月15日まで、103試合に出場し、27ホームラン、88打点でリーグ二冠、OPS(出塁率と長打率を足し合わせた値)も.938でリーグトップと大活躍。リーグ史に残る外国人打者の一人になったと言っても過言ではない。

 また、今季、主将に指名された王柏融は、調子の波もあり、103試合で打率.281、6ホームランと、「大王」としては、やや物足りない成績にも見えるが、打点はリーグ4位タイの57打点、OPS.783はチーム2位、リーグ10位と中心打者の働きを見せている。

王柏融選手 【©台鋼雄鷹球団】

 生え抜き選手では、2022年のドラフト1位、20歳の曽子祐が、9月8日に負傷するまで、ショートで開幕から103試合全試合出場し打率.281と健闘、同じ2022年のドラフトでは21位という下位指名だった24歳の王博玄も、ミートを心がけた打撃でアピール、ライト兼ファーストの守備は改善の余地はあるが、規定打席に乗せ、打率.291と気を吐いている。

 昨オフ、エクスパンション・ドラフトで移籍してきた外野手の陳文杰は、序盤こそ不振に喘いだが、次第に調子をあげレギュラーに定着、同じエクスパンション・ドラフト移籍組の捕手の張肇元、元投手の内野手、杜家明、支配下選手60枠から漏れ移籍した捕手の呉明鴻らも、今季、台鋼でキャリア最高のシーズンを送っている。

11年目のシーズン、新天地でキャリア最高に近い成績を残している軟投派左腕、江承諺 【©台鋼雄鷹球団】

 投手では、エクスパンション・ドラフトで指名した、元埼玉西武ライオンズの郭俊麟とのトレードで統一から獲得した直球平均134km/hの軟投派左腕、江承諺が、チーム最多20先発、チーム最多タイの7勝(9敗)と奮闘。投球回数115回1/3は、11年目のシーズンで、既にキャリアハイとなっている。

 元メジャーの左腕、ニック・マーゲビチウスは子どもが生まれたため、既に帰国したが同じく7勝。昨季までの3シーズン、楽天モンキーズでは主に救援として活躍も、今季台鋼入団後は先発に転向した元広島カープのブレイディン・ヘーゲンズは、6月半ばの一軍昇格から11試合に先発、約3カ月、負けなしの7連勝と、大きく貢献している。

 横田久則一軍投手統括コーチらに育てられた生え抜きの若手では、昨秋のアジアプロ野球チャンピオンシップに、チームから唯一出場した左腕の陳柏清が16試合に先発、チーム3位の87イニングを投げ4勝。救援の黄群はチーム最多の45試合に登板、一時はクローザーも勤めた。また、昨年、アジア選手権の代表に選出された20歳の右腕、伍祐城は先発からブルペンに転向し、まずまずの活躍をみせている。

 また今季、台鋼には日本人投手も3人在籍、開幕時には中日ドラゴンズや横浜DeNAベイスターズでプレーした左腕の笠原祥太郎と、独立リーグ球界を代表する右腕、元埼玉武蔵の小野寺賢人が登録された。

 笠原は4月5日、記念すべき本拠地開幕戦で先発、好投し勝ち投手となったが、その後、肩の違和感を覚え二軍降格。なかなか調子が上がらないなか、外国人枠の関係でヘーゲンズと入れ替えとなり、やむなく退団となった。

 一方、昨年のアジアウインターリーグに「テスト外国人」として参加、決勝で好投するなど優勝に貢献し契約を勝ち取った小野寺は、開幕直後は援護に恵まれず、なかなか勝ち星がつかなかったが、制球力と緩急を生かした丁寧な投球を続け、6試合連続クオリティースタート。防御率2.31、WHIP(1イニングあたりの与四球と被安打数の合計)は0.97の安定感で、主力投手の一人となった。

 マウンド上のポーカーフェイスからはイメージできないユニークな性格、しっかり台湾華語を学び、チームメイトやファンとコミュニケーションをとろうとする姿勢もファンの心をつかみ、小野寺は一躍人気選手となった。残念ながら、肘の靭帯損傷が発覚、今季絶望となったが、登録抹消後もチームに残り、復帰へ向けリハビリを続けながら、地域の子供たち向けの野球教室などではコーチもつとめている。

 そして、8月初旬には、かつてオリックス・バファローズでプレーした吉田一将が、オイシックス新潟アルビレックスから移籍。8月25日には味全戦で一軍初登板を果たした。191センチの長身から投げ下ろす伸びのある直球と、キレのある変化球で8試合連続無失点。9月11日には初セーブもマークした。見るものを安心させる投球内容は「日本人らしい投手」と高い評価を受けており、ファンからは早速、「台鋼のダルビッシュ」の異名もつけられている。

初登板から安定した投球を見せている吉田一将、9月11日には台湾プロ野球初セーブもマークした 【©台鋼雄鷹球団】

呉念庭は無念の負傷、日本のファンの皆さんも早期復帰へエールを

 一方で、残念なニュースもお伝えしなければならない。ご存知の読者の方もいらっしゃると思うが、昨季限りで埼玉西武ライオンズを退団し、ドラフト1位で入団した呉念庭の負傷、離脱である。

負傷で離脱中の呉念庭選手 【©台鋼雄鷹球団】

 6月29日に行われた台湾プロ野球のドラフト会議で、台鋼から1位で指名された呉念庭は、即戦力、看板選手として期待、注目が集まるなか、入団翌日に契約。指名からわずか3日後、前期シーズン最終戦の7月1月には代打で初出場を果たした。そして、この初打席でいきなりライト前に痛烈な当たりのヒットを飛ばし上々のスタートを切ると、後期シーズン開幕の7月5日からは、内野各ポジションで連日スタメン出場を続けていた。

 8月3日、台湾プロ野球初ホームランをマークすると、翌日も二試合連発、打率も3割台に乗せた。8月下旬、20打数連続ノーヒットと調子を落としたものの、30日にマルチヒットを記録、ようやく不振を脱したと思われた矢先、アクシデントに見舞われた。

 8月31日の楽天モンキーズ戦、スタメンを外れ、終盤、一塁の守備固めに入ったところ、8回裏、強烈なゴロがイレギュラーバウンドした。呉念庭は逆シングルで捕球を試みたが、ボールは左腕で跳ねてから顔面に直撃、球場全体が静まり返るなか、担架に乗せられ退場となった。

 診断結果は、鼻骨と眼窩底の骨折であった。呉念庭は手術を終え退院した9月5日、自身のSNSに痛々しく腫れ上がった顔の写真も添え、ファンへの感謝の言葉、そして、早くグラウンドに戻り、プレーを通じてお返ししたい、と意気込みを記した。

 台鋼ホークス入団から約2カ月、洪一中監督から、王柏融と共に「野球に取り組む姿勢で、若手にいい影響を与えてくれている」と評価されていた。離脱は本人が一番悔しいだろう。日本のファンの皆さんも、早期復帰を願い、台湾に向けてエールを送っていただきたい。
 
 次回は、洪一中監督と、横田久則一軍投手統括コーチのインタビューをお届けしよう。

文:駒田 英
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