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パリオリンピックに学ぶ

第33回オリンピック競技大会(2024/パリ)は、8月12日0時過ぎ、閉会式を終えた。1900年、1924年に続き100年ぶり3回目の開催となったパリオリンピックだったが、近代オリンピックの父こと、ピエール・ド・クーベルタン生誕の地、フランスで開かれた大会ということで、これからのオリンピックのあり方をあらためて問うような大会だったともいえよう。

17日間におよぶ熱戦が繰り広げられた今大会、チケット販売数はオリンピック史上最多となる約950万枚ともいわれ、パリ2024大会組織委員会のトニー・エスタンゲ会長は、安全や運営面などがほぼ計画どおりに進んだことを含めて「すばらしい成功を収めた」と大会を総括した。

日本選手団TEAM JAPANは金20個、銀12個、銅13個の計45個のメダルを獲得、金メダル数・メダル総数とも海外開催のオリンピックでは史上最多となる成績を収めた。
今大会、新競技ブレイキン・女子個人のAMI選手をはじめ、陸上競技・女子やり投げの北口榛花選手、水泳/飛込・男子10m高飛込の玉井陸斗選手、近代五種・男子個人の佐藤大宗選手など、史上初のメダルも相次いだ。2週間あまり後の8月28日にはパラリンピック競技大会の開幕も控え、さらなる盛り上がりが期待される。

TEAM JAPANのメダリストたちの活躍ぶりが注目を集めた一方で、アスリートが見せたさまざまな姿や、審判の判定、誤審、裁定をめぐる問題なども大きな話題となった。

柔道・女子52kg級2回戦で敗れ、試合後に号泣した阿部詩選手。陸上競技・女子20km競歩を辞退し、混合競歩リレーに専念することを発表した柳井綾音選手。審判の「待て」の声が聞こえなかったということで永山竜樹選手を締め落としたフランシスコ・ガリゴス選手(スペイン)。ボクシング女子66キロ級で金メダルを獲得したものの、性別問題が取り沙汰され世界中からメディアが殺到したイマネ・ヘリフ選手(アルジェリア)……。

さまざまな選手たちが誹謗中傷にさらされ心を痛めることとなり、数々の物議を醸したことも今大会の忘れられない出来事である。

勝利を求め、メダルをめざし、4年に1度のスポーツの祭典に命がけで挑むアスリートの姿は尊く美しい。ただし当然ながら、その戦いの先には勝者が誕生し、それゆえ同時に敗者が生まれる。それがオリンピックの常であり、スポーツの原理である。

しかし、この戦いのために全力を尽くしてきたアスリートたちが、この構造を冷静に理解し受け止めることも決して簡単なことではない(これは、本稿前回の『Good Loserたることの意味』のなかでも述べたとおりである)。
そのことを理解したうえで、命をかけるかのようにゲームに挑む彼らに対して観ている私たちも想いを馳せながら、リスペクトの気持ちを忘れずいたいものである。

甲子園の夏、エスコンフィールドの夏

パリオリンピックが開催されているさなか、8月7日には第106回全国高校野球選手権大会が開幕した。地方大会を勝ち抜いた全国49の代表校が、連日甲子園を舞台に熱戦を繰り広げた。

この夏、時を同じくして、高校球児を対象とした新しいチャレンジ、「LIGA Summer Camp 2024 in 北海道」が開催された。主宰するのは、日本スポーツマンシップ協会公認「スポーツマンシップコーチ」の資格保有者であり、一般社団法人Japan Baseball Innovation代表理事の阪長友仁氏だ。
夏の甲子園に出場することは叶わなかった高校3年生の球児たちが、それぞれ個人参加で北海道に集い、彼らの可能性を広げるべくリーグ戦形式で野球に取り組むという今年新たに発足したイベントである。

11日間におよぶプログラムはキックオフオリエンテーションで開幕。その冒頭に用意されたのが「スポーツマンシップ講習」だった。
全国各地から集まってきた高校球児たちの交流を図りつつ、スポーツマンシップについて考える場が設けられ、その場でみなさんとともに学ぶ機会をいただいたことは、私にとっても大いなる歓びであった。

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翌日以降、選手たちは、栗山町民球場における試合を愉しみながら、元プロ野球選手からの直接指導、選手間や相手チームと試合を振り返るミーティング「アフターマッチファンクション」の実施、エスコンフィールドHOKKAIDOスタジアムツアー、同スタジアムでの北海道日本ハムファイターズ公式戦観戦、ジンギスカンBBQ、酪農体験……など、多様なアクティビティを体験した。
最終日となる8月17日には、エスコンフィールドHOKKAIDOで試合も行った。

期間中には、WBC2023で監督として侍JAPANを世界一に導いた栗山英樹氏、昨夏の甲子園で慶應義塾高校野球部を日本一に導いた森林貴彦氏、元プロ野球選手の荻野忠寛氏や大引啓次氏などの面々が本プログラムに参画し、球児たちとコミュニケーションを図るという一幕もあった。
参加した選手たちにとっては、さらなる実戦経験を積み、技術の向上を図る機会が提供されただけでなく、地域を超えた選手同士の新たな繋がりをもちながら野球以外のプログラムによっても人間的成長が促され、将来の可能性を広げるような環境がもたらされた。
高校球児たちにとって、夢の舞台である甲子園とはまた異なる貴重な体験を積むことができただろうし、このイベントを通して、野球を愛する同世代の友人たちとの輪が大きく広がったことだろう。

夏の大会に敗れた、出場できなかった……、それで高校野球生活が終わるわけではない。
高校球児に対してこれまでにない価値提供に挑戦するこのLIGA Summer Campは、彼らにとってより大切な未来への一歩となりうることを示唆している。まさに、これからの高校野球のあり方について新たな可能性を示す取り組みだといえよう。

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スポーツマンシップは自らを戒めるツール

クーベルタンは「人生において重要なのは成功することではなく、努力することである。根本的なことは征服したかどうかにあるのではなく、よく戦ったかどうかにある。このような教えを広めることによって、いっそう強固な、いっそう激しい、しかもより慎重にして、より寛大な人間性をつくり上げることができる。」という言葉を遺している。これこそまさに、オリンピックの根本理念「オリンピズム」に通じる概念だといえよう。

パリの大舞台、個人戦2回戦で敗れ、涙に暮れた阿部詩選手。彼女が必死に金メダルをめざした姿や想いについては、誰からも非難される筋合いはない。ただ一方で、同様の想いを抱えながらともに戦いを繰り広げたライバルの存在を慮るという点について、彼女の想いが十分に至っていなかったことも残念ながら確かだったといえよう。

混合団体で銀メダルを獲得した翌朝、そんな彼女からオンラインではあるが直接お話を伺うことができた。彼女の言葉や姿からは、今回の敗戦に対して改めてまっすぐに向き合い、自らの弱さや至らなさを認めるとともに、周囲からのさまざまな声に感謝しながら、あらためて前を向こうとしている想いが感じられた。

阿部詩という選手が世界から愛される柔道家であり、そして、この競技を代表するオリンピックチャンピオンであることに変わりはない。いつの日か、彼女がこの大会を振り返ったときに、「あの日があったからこそより強くなれた」「あの経験は人間性をより高めるきっかけとして必要だった」と思えるように、より幸せな未来が実現するための成長の契機となることを願っている。

スポーツマンシップは、「自らを誇らしく思えるように美しくありたい」といったように自分自身と向き合う概念であるといえる。スポーツマンとしてのあり方を自らに問いかけ戒めたり、自分たちの組織のなかで語り合い議論し合ったりするための概念として用いるべきものである。

一方で、スポーツマンシップを他人に対して振りかざし、「それはおかしい」「あれは間違っている」と他者が他者を断罪するための概念として濫用すれば、「スポーツマンシップハラスメント」や「スポーツマンシップ警察」のようなものも生まれかねない。そしてその結果、みな一律で形式的な態様に収斂するといったように、本質とはかけ離れたところへ行き着いてしまうことも危惧される。

アスリートたちのふるまいが注目され、メディアやSNSなどを通して多くの方々によって賛否両論の議論がなされることは、私たち自らの意識を高め、理解を深めていくうえでも大変意義のあることだといえる。
真剣に戦うアスリートたちのパフォーマンスに声援を送りながら、「自らがどうあるべきか」「私たちはどうふるまうべきか」と、私たち一人ひとりが成長するための学びの機会にしたいものである。

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中村聡宏(なかむら・あきひろ)

一般社団法人日本スポーツマンシップ協会 代表理事 会長

立教大学スポーツウエルネス学部 准教授
1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒。広告、出版、印刷、WEB、イベントなどを通してスポーツを中心に多分野の企画・制作・編集・運営に当たる。スポーツビジネス界の人材開発育成を目的とした「スポーツマネジメントスクール(SMS)」を企画・運営を担当、東京大学を皮切りに全国展開。2015年より千葉商科大学サービス創造学部に着任。2018年一般社団法人日本スポーツマンシップ協会を設立、代表理事・会長としてスポーツマンシップの普及・推進を行う。2023年より立教大学に新設されたスポーツウエルネス学部に着任。
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著者プロフィール

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