「お世話になった地域に恩返しを。“巻き込む社長”、3季目の挑戦」 株式会社マイナビフットボールクラブ 本棒陽一社長インタビュー 後編

マイナビ仙台レディース
チーム・協会

【©mynavisendai】

 WEリーグで4季目の開幕を控えるマイナビ仙台レディース。下部組織とトップチームの人的交流が積極的に行われ、アカデミーからのトップ昇格、アカデミー出身選手の加入やユース選手の起用も積極的に行っている。また一方で、仙台から海外へと羽ばたき、世界の舞台で活躍する選手たちもいる。オリンピックイヤーに、日本の女子サッカーはどのような躍進を遂げるのか。WEリーグ、マイナビ仙台レディースの現在地を、株式会社マイナビフットボールクラブの本棒陽一社長(代表取締役 社長執行役員)に聞く。

ユース選手の積極的起用。「育成のマイナビ仙台レディース」を築く。

―未来を育むというところでも、昨季はユースのトップ昇格やWEリーグでの公式戦出場など多くの動きが見えました。

「チームにおいて、ユース選手を積極的に引き上げて、トップチームとの練習機会も増やしています。実際に昨季はマイナビ仙台レディースユースから3人が公式戦に出場しました。リーグ戦に出場した津田愛乃音や菊地花奈はU-17女子日本代表でも活躍しています。代表活動でも、WEリーグでの出場経験があると捉えられる選手になっています。そういうことを考えると、未来のある選手が早い内から、一つ上のカテゴリーで練習して成長し、世界で活躍するということは良いことだと思います。下部組織出身ではありませんが、松窪真心選手(ノースカロライナ・カレッジ)もアメリカで活躍しています。パリオリンピックでは、宮澤ひなた選手(マンチェスター・ユナイテッドWFC)、長野風花選手(リヴァプールFCウィメン)も活躍して欲しいです」

菊地花奈 【©mynavisendai】

津田愛乃音 【©mynavisendai】

遠藤ゆめ 【©mynavisendai】

―昨季仙台で戦った松本真未子選手、田畑晴菜選手もドイツ、スウェーデンと海外へ飛び立ちました。仙台から海外への扉を開くという道ができつつあります。

「優れた選手がいなくなるのは寂しいとか、WEリーグが盛り上がらなくなってしまうのでは?という懸念はあるかもしれません。しかし、積極的に海外への挑戦を支援し、海外で活躍するための基礎を作る。日本での成長、その先の成功をサポートするチームということで、僕らのクラブを選んでくれる選手が増えてきていると思います。選手がプレーしたいチームになっていけばいいと思います。ユースのセレクションにも参加してくれる選手たちが北海道から沖縄までいました。仙台から、世界へ飛び立ってくれる形になっていけばいいですね」

―それが一つ、チームのカラーにもなってくるかもしれません。

「松本選手も田畑選手も、優れた選手なので、新シーズンのことを考えればいて欲しい。でも長い目で見たら、彼女たちが活躍した時に、前所属として“マイナビ仙台レディース”という名前が世界中に出てくる。本当に頑張って欲しいと思うんです。日本代表に呼ばれて、定着するような選手になって欲しいですね」

兄貴分・J2ベガルタ仙台との連携。良い関係を構築できる環境。

―地域の中で様々な企業や自治体との関わりがありますが、サッカー界、Jリーグのベガルタ仙台との関わりは?

「本当に助けて頂いていると思っています。ベガルタ仙台さんも、庄子春男ゼネラルマネージャーは本当に素晴らしい方で、目に見える結果も出されていますし、サポーターがわくわくするようなサッカーをしています。本当にすごい方だなと思います。そういう方々、ベガルタ仙台ともっと連携できたらいいなと思っています。今、須永純監督やコーチたちも、ベガルタさんの練習を見に行かせて頂いています。そういうことは今までなかったです。オープンマインドで、マイナビ仙台を“妹分”として気にかけて下さっている。このように『宮城からサッカーを盛り上げていこう』という存在はなかなかいないと思います」

―須永監督やコーチの皆さんは、クラブハウスから走って、ベガルタ仙台の紫山サッカー場まで来ていますね。

「受け入れて下さっていますよね。そういう橋渡しをしてくれる存在がいるということはありがたいですね」

―もともとマイナビ仙台レディースは「ベガルタ仙台レディース」でしたし、今改めて、現場レベルでつながりができていることは嬉しいですね。

「はい。“妹分”と口にするだけではなく、実際の取り組みで気にかけて頂いているということがよくわかります。ベガルタ仙台のサポーターはJリーグでも屈指の熱狂的で力があるサポーター。そういう方々にもマイナビ仙台に少し興味を持ってもらえたらというところが次のステップだと思っています。サッカーに精通しているファンが宮城に多いのはベガルタさんのおかげですし、その方々が『マイナビも見に行こうか』となってくれたら嬉しいです」

長船加奈 【©mynavisendai】

佐々木繭 【©mynavisendai】

―今季はベガルタ仙台レディース時代の初期メンバーでもある長船加奈選手、そして2013年から在籍した佐々木繭選手が浦和から帰ってきました。ベガルタの関係者の間でも「あの二人が帰って来るんだね」という話をしていました。

「そうですね。あの二人も、仙台を“第二の故郷”という考え方をしてくれていることはすごく大きいことです。(佐々木選手の元雇用先の)みやぎ生協に行くと、浦和時代にも『佐々木選手が試合のタイミングで遊びに来てくれる。本当に良い子なんだよね』という話を聞きました。浦和というチャンピオンチームから選手もそうですし、正木(裕史アカデミーテクニカルダイレクター)さんや上野(拓也GKコーチ)さんという二人が来てくれたということもチームとしてすごく大きいです」

―正木さん、上野さんにとっても古巣の仙台。お二人もまた大きな経験を携えて帰ってきてくれました。

「正木さんは、東京電力女子サッカー部マリーゼの時から関わっていて、浦和で7年。チャンピオンチームの姿を知っていて、サポートをしてきた方です。そういった方にユース、ジュニアユースを見て頂けるというところは、“アカデミーに力を入れる”というメッセージにもなると思います。上野さんもトップ、アカデミー両方見て頂けるので、アカデミーもどんどん力をつけていったらいいなと思います」

―優秀で、クラブへの思いを持っている人材が戻ってきたことも嬉しいですし、戻ってこられる場にもなっていると言えますね。昨季は佐々木美和選手も帰ってきました。

「思いを持ってやってくれる人、仙台を第二の故郷と思ってくれたり、チームに関わってくれる方々に恩返しをしたいと思ってくれる人。プロ選手としてもそうですし、人間的もそういう思いを持って行動できる選手はまだまだ少ないと思っています。思いはあっても、自ら行動を起こせるか。実際に自分の意志で踏み出せるかというとまだ少ないかもしれません。プロになってからキャリアが浅いので、そこは男子のプロサッカー選手の意識とは、異なる部分もあるかもしれません。でもそういう面は、これから伸ばしていかなければいけないところだと思っています。長船選手や佐々木繭選手にはそういうところが備わっているし、模範となるべき選手です。選手としても期待していますし、プロ選手として、今までの内のチームにはなかった要素が入ってくると思います」

―優勝やその過程も経験しています。

「日々の練習の取り組み方など、僕らがマイナビで日々のトレーニングをしっかりやっているといっても、『ではチャンピオンチームはもっとやっているんだよ』というところもあると思います。準備もそうです。若い選手が多いので、そういうところの姿勢など、学ぶことは多いですし、良い補強です」

オリンピックイヤーに、なでしこジャパン活躍への期待。

―WEリーグは4季目のシーズンです。開幕へどのように向かっていかれますか?

「WEリーグとしては、女子サッカーというものへの期待値は日本においては高いと思います。世界のサッカーでも、女子を盛り上げていこうとしていますが、独立採算で賄えるほどのモデルにはどこもなっていないのではないかと思います。それぞれが発展途上、成長過程にあると言えます。どのくらい、熱量を持って取り組んでいけるかが課題になってくると思います。日本のサッカーは熱意を持って、上げていこうという人たちが多いと思うので、WEリーグと各クラブに代表者とのコミュニケーションを密にすることによって一枚岩になっていけるのではないかと思います。クラブ毎の温度差もあるし、環境の違いもあります。僕たちは僕たちとしてやれることをやっていきますし、新しいことには積極的にチャレンジしていこうというスタンスを持っています」

―今年はパリオリンピックが開催されましたが、なでしこジャパンはベスト8という結果でした。

「女子サッカーというカテゴリーで考えると、オリンピックなどの国際舞台での躍進は必要です。世界へ羽ばたいている選手たちが多くいる日本代表がメダルを取るというストーリーは大事です。女子サッカーへの注目も上がってきます。WEリーグが盛り上がるきっかけにもなると思いますので代表の活躍には期待しています」

―もちろん「ウチの選手」を代表に出せたらいいんですけどね。

「はい。そうですよね。海外へのチャレンジを推進することもそうですが、宮澤ひなた選手や長野風花選手など、仙台で頑張ってくれた選手が活躍してくれたら良いですよね。本音で言えば、所属選手が出るということだとは思うのですが、今回はそうはいかなかったです」

【©mynavisendai】

―新シーズンへの展望を聞かせてください。

「上位争いに絡んでいくということは必要になってきます。僕が就任したこの2シーズン、上位の浦和、I神戸、NB東京との勝ち点差は開いてしまっていると思います。そこに食い込んでいかないと、観客動員数もそうですし、注目度も上がっていかない。“コンテンツ”としての価値が上がっていかないですよね。そこがポイントになって来るかなと思います。観客動員数という点では、2年連続で上がっています。観客動員数が上がっているのは、仙台と浦和だけなので、それは良かったです。しかし、今季4位になったアルビレックス新潟レディースの調子が良かった時は観客動員が倍になっていたりするんです。そういうことを考えた時に、上位進出は鍵になって来るかなと思います。」

―結果が動員にリンクしているということは選手たちも意識していますよね。

「選手もそういう思いを持ってくれているので、結果だけにフォーカスされないように、いろいろな取り組みも進めていきます。今季は選手たちにはサッカーに向き合う期間を長めに取ってもらおうと思います。よりサッカーに集中できる環境を作れたらと思います」

(マイナビ仙台レディースオフィシャルライター・村林いづみ)
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

東日本大震災により休部した東京電力女子サッカー部マリーゼが移管し、2012年ベガルタ仙台レディースが発足。2017年に株式会社マイナビとタイトルパートナー契約を締結しマイナビベガルタ仙台レディースとなりました。 2020年10月にWEリーグへの参入が正式決定。2021年2月より「マイナビ仙台レディース」とクラブ名を改め、活動をスタート。選手達の熱いプレーが多くの方に届くような盛り上がりをともに作っていきます。仙台、東北から日本全国、全世界に向けて、感動や勇気を与え、WEリーグ優勝を目指し活動しています。

新着記事

編集部ピックアップ

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着コラム

コラム一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント