【記録と数字で楽しむパリオリンピック】女子マラソン:24歳・鈴木、27歳・一山、28歳・前田が20年ぶりの五輪メダルに挑む

日本陸上競技連盟
チーム・協会

【フォート・キシモト】

8月1日(木)から11日(日)の11日間、フランスの首都パリを舞台に「第33回オリンピック」が開催される。

日本からは、24種目に55名(男子35名・女20名)の代表選手が出場し、世界のライバル達と競い合う。

現地に赴く方は少ないだろうがテレビやネットでのライブ中継で観戦する方の「お供」に日本人選手が出場する全24種目に関して、「記録と数字で楽しむ2024パリオリンピック」をお届けする。

なお、これまでにこの日本陸連HPで各種競技会の「記録と数字で楽しむ・・・」をお届けしてきたが、過去に紹介したことがある同じ内容のデータや文章もかなり含むが、可能な限りで最新のものに更新した。また、記事の中では世界選手権についても「世界大会」ということで、そのデータも紹介している。

記録は原則として7月21日判明分。ただし、エントリー記録などは五輪参加標準記録の有効期限であった24年6月30日現在のものによった。
現役選手の敬称は略させていただいた。

200mから1500mにおいて、予選で落選した選手による「敗者復活戦」が導入され、これによって予選で敗退した何人かが復活して準決勝に進出できることになった。
ただ、各種目での敗者復活戦の組数や何人が準決勝に出場できるのかなどの条件がこの原稿執筆時点では明確にされていない。よって、トラック競技の予選・準決勝の競技開始時刻のところに示した通過条件(○組○着+○)は、「敗者復活戦」がなかったこれまでの世界大会でのものを参考に記載したため、パリではこれとは異なる条件になるはずだ。

日本人選手の記録や数字に関する内容が中心で、優勝やメダルを争いそうな外国人選手についての展望的な内容には一部を除いてほとんどふれていない。日本人の出場しない各種目の展望などは、陸上専門誌の8月号の「パリ五輪観戦ガイド」や今後ネットにアップされるであろう各種メディアの「展望記事」などをご覧頂きたい。

大会期間中は、日本陸連のSNS(X=旧Twitter or Facebook)で、記録や各種のデータを可能な範囲で随時発信する予定なので、そちらも「観戦のお供」にしていただければ幸いである。

現地と日本の時差は、7時間で日本が進んでいる。競技場内で行われる決勝種目は、日本時間の深夜から早朝にかけての競技である。
猛暑の中での睡眠不足にどうぞご注意を!

女子マラソン

(実施日時は、日本時間。カッコ内は現地時間)
・決勝 8月11日 15:00(11日 08:00)

24歳・鈴木、27歳・一山、28歳・前田が20年ぶりの五輪メダルに挑む

パリ五輪の閉会式が行われる最終日、男女48種目の陸上競技の最後に行われる女子マラソンで48個目の金メダリストが決まる。1984年ロス五輪に女子マラソンが採用されてから、女子のレースが男子(10日朝8時00分スタート。日本時間15時00分)よりもあとに実施されるのは史上初のことである。

23年10月15日に行われたMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)で1・2位だった鈴木優花(第一生命グループ/エントリー記録&自己ベスト2時間24分09秒=23年)と一山麻緒(資生堂/エントリー記録2時間24分43秒=23年・自己ベスト2時間20分29秒=20年)。そして最後の切符を24年1月の大阪で19年ぶりの日本新記録2時間18分59秒で手に入れた前田穂南(天満屋)の3人が出場する。鈴木は初出場。一山と前田は、21年東京に続いて2度目の五輪。
東京では一山が8位に入賞したが、前田は本来の力を発揮できずに口惜しい33位。前田にとってパリはリベンジマッチとなる。

コースは、パリ市庁舎前をスタートしベルサイユ宮殿で折り返し、エッフェル塔を見ながらフィニッシュ地点のナポレオンが眠る旧・軍病院のアンヴァリッドを目指すというもの。選手はそれらの景色を楽しむ余裕はないが、「名所巡り」のようなコースだ。
パリ市庁舎、オペラ座、ヴァンドーム広場、チュイルリー庭園、ルーヴル美術館、コンコルド広場、グラン・パレ、トロカデロ庭園、ヴェルサイユ宮殿、エッフェル塔と「ガイドブック」に載っているようなパリ観光の場所を巡る。

ただ、その42.195kmは、オリンピック史上最も過酷なコースといわれている。
高低差が156mもある。コース全体では累積438mの上り坂と、436mの下り坂という構成である。序盤はほぼ平坦だが、14km過ぎから17.8kmまで長い上りが続く。19.7kmからの急坂を上り切った20.3km地点がコースの最高点で標高183m。そこから今度は急な下り坂が約1km、その後は約6%の下り坂が27.5kmまで続く。28.5kmから29kmまでは、コースで最も急な最大勾配13.5%の上り坂が待っている。箱根駅伝5区の最大勾配13.0%を上回る傾斜だ。29.2kmから32.5kmは3~13.4%の下り坂が選手の脚にダメージを与える。残り10kmあまりはほぼ平坦だが、上りと下りの坂で痛めつけられた選手の脚にとっては、長い長い残り10kmとなることだろう。

以上が、オリンピック史上もっともタフなコースといわれる所以だ。また、ヨーロッパに多い石畳の路面も選手を苦しめることになりそうだ。


◆五輪&世界選手権での入賞者と日本人最高記録◆
<五輪・入賞者>

【JAAF】


最高記録は、
2.23.14. 高橋尚子(積水化学)2000年1位=五輪新

92年バルセロナから4大会連続のメダル獲得で00年シドニーと04年アテネを連覇。アテネでは3名全員入賞も達成した。しかし、その後の08年北京、12年ロンドン、16年リオは入賞に届かず各大会での最高順位は、13位、16位、14位にとどまった。地元開催の21年東京五輪(札幌市で実施)では一山(8位)が4大会ぶりの入賞を果たした。

参考までに世界選手権は、
<世界選手権・入賞者>

【JAAF】

【JAAF】

最高記録は、
2.23.49. 松田瑞生(ダイハツ)2022年 9位

83年、87年、95年、17年、22年、23年の6大会は入賞を逃したが、残りの13大会は少なくともひとりは入賞し、金2、銀5、銅4の計11個のメダルを含め、のべ24名が入賞している。
97年から15年まで10大会連続入賞を継続したが、残念ながら17年ロンドンで連続入賞記録がストップした(17年は16位が最高順位)。


◆国別歴代得点◆
「五輪」「世界選手権」の各大会での1位に8点、2位7点~8位1点の点数を与えて国別の得点を集計すると次のようになる。

【五輪での国別得点(2021年大会まで)】

【JAAF】

【JAAF】


04年アテネ大会終了時点と21年東京大会終了時点では、こうなる。

【JAAF】


04年現在では左の順位が「トップ10」だったが、08年からの3大会でケニアが46点を加算し独走。エチオピアも24点を加えて日本に肉薄してきた。

1983年に始まった世界選手権では、
【世界選手権での国別歴代得点(2023年大会まで)】

【JAAF】

【JAAF】

【JAAF】


男子と同様に、2023年大会終了時点の得点の上位国について、累計得点と順位の推移をまとめると以下の通り。

【JAAF】

【JAAF】


日本は、91年の地元東京で2位・4位で初入賞。95年は入賞を逃したが、その後は2015年まで10大会連続入賞を継続し、22年までトータルの入賞人数も累計の得点でもトップの座を守り続けてきた。しかし23年に入賞人数でケニアに並ばれ、累計得点もトップを奪われた。
初期の頃はソ連、ノルウェー、ポルトガルなどが得点を重ね、95年からはルーマニアも台頭。91年東京大会からは日本が一気に勢いを増して、97年以降22年まではトップを守ってきた。しかし、2001年に初入賞したケニアが日本を猛追。22年オレゴンで2・6位で10点、23年ブダペストで6・7位で5点を上乗せしてついに逆転した。
3位のエチオピアも22年に8点(1位)、23年には19点(1・2・5位)の大量得点で至近2大会で27点を加算した。
上位7国で点数を伸ばしているのは、アフリカの2国のみで他の国は、ほとんど変わっていない。

2023年世界選手権終了時点の上位6カ国の5大会ごとと2017・19・22・23年の4大会の得点は、以下の通り。

【JAAF】


このところのケニアとエチオピアは、90年代から00年代前半の日本を上回るような勢いだ。


◆各年の世界100傑内の国別人数◆
男子ではその年の世界100傑のうち8~9割をケニアとエチオピアを中心とする東アフリカ勢が占めることが多いが、女子も「記録」では東アフリカ勢が優勢だ。
2000年以降5年毎と16年からのその年の世界100傑に占める国別人数は以下の通りだ。

【JAAF】

・2024年は、7月21日判明分の記録

2008年までは日本がトップだったが、10年代以降はエチオピアとケニアが勢力をどんどん拡大してきた。この2国でのシェアはこのところ6~7割前後。それ以外では、男子と同様に女子も日本勢が頑張っている。


◆世界選手権&五輪の気温と湿度、1・3・8位の記録とトップの前後半タイム、完走率◆
夏場に行われる世界選手権と五輪の1983年以降の気温と湿度、1・3・8位の記録とトップの前後半タイム、完走率をまとめた。
・気象状況は、リザルトに記載されているもの。
・リザルトに記載がないものは、世界陸連発行の資料(Statistics Handbook)に掲載のデータ。
・それにもないものは、両陸上専門月刊誌に掲載された記事のデータ。

日本のレースでは、リザルト用紙に「スタート時」「5㎞地点」「10㎞地点」などの「天候」「気温」「湿度」「風向」「風速」が細かく記載されていることが多いが、海外では「天候」の記載もあまりなく、「スタート時と終了時」あるいは「スタート時」の「気温と湿度」のみだったりがほとんどだ。また「終了時」もトップ選手のフィニッシュ時点の場合であったり最終走者のフィニッシュ時点の場合であったりする。

「1位・3位・8位」の記録については、数年後に「ドーピングで失格」などで繰り上がった場合の修正がきちんできていない場合があるかもしれないことをお断りしておく。

「完走率(完走者/出場者)」は、のちに「ドーピング違反」などで「失格」となった選手であってもフィニッシュラインを越えたことが確かな者については「完走」として扱った。

【1983年以降の世界選手権&五輪の気温と湿度、1・3・8位の記録とトップの前後半タイム、完走率】
・「前半」は、その時点でトップの選手の通過タイムで優勝者のものとは限らない。
・1995年(「*」印)は、スタート直後の周回ミスのため400m距離不足(41.795㎞)の記録。

【JAAF】

【JAAF】

【JAAF】


五輪を含めた29大会中完走率80.0%以上は21大会(72.4%)。気温が判明している28大会のうちスタート時か終了時で25℃以上は14大会で完走率80.0%以上は9大会(64.2%)。男子と比べると、完走率が高いようだ。

2010年代以降の五輪を含む10大会では、13年と19年の完走率が65.7%と57.1%と非常に低かった。11年以降ではこの2大会と22年オレゴンを除けば、金メダルと銅メダルの差は4秒~31秒。トップと入賞ラインは13・19・22年以外は概ね2分~3分あまりの差だ。

前後半の記録が判明している26大会で、前半よりも後半の方が速い「ネガティブ・スプリット」は、18大会(69.2%)で3分の2強。07年からの21年の11大会はすべてが前半よりも後半の方が速かった。
低温で、マラソンには絶好の条件となった22年オレゴンは序盤からハイペースで展開し、前半が後半よりも9秒速かった。
前後半差が最も大きかったのは、2011年の4分49秒差。この時は、最初の5㎞が18分39秒と世界選手権史上最遅だったが、35㎞から40㎞は16分10秒で走った。
23年ブダペストも前後半差4分35秒。優勝したA・ベリソ(エチオピア)がトップに立った33kmからの1km毎は、3分12秒・12秒・12秒・13秒・11秒でこの間の5kmを16分00秒で刻んだ。

今回のパリは、「五輪史上最もタフなコース」と言われているが、どんな展開になるのだろうか?


◆8月11日のパリの過去3年間の気象状況◆
レースがスタートするのは、8月11日の午前8時00分(日本時間、同日15時00分)。
過去3年間の気象状況を調べたのが下記だ。

【過去3年間の8月11日のパリの気象状況】

【JAAF】


22年オレゴンは、スタート時の午前6時15分が10℃・90%、最終ランナーフィニッシュ時の9時19分が16℃・75%と、世界大会史上最も涼しい条件のもとで行われ、優勝記録もメダルも入賞ラインも最も速いものとなった。

今回のパリは22年のデータは、23年ブダペストと同じような条件。23年と21年は夏場のマラソンにとっては「かなりいいコンディション」といえそうだ。
ただし、上述の通り気象状況はそれなりに良くても「コースがタフ」なので、選手にとっては厳しいレースになることだろう。


野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)

【パリ2024オリンピック特設サイト】

※リンク先は外部サイトの場合があります

【JAAF】

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