監督から言われた「そのままでいい」。それでも試合に出られない三竿健斗が課題として向き合ったこと。「口だけでは届かない……」

鹿島アントラーズ
チーム・協会

【@KASHIMA ANTLERS】

 ベルギーで試合に出られない時期があった。それでも三竿健斗は、矢印を自らに向け続けた。そのとき自身の成長のため、一つテーマにしていたことがある。

「ターンとボールコントロールで相手の逆を取ること。そこにずっとフォーカスしていました」

 ベルギーでは相手がガツンと強く当たりに来る。1対1の勝負がそこかしこで展開されるピッチ上で、いかにかいくぐるか。ポイントは、ボールの受け方と置き所を変えることで、自らの課題に向き合った。

「ベルギーでは基本的に試合中は1対1のバトルが10カ所あるみたいな感じ。そこで相手の逆を取っていかに剥がすかを、ずっと練習していた。日本では、ボールをピタっと止めるトラップが良いとされますが、でもそれだと直線的にプレスに来る相手の強烈なパワーをすべて受け止めることになる。そこをちょっと受ける角度をズラしたら剥がせるんです。そのプレーができるようにずっと取り組んでいました」

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監督からの予想外の言葉

 鹿島アントラーズでキャプテンを務める存在にまで成長した三竿は、2022年12月に海外挑戦を決断した。ポルトガルのCDサンタ・クララ、ベルギーのOHルーヴェンの2クラブを経験。望んだ海外挑戦は、まずピッチ外で「自分ではどうもできないことばかり」だった。シャワーのお湯が出ないのは当たり前。試合移動の際は飛行機が出発到着ともに遅れて夜中2時にホテル入りもあった。試合当日もアップ直前にスタジアムに到着することもあって、いつもの準備をできないことが増えた。その中でもやらないといけない。

「もう仕方がない。家に帰れば奥さんと子どもが待っているので、2人に癒されればいいやと。文句を言えばいくらでも出てくるんだけど、そのなかでもポジティブな面に目を向けるようになれた。なんかもう、今の自分は最強です(笑)。自分のなかでは、だいぶ適応力がついた感覚。だから日本に帰って来たら、全部が素晴らしく感じています」

 ピッチ内でも監督が幾度も変わることで、戦い方も変わった。思わぬ方向転換の経験を重ねることで、幅が広がった。

「海外に行って、複数の監督のもとでプレーしました。いろいろなサッカーのやり方を経験して、相手がこうしてくるからこうしようという引き出しが増えた。今までは1つか2つしかなかった選択肢が、さらに増えた感覚です」

【@KASHIMA ANTLERS】

 OHルーヴェンのオスカル・ガルシア監督のとき、調子が良くてもスタメンで使われない時期があった。三竿は監督に自分の何が足りなくて、何を改善すれば試合に出られるのかを聞きに行った。そこでの監督からの言葉は、思っていたものとは違う答えだった。

「監督からは『これ以上求めることはない。普段の練習から高いパフォーマンスを出してくれているので、そのままでいい』と言われて。思っていたものとはちょっと違う回答で、引き続き練習でもやっていたんですが、やっぱり選手って使われ方とかでどう思われているかはだいたい分かるもの。自分ではコントロールできない範囲のことだったので、割り切って、チャンスをもらえたときに自分の良さを出せるように、とにかく自分のなかで課題としていることに常に取り組んでいました。目先も大事だけれど、その先を見据えながら日々を過ごしていました」

 パスの受け方とボールの置き所を変えること。この新たな取り組みは、チャンスを得たときに手応えとなってピッチ上で現れた。

「繰り返し意識して練習することで、自信がついてきたんですかね。相手に来られても、どこにいるかを認識できているから、そんなに慌てないようになった。ボランチは後ろで受けて前を向くケースが非常に多い。今まではボールを受けて1、2、3で前を向いていたのを、1、2で前を向く。ボールをもらいに行く角度を斜めにしてみたり、ボールを動かしながら次のプレーに移行するようにしたり。いろいろなやり方を一つひとつ積み重ねたことで大きく変化しました」

【@KASHIMA ANTLERS】

口で言うだけでは実現しない

 2024年7月、海外での経験を重ねた三竿は1シーズン半ぶりにアントラーズへ復帰した。見せる自らの姿はイメージできている。

「自分の特長であるボールを奪うところはもちろんピッチ上で出していきたい。それ以外もチームを鼓舞したり、試合状況に応じて、どう守るのか、どう攻めるのかというところもコミュニケーションを取っていきたい。練習をやっていてすごく静かだなという印象があったので、練習からたくさん周りに声をかけて、みんなの特徴をピッチ上で出せるように、いい雰囲気をつくっていきたいですね。そこは今のチームに足りないところだと思っているので、自分がリーダーシップを取ってチームを引き上げたい」

 ひさしぶりにともにプレーする柴崎岳は三竿のプレーを「攻守において選択肢が増えた」と目を細める。盟友ともいえる鈴木優磨とは、海外に移籍してからもコミュニケーションを重ねてきた。ともに同じ価値観で未来を見据えている。

「タイトルを獲るチームはどんな形にも対応して、常に主導権を握ることができる。成長スピードを上げないと、口ではタイトルを獲ると言っていても実現しない。そうなるように『俺らが中心となって引っ張っていこう』とよく話しています」

 7月20日の明治安田J1リーグ第24節FC東京戦で、早速73分からカシマスタジアムのピッチに立った。7月24日に国立競技場で開催された親善試合ブライトン戦では、スタメンで69分までプレー。復帰後も徐々に出場時間を増やしている。

「改めてアントラーズサポーターのすごさ、熱量を感じられた。勝った後のあのサポーターとの雰囲気がすごく好きなんです。今シーズンの最後に頂点に立つためにも、あの瞬間をともにするためにも、プレーで示していかないといけない。日本と海外では守備の仕方が違うので、これからベルギーでやってきたことがどう日本で出せるのか。そこは個人的に楽しみにしているところです」

 どんなプレーでアントラーズを勝利に導いていくのか。中断期間を経て、アントラーズに頼もしい存在が帰ってきた。8月7日、明治安田第25節サガン鳥栖戦。今シーズン、ボランチでチームをけん引してきた知念慶が累積警告で出場停止となり、三竿にかかる期待は大きい。カシマスタジアムのピッチ上で魅せる、背番号6に注目だ。

【@KASHIMA ANTLERS】

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著者プロフィール

1991年10月、地元5自治体43企業の出資を経て、茨城県鹿島町(現鹿嶋市)に鹿島アントラーズFCが誕生。鹿角を意味する「アントラーズ」というクラブ名は、地域を代表する鹿島神宮の神鹿にちなみ、茨城県の“いばら”をイメージしている。本拠地は茨城県立カシマサッカースタジアム。2000年に国内主要タイトル3冠、2007~2009年にJ1リーグ史上初の3連覇、2018年にAFCアジアチャンピオンズリーグ初優勝を果たすなど、これまでにJリーグクラブ最多となる主要タイトル20冠を獲得している。

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