【ONE TAP SPORTS活用法5回(前編)】どうすれば「全員」うまくなるか。北越がテクノロジーで示す「努力の方向性」

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【©武山智史】

94人の部員が所属する北越高校は今夏、新潟大会をベスト8で終えた。
準々決勝敗退の直後に新チームが始動した一方、3年生たちも変わらずグラウンドに来ている。新型コロナウイルスの影響で部活動に制限がかかった2020年、「引退」を廃止したからだ。

提案者の小島清監督がその意図を明かす。

「うちでは夏の大会でベンチ外になった選手も普通に練習を続け、秋にはリーガ・アグレシーバに出場します。リーガには大学で野球をやらない子も参加したり、手伝いに来てくれたりするんです。
もちろん、受験に専念したい子は練習に出てこなくてもいい。だから引退があろうが、なかろうが変わりません。コロナ禍では大して練習もできなかったので、『引退をなくそうぜ』と提案しました」

小島監督の言うリーガ・アグレシーバとは、日本全国に広がっているリーグ戦のことだ。秋に各都道府県で独自に行われ、参加チームは計180校を超える。

新潟県では単独チームに加え、日本文理や東京学館新潟、北陸の3年生が合同チームを結成して他校の1・2年生と対戦している。

「相手チームは県大会で上位に進出した3年生たちと対戦するので、『あの人だ!』と貴重な経験になっています」(小島監督)

右肩上がりのチームづくりへ

引退廃止という方針に加え、北越には従来の高校野球と異なる発想で運営されている点が多くある。その背景にあるのが明確な活動方針や理念だ。小島監督が続ける。

「チームの方針として、北越高校の野球部に入ってきた子を全員うまくしたいという思いがあります。下の世代から受け取ったバトンをどう上の代につなぐか。そう考えて今のスタイルに行き着きました」

2009年にコーチから昇格した小島監督は以前、夏の大会が近づくとベンチメンバーだけに練習させるなど「指導を“ゴリゴリ”していた」と振り返る。

だが、チーム成績が秋、春、夏と大会を経るごとに下降していき、「右肩下がりのチームづくりになっている」と6、7年前に気づいた。

「本来、時間の経過とともにチーム力が上がり、他校との差が詰まってなければいけないはずです。それがうまくいかないのは、選手の出場機会が夏に近づくにつれて奪われているからではないか、と。
そこで追い込み練習や、夏の大会に向けてピックアップした子だけ練習させる合宿もやめました。逆にいろんな選手を出場させたほうが、いい意味でチーム内での競争が出てくるように感じています」

【©武山智史】

不調の原因はどこにあるのか

トレーニングに力を入れ始めたのも同時期だ。

「一人ひとりの体は違うし、ポジションや性格も異なるので、個別に対応しなければいけないと考えるようになりました。最初から上手な子もいれば、投げても90km/hも出ないような子も入部してきます。みんなをうまくするにはどうすればいいか。トレーナーの南敦士さんが来てくれたこともあり、自分の考えが徐々に変わっていきました」

野球をうまくなるためには、野球の技術を磨く以外のアプローチも不可欠だ。北越はトレーニングに力を入れ始め、体力や体組成の測定を行うようになった。

2年前にONE TAP SPORTS(ワンタップスポーツ)を使い始めたのは、体力測定のグラフの作成が簡単に行えることが最大の理由だった。

「ワンタップはInBody(インボディ)とリンクしていて、測定した値がそのままグラフ化されます。個々にフィードバックする手間が省けるのも大きいですね。体力測定の数値も記入でき、データを取り込むと推移が折れ線グラフで見られるので『不調だな』などと状態を把握しやすいです」

野球のパフォーマンスが思うように発揮できないのは、必ずしも技術的な要因とは限らない。ワンタップスポーツで定期的にコンディションを数値化し、小島監督はそう考えるようになった。

「例えば不調の選手が、前の月から除脂肪体重が3kg落ちていたとします。その場合、『打ち方をこうしなさい』とか『投げ方をこうしなさい』というように技術の問題ではありません。不調の原因は肉体面にもあるとわかるようになりました」

【©武山智史】

筋肉量は「絶対に伸ばせる数値」

前月から筋肉量を1kg減らした選手がいたとして、その原因はどこにあるのか。北越では毎月1回体組成を測定し、小島監督は選手たちと対話しながらその理由を探り出している。

「選手自身はわかっていなくても、話していくと『腰が痛くて、この1カ月はスクワットやデッドリフト系の下半身のトレーニングをやり込めませんでした』などと理由がわかってきます。体の状態は本当に野球のパフォーマンスとリンクしていますからね。
大会のメンバーに入ったことで慢心してトレーニングをやらなくなったなど、性格的な影響も見えてきます。極端に言えば、体組成は水を飲んだ影響についてもごまかしが効かないですから」

デジタルネイティブの高校生には、数字で示したほうが説得力がある。小島監督はそう考え、成長への道のりを明確に示している。

引き合いに出す一人が、今夏の大会を牽引したエース右腕の渡辺樹希だ。

「渡辺は入学時の球速が110km/h台だったけれど、143km/hまで出るようになったよ」

後輩たちにそう話し、渡辺の入学時から3年夏までの筋肉量の推移をグラフの推移で見せている。

「努力すれば、筋肉量は絶対に伸ばせる数値です。だから、『どんな方法でもいいから伸ばしてきてね』と。ワンタップを使えば、1年生にもそう示すことができます」

一人ひとりの選手は体つきが異なるなか、同じ土俵で比べられる方法もある。身長と除脂肪体重の相関を示すことだ(除脂肪量身長比=身長1mあたりの除脂肪量)。小島監督が説明する。

「身長と除脂肪体重の相関を出せば、『身長190cmの子と165cmの子は、いずれも36kg/m』などと平等に扱えます。この数値が高いのにパフォーマンスが低ければ、例えば『フォームに改善点がある』など努力の方向性を示してあげられる。チーム内でのランキングや、県内での立ち位置、さらに甲子園クラスやMLBと比較することもできます。
そうやって『君にはもっと筋肉量が必要だよね』と、より明確に示すことができるわけです」

北越が目指すのは、一人でも多くの部員に卒業後も野球を続けてもらうことだ。そのためには選手全員が野球を好きになり、うまくなる必要がある。

だからこそ小島監督はテクノロジーを最大限に活用し、「努力の方向性」を明確に示そうとしている。



(文・中島大輔 撮影・武山智史)

※後編へ続く
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著者プロフィール

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