【ONE TAP SPORTS活用法5回(後編)】遺伝子検査で個々の特徴を分析。自分を知り、成長曲線を描いて「逆転」へ
【©武山智史】
小島清監督が説明する。
「遺伝子の特徴がわかると、準備やトレーニングの仕方も変わってきます。走り込みをしないと球速が上がらない子がいれば、走り込みをしすぎると球速が落ちる子もいる。重い負荷のウエイトトレーニングをやりすぎるとマイナスに働く子もいるんです」
遺伝子検査を受けることで、心身のさまざまな特徴がわかるという。小島監督が続ける。
「筋肉を生成するのが得意か。速筋を発揮するのが得意か。骨が強いのか、弱いのか。血中の酸素の運搬能力が高いか。疲労が残りやすいか。筋肉に弾力性が高いか、否か。
『こういう選手は走り込みをたくさんした場合、抗酸化作用のある食べ物が必要』などもわかりやすい。あとはアドレナリンが出やすいか、出にくいか。いろいろわかるので、起用法にも役立てています」
遺伝子検査には一定の費用がかかるが、小島監督は「自信を持って指導したい」と保護者たちに了承を得ている。「全員を上達させる」ためには、個々の特徴を知ることが不可欠になるからだ。
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性格別で起用法を変える
例えばアドレナリンが出やすいか、否かだ。
「アドレナリンが出やすい子は、代打を伝えてもすぐに集中して打席に向かえます。対して、アドレナリンが出にくい子は起用を事前に伝えてあげないといけない。いきなり代打を伝えたら『今、自分が行くんですか……』となり、バットを1回も振らずに帰ってくることにもなりかねません。そうした子は徐々にアドレナリンが出るタイプなので、コツコツ努力し続けられると思います。
逆にアドレナリンが出やすい子は、起用を伝えた直後が一番いいパフォーマンスを出しやすい。だから事前に言うより、直前に伝えたほうがいい」
性格や考え方は、チームの勝敗にも影響を及ぼす。
一例を挙げると、ある試合で5打数1安打、3つの失策を記録した選手がいたとする。3つのエラーを引きずる選手がいれば、「俺、ヒット1本打ったぜ」とポジティブな結果に目を向ける選手もいるだろう。
「後者はある意味では空気を読めていませんが、だからこそ難しい局面を打破してくれる可能性があります」(小島監督)
5打数4安打、2本塁打の大活躍をすれば、多くの選手は明るい表情を浮かべるだろう。だか、なかには一つの失敗を引きずるタイプもいる。そんな選手たちに野球日誌を書かせる際、指導者はどんな声をかけるべきか。
「ポジティブな子には『反省点を見つけよう』と言い、ネガティブな子には『良かった点を洗い出そう』と伝えます。バランスをうまく取れる子が圧倒的に多いですが、極端な子には心のバランスを保たせることが必要です」
ちなみに小島監督の遺伝子検査を受けた結果、ネガティブなマインドだった。
「要はマイナス思考ということです。危機管理という意味では、指導者にはいいのかもしれません。でも、ポジティブな人はそもそも遺伝子検査を受けないようです(笑)」
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「個の勝負から逃げると勝てない」
競技特性上、野球の勝負は個の力で決まる割合が多いことに加え、上の世代で続けるには個の能力を伸ばすことが不可欠になるからだ。
「野球は勝敗の所在がはっきりするので、個の勝負から逃げると勝てません。そこは大事にしてあげたい部分です。うちの野球部は2年前に専用球場を作ってもらいましたが、それまで内野しか使えないような環境で何十年も取り組んできました。だから、もともとパート練習が多かったということもあります。それは今も変わりません。
毎週金曜はケースバッティングやシステムの確認をしていますが、残りの日はチームを細かく分けて、個々が必要なことを重点的に取り組んでいます」
どうすれば、野球部の全員がうまくなるのか。2年前に導入したワンタップスポーツからもさまざまなことが見えてくる。小島監督が続ける。
「指導者として適切に見極めなければいけないのが、プレーしながら直せるケガなのか、休まないといけないものかということです。
例えば、前者は肩の張りですね。ワンタップはそうした状態をつかみやすい。痛みに弱い子もいれば、隠す子もいるし、そもそも入力しない子もいます。それぞれの性格が出ますね。そうした点も踏まえ、遺伝子検査の結果とワンタップのデータから自分なりに考察を立てて見極めています」
正しい育成の先に
だが、さまざまなきっかけで指導スタイルを変え、「ストレスがなくなった」。
高校野球は大事な時間だが、同時に野球人生の通過点だ。小島監督はそう位置づけ、現在のアプローチに至った。
「強豪私学に行くようなスーパーレベルの子たちには、体力的な要素などを含めて高校3年間ではなかなか勝てないのが正直なところです。でも高校で野球をやめなければ、成長曲線を描いて大学で抜ける可能性がある。
上で野球を続けるためにも、選手たちは自分を知っておくことが大事です。『俺はこういうタイプだから、こうしなければいけない』と対処法がわかりますからね。そうやって正しく育成が進んでいった先に、勝利があると今は考えています」
高校生活最後の夏が終わっても、北越の3年生たちはそれまでと同じようにグラウンドに来て野球を続ける。そのなかには大学で硬式、準硬式や軟式で続ける者がいれば、高校で終止符を打つ者もいる。
それでもグラウンドに来るのは、純粋な動機があるからだ。
部員全員をうまくさせたい――。
根本にあるチーム方針こそ、北越のグラウンドに選手たちが集まってくる理由だろう。
(文・中島大輔 撮影・武山智史)
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